第10話 魔力開放

よし、一旦サラさんの暴走は見なかったことにしよう。それが良い。うん、それで良いんだ。俺は何も見なかった。触らぬ神に祟りなしだ。


「全然大丈夫だよ、わかりやすかったし。もっと魔法のこと教えて欲しいな。」


「そ、そう?良かったわ。じゃあ続けるわね。」


オリビアはまだぽかーんとしてるけど、何でだろうね、何かあったのかな?いや、何もなかったんだ。オリビア目を覚ませ。


「じゃあ、早速魔法の練習に入っていきましょうね。とはいってもいきなり魔法を使えるわけじゃ無いわ。


まずは魔力を感じるところから始めてもらうわ。今2人は魔力を感じれて無いでしょ?それも当然で、まだ魔力を開放できていないからなの。」


「かいほー?」


「そうよ、開放。魔法を使うための魔力を体の中から出せるようにするの。


まあ、とりあえずやってみましょ。言葉ではわからないこともあるわ。」


ふむふむ。要するに、今は体に栓がしてあるみたいな状況なのか。それを取り外すと、魔力を使えるようになると。


たしかに、年上の子達とか院長やサラさんは普段から少しずつ黄色のもやが体から出てたのに、俺とオリビアは出てないな。ハリーとジャックもそういや出てなかった気がする。


めちゃくちゃ微少だから気に求めてなかったけど、やっぱり黄色のもやの正体って魔力っぽいよな。


にしても魔力だとしたらなんで漏れ出てるんだろ。大切な魔力をわざわざ垂れ流してるとも思えないし、意図的じゃないはずだし。


でもさっきのサラさんが話してた魔力量の話から考えるに、元々その個人が持ってる魔力を小出しにしながら生涯を送るわけじゃなさそうだから、溢れてる分どっかで魔力が同数作られてるのかな。だからみんな魔力が漏れてるの気にしてないのかな。


「まずは体のどこかに意識を集中させてみて。体が温かくなっていくイメージをしながらがいいと思うわ。


っていうのも、やり方が確立されてるわけじゃないのよねこれ。体のどこに意識を集中させれば確実にっていう場所がないのよ。


ちなみに参考までに私の場合は両手を組んで、そこに意識を集中させてたら魔力が開放されたわ。


あと、魔力を開放できたらすぐに気づけると思うわ。明らかな変化を自分で感じられるから。


ここで1年止まることもあれば1ヶ月くらいで魔力が開放されて、次のステップにいけることもあるの。焦らずにゆっくりやっていきましょ。


じゃあ、始めて2人とも。」


・・・確立されてねーのかよ。3歳児に手探りでやれっていうのか。鬼かこの世界。


オリビアもう集中し始めてんだけど。疑問持った方がいいぞ、厳しくないか?ってな。


あー、でも俺がおかしいのか。前世があって比較しちゃってるから。この世界しか知らなかったら疑問も持たんわなぁ。たくましいわみんな。


えーっと、そんでどうすっかな。意識集中する箇所選ばなきゃ。まずはサラさんが言ってた、両手組んたところに集中だっけか。それ試してみよう。


・・・おっけー、全くわからん。俺魔力無いのかもしれない。属性で見栄えだけ良くなったけど中身ないみたいだわ。お疲れさん。

 

まあ、冗談だよ。流石に頑張るよ俺。


って言ってもなぁ、どうしよう。20歳までの前世がある分何も考えずに、集中して体が温かくなるイメージをしたら魔力出てくる!!って感じにもなれないなぁ。今だけ3歳児の無邪気さが欲しいよ。


・・・そうなると理論的に考えていくしかないな。まずなんで意識を集中させて、体が温かくなるイメージなんだ?


そこにヒントがあるんじゃないのか?一旦どこでもいいから意識を集中させてみよう。とりあえずこの3歳児のぷよぷよしたお腹にでもね。




・・・・・・自分の息遣いだけが聞こえる。意外とこの時間いいかも。リフレッシュになる。やったことないけど座禅ってこんな感じなのかな?


生きてるって感じがするな。まだまだ未発達の体だけど力強い鼓動を感じる。血液循環してる。人間ってすごい。人間最高。バッタとかに生まれ変わらなくて良かった。



・・・あ〜、もしかして血液か。思いつきだけど今めちゃくちゃしっくりきた。


血液に魔力が含有されてるなら、少しずつみんなの体からもやが溢れてるのもわかるかも。


呼吸で溢れてるのかとも考えたけど、別に魔力が漏れてるのって顔付近だけってわけでもないし。


どっかに魔力を作る器官みたいなのがあってそこから直接漏れてるかもっていうのも同じような理由で却下だし。


魔力を作る器官みたいなのが本当にあるかどうかはどうでもいいけど、そこで作られた魔力が血液に含有量されて全身に行き届いているなら、話は早い。


心臓だ。俺は今から心臓に全神経を集中させる。この仮説が正しければ心臓は、魔力が集まっては散ってを繰り返しているはず。まだ魔力無いけど。


なんなら、心臓で魔力を作ってる可能性まで考えられるが、どっちにしても心臓が大事な器官であることには違いない。魔力においても、人間が生きていくにおいても。


そうと決まればあとはやるだけだ。これで駄目だったら・・・また考えるしかないか。


集中しろ俺、次のステップに進むために。




心臓に意識を集中させてしばらく経つとライルの体に変化が訪れ始めた。


外から見ても明らかに雰囲気が変わっていくライルの様子に、飽きてしまったオリビアと話していたサラも口をつぐみ、まさかと思いつつもライルに注視した。


体がほんのりと心地よい温かさに包まれ、その心地よさを打ち消すように髪の毛が逆立ち、鳥肌がたつような感覚におそわれた。


心臓がドクドクと脈打ち、どんどん体が熱くなっていく。ライル全身が火照りながらも、心臓から意識を逸らさず、いや逸らせなくなっていた。


それ程までに意識を集中をさせていたのはもちろんのことだが、ライルは心臓から異質な存在を感じ取っていた。


その感覚を逃すまいとライルは更に深くにのめり込んでいった。




[サラ視点]


ライルの雰囲気が変わって数分が経ったけど、いまだに信じられない。


あの雰囲気には心当たりがあるどころか、ここ10年近くは毎年のように実際に見ているから、何の予兆なのかほぼ確信している。


でも、信じられないし理解できない。もう魔力開放を終わらせようとしてるなんて。


早い子でも大体1ヶ月、普通の子なら1年近くかかる。1年で魔力解放が終われば充分で、1ヶ月で終わろうものなら将来を有望視されていく。


そもそも3歳の子に長い時間深く集中してろ、というのは無理があるから本当に少しずつ進めていくものなのに。


ライルは前から他の子より頭抜けて賢くて、手のかからない子だった。なのに最近さらに急激な成長を繰り返しているように感じてた。


もうサラお母さんとも呼んでくれなくなっちゃったしね。はぁ、子供の成長は早いって言うけど早すぎよライルは。


でも、ライルがいい方向に他の子達と違うのはわかってた。鑑定の儀でもまさかの2属性持ちで、1つは希少な空間属性。


でもこれはさすがに予想してなかった。だって魔力開放の練習をし始めて1時間も経ってないのよ?


・・・私達夫婦が何不自由なくこの子を育てていくのは無理かもしれない。この子には更に高みへと導いてくれる環境が必要なのかもしれない。


そう感じざるを得ない、ライルの魔法師としての産声をライルの奥底から感じるわ。


ほら、もう終わっちゃったみたい。


「サラさん。もう僕は魔法が使えるの?」

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