第2話 自分の現状
・・・遊びの時間?みんな?
なんのことだろう。あっ!保育園とかにいるのかなもしかして。とりあえず話合わせとこ。
「うん、ちょっと動きすぎちゃったかも。みんなは今どこにいるの?」
「あっ、そうだそうだ忘れてた。今からちょうど夕食だから呼びに来たんだった。体調良くなったなら、いっぱい食べて大きくなれよ。」
男はそう言うと、俺の髪をわしゃわしゃと撫で回して踵を返した。
・・・なんかあったかいな。前世で親の愛を受けてないとかじゃないし、むしろ無償の愛をたくさんもらって育った。
ただ、大学生にもなれば頭をわしゃわしゃ撫で回されるなんてなかったし、別にして欲しいわけでもなかったけど・・・悪くないもんだな。
・・・母さん今頃何してるかなぁ。やべっ、急に泣きそうになってきた。
すごい愛情深い人だったし俺の存在、というか記憶ごとなくなってくれてると良いな。
いやでもそれも悲しいな。ただ、悲しんでも欲しくないな。・・・もうわからん!!
はぁ、一旦忘れよう。いや忘れられはしないんだろうけど、今は自分のことだ。前世を考えるのは後でいい。
そういやあの男って誰なんだろうな。最初は今世での父親かと思ったけど、保育園か幼稚園なら先生か?
ま、この後どうせすぐわかるし心の中での呼び方は一旦何でも良いか。おっさんでいいや。
ただ気になったのはあのおっさん今から夕食とか言ってたけど、今時の保育園とか幼稚園ってそんな遅くまで預かってくれる上に夕食まで出してくれるのか?
うーん、とりあえず着いてくか。どっちにしてもあのおっさんが悪い人には思えないしな。
おっさんに着いて廊下に出て行くと美味しそうな匂いが充満していた。その匂いを嗅ぐと、今更ながら自分が腹ペコだったことに気付いて少し苦笑した。
俺結構緊張してたんだな。まあ、当たり前か。こんなわけのわからない状況に置かれて何も感じないやつなんかいないと思うし。
おいしそうな匂いを嗅いで少しリラックスしながらそのまま歩いていくと、ガヤガヤと騒ぐ子供達の声が聞こえてきた。
先を歩いているおっさんがその声が聞こえてくる方のドアを開けると、
「みんな遅くなったな。ライルもう元気になってたから連れてきたぞ。ほらライル、そんなとこで突っ立ってないであそこの空いてる席にでも座ってこい。」
そこにいたのは10人ほどの年齢バラバラな子供たちだった。
・・・おかしいな。あの奥にいる子とか10歳くらいに見えるけど。あれ?ここ保育園じゃないのか?
困惑する俺の背中を軽く押して席に座れと催促してくるおっさん。一応空いている席に向かう俺だったが、考えが止まらない。
「ライル大丈夫だった?遊んでたら急に頭押さえながら気分悪そうにしてたから心配してたんだよ?」
1番年上に見える金髪の優しそうな顔をした少年が、心配そうにこちらを覗き込みながら話しかけてきた。
俺は、ちょっとそれどころじゃないから黙っててくれ、と言いたい気持ちを抑え込んで、
「うん今は大丈夫、心配してくれてありがとう!」
と、明るく振る舞った。その後も周りにいる子供たちから次々に心配と、回復したことに対する安心の言葉をかけられた。
ただ、1つわかったことがある。ここは日本じゃない。周りの子供達、顔立ちが日本人じゃなさすぎる。黒髪もいない。
インターナショナルスクールみたいな場所とも考えたが、にしては建物ボロすぎるし他言語が聞こえてくるわけでもない。建物に関しては完全な偏見だけど。
ただ、聞こえてくる言語が日本語以外ないのも気になる。日本ではないと自分の中でほぼ確定しているのに言語は日本語だけ。
ひとしきり周りのみんなと受け答えをした後に俺が考えの沼に沈んでいると、おっさんが1人の綺麗な女性を連れてきて、
「では、食材を提供してくれる街の人達に感謝を忘れずにな。よし、料理が冷めないうちに食べよう。」
その言葉を聞いた時、俺の中であった1つの仮説がほぼ確信に変わった。
そうかぁ、孤児院か。
俺は今世の人生の始まりに、思わず目を瞑って色々と考えてしまった。
孤児院が悪い場所だとは思わない。ただ一般家庭に生まれるよりは多少のハンディキャップになる場合はあるだろう。
1番は金銭的な部分だな。受けられるはずだった教育が受けられないかもしれない。好きなものを好きにおねだりするなんてこともしづらいだろう。
ただおっさん、というか多分この孤児院の院長が優しそうだったのは良かったな。正直、孤児院事情については全く詳しくないが、そんなに悪くされることは無さそうだ。
周りが食べ始めたので俺も目の前の料理を食べ始めたが、かなり美味しい。野菜も肉もパンもあってバランスも良さそう。発育過程には問題なさそう。
この野菜美味しいな。レタスみたいなんだけど食感がちょっと違うな。あれ?こっちの野菜もかぼちゃみたいだけど味が違うな。
食が口に合うのは良いことだけど、孤児院ってなるとやりたい仕事見つけて早く自立できるようにしないとな。俺はせっかく前世での知識があって、多分他の同世代よりはリードしている状態なんだ。
やりたいことをやれるように準備は進めないと。まずやりたいこと見つけるところからだけど。
自分の現状を大まかに把握できた上に、美味しい食事を堪能した俺はふと天井を見上げた。
何で見上げたのかはわからない。ただこの部屋に入った時から、そして自分の現状をなんとなく把握できた今になっても消えない心のもやがまだあった。
天井を見上げた俺の心の中には、ありえないと思っていた可能性が顔を覗かせてきて、その可能性が正解なんだと直感的に理解した。
なんで電球も蛍光灯もなくて、丸い光の球が浮いてるんだ?
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