第28話 YAH YAH YAH


【Doppelgänger:4】



 【ゲンガー】の妹を助けたあとは、みんなで食卓を囲んだ。

 俺は思わず、妹メアリーの味に泣いてしまった。

 くそ、俺としたことが……。

 まさかこの歳になって人前で泣くなんてな。

 思ってもみなかったぜ。


 けど、メアリーの料理はそれほど美味しかった。

 なにより、死んだ母親の味にすごく似ていたからだ。

 なんの因果なんだろうな。

 俺と【ゲンガー】は同じドッペル・ニコルソンという人間だ。

 だからその母と妹が、同じような味を好んでいても、おかしくはないってことなのかもな。

 

 血がつながっているようなものだもんな。

 直接の面識はなくても、なにかつながっているものがあるのかもしれないな。

 俺は幼いころに母親を亡くしている。

 けど、その料理の味はよく覚えていた。

 メアリーの料理が、遠い記憶の彼方にある母親の面影に、つなげてくれたような気がしたんだ。

 もうすっかり忘れたつもりになってたけどな。


 なんだか俺もいい気分だ。

 メアリーが無事に助かって、本当によかった。

 メアリーのことは、なにか他人とは思えない。

 実際、その顔も俺とよく似ているし、まるで最初から俺の妹だったかのようだ。

 まあ、俺と【ゲンガー】は同じドッペル・ニコルソンという人間だし、顔はまったく同じ。

 なら、俺とメアリーの顔が似ているのも当然の話ではあるがな。


 さて、メアリーもよくなったことだし。

 長居は無用だ。

 俺たちにはまだまだ他にやることがある。


「よし、【ゲンガー】次いくぞ」

「え……? 次って……? いくってどこに……?」

「は……? お前、忘れたのか? お前は俺に言っていただろう。パーティーを追放されたってな」

「うん、そうだけど……それがなんだっていうの?」


 まったく、こいつは俺と同じドッペル・ニコルソンのくせに、こうも中身が違うのか。

 つくづく、お人よしというか、間抜けな野郎だ。

 だけど、こいつも俺自身だと思うと、どうにも憎めねぇ。


「たしかロックスって野郎に追放されたんだったよな?」

「うん」

「俺はな、そのロックスとかいうアホが許せねえんだよ。お前をパーティーから追放しやがった、そのクソ野郎をな。だからそいつの顔を拝みにいく」

「えぇ……!? それまたなんで……」

「当たり前だろうが! お前は俺、つまり、ロックスはこの俺様をパーティーから追放して、ないがしろにしやがったんだ。俺に喧嘩を売ったも同然よ。お前が被ったマイナスは、全部俺にとってもマイナスだ。俺はお前なんだからな」

「えぇ……それはちょっと論理が飛躍しすぎなような気もするけどな……?」

「お前はムカつかねえのかよ? そのロックスとかいう野郎に。お前はさんざん無能だとか使えねえクズだって言われて追い出されたんだろ?」


 俺だったら、そんな仕打ちをうけたらクソムカつくね。

 少なくとも、黙ってパーティーから追放されるような真似はしない。

 むしろそのロックスとかいう奴を追放してやるよ。

 別に俺がなにかされたわけじゃねえけど、相棒がひどいめにあわされたんだ。

 そんなの、黙っていられるかよ。

 けど、【ゲンガー】はどうにもしっくり来ていない様子だ。


「うーんでも、僕が追放されたことはやっぱり、仕方ないよ」

「はぁ?」

「だって、僕の【ドッペルゲンガー】は正真正銘のクズスキルなんだよ? 君の【豪運】とは違う」

「でも、雑用なんかはしっかりこなしていたんだろう? お前はお前なりに頑張ってた。それに役にもたってた。妹のために必死でやってたんじゃねえのかよ」

「そうだけど……。でも、ロックスは僕のことなんか、全然見てくれてなかった……」

「お前はなにも間違っちゃいねえよ。自分にやれる範囲で、しっかりパーティーに貢献してたんだろうよ。ここにくるまでの数日間でそれは俺にもちゃんとわかったぜ。お前はスキルは使えねえかもしれないが、決して無能ってわけじゃない。妹のために、やれることを全力でやってきた男だよ」

「あ、ありがとう……。豪運……」

「それに、お前のスキルだって、まだクズスキルだって決まったわけじゃない」

「え……?」

「だって、まだどんなスキルなのか、理解できてないだけじゃねえか。もしかしたら、なにかの拍子で、すごいスキルに化けるかもしれねえ。まだあきらめるのは早いぜ。今はどんなスキルかわからないけど、そのうち花開くかもしれねえじゃねえか。どんなスキルだって、効果がまったくの無ってことはありえねえんだ。今のところなにも起こってねえだけで、なにか使い道はあるかもしれねえ」

「豪運……まさか君からそんな言葉を聞くなんてね。すごくうれしいよ、ありがとう。気休めでも、ありがたい」

「はぁ? 俺は決して気休めやくだらない慰めで言ってるわけじゃねえぜ。お前のその【ドッペルゲンガー】ってスキルには、絶対になにか秘められた能力があるって、そう確信して言ってるんだぜ。なんてったって、お前は俺だからな。俺のスキルは【豪運】だ。ドッペル・ニコルソンという男のスキルが、そんなしょぼいスキルなわけねえだろ? ぜってえなにか使い道があるはずだ。俺の豪運を信じろ」

「ありがとう……豪運……。いや、相棒。なんだか、今度はこっちが泣かされそうだよ……」


 相棒はうっすらと涙を浮かべた。

 おいおい、俺ってこんなに涙もろい男だったっけか?


「おうよ。相棒。だからよ、今から一緒に これから一緒に殴りに行こうか。そのロックスっていう馬鹿野郎をよ」

「うん……!」


 てなわけで、俺たちは俺を追放しやがったクソ野郎にお灸をすえるべく、奴のもとを目指し、再び旅立ったのであった。

 

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