第27話 妹


【Doppelgänger:6】



 ありがたいことに、もう一人の僕【豪運】の申し出で、妹を助けてもらえることになった。

 最初は乱暴な口調に戸惑って、本当になんなんだこいつは、と思ったけど。

 だけどやっぱり、彼も僕自身なのだと思った。

 同じドッペル・ニコルソン同士、助け合おうと言ってくれた。

 そのことを、本当にうれしく思う。


 僕たちは馬車に乗って、3日ほどかけて、僕の実家へとやってきた。

 僕の実家のある町は小さな港町で、気候も治安もいいところだ。

 久しぶりに妹のメアリーと会えるから、なんだかうれしい。


「メアリー、帰ったよ」

「こほん、こほん、お兄ちゃん……?」

「メアリー、身体が悪いんだから、起き上がらないで。今そっちにいくよ」


 メアリーはよほど僕のことが好きなのか、僕の声をきくなり、ベッドから立ち上がり、こちらへ向かってきてくれる。

 お手伝いさんがメアリーの弱った身体を支える。

 そして、メアリーが僕らの顔を見た瞬間だった。


「ぎゃあああああああ!!!? お兄ちゃんが二人いるうううううううう!?」

「め、メアリー……!?」


 メアリーは腰を抜かして、その場に倒れこんでしまった。

 しまった……。

 豪運にはどこかに隠れていてもらえばよかった……。

 さすがに、兄と同じ顔の人間がやってきたら、びっくりするよね……。


「メアリー……! 大丈夫か……!?」

「ど、どういうことなの……!?」


 メアリーをベッドにゆっくりと寝かせ、落ち着いたところで話をする。


「彼は……その……親戚の兄さんだ」

「親戚……? うちにそんなのいたの……?」

「あ、ああ……。とにかく、彼は親戚のゴーウンだ」

「そう……お兄ちゃんにそっくりなのね……。いくら親戚でも、まるで双子みたい……」

「まあね、従兄のような関係なんだ。かなり血が濃く出て、たまたま・・・・似てしまったみたいだ」

「そうなの……。不思議なこともあるのね……」


 なんとか誤魔化せただろうか……?

 まあメアリーは昔から、あまり深くは考えない子だから、大丈夫だろう。


「けほ……けほ……」

「メアリー。大丈夫かい?」

「うん、少し驚いたから、疲れただけ……。大丈夫よ。最近はすっごく調子がいいの」

「ごめんね、無理させて。でももう大丈夫だから」

「え……?」

「ゴーウン」


 僕は豪運に合図する。

 豪運はアイテムボックスから、エリクサーを取り出した。


「ああ、ほらよ。はやく使ってやれ」

「ああ。ありがとう」


 僕はメアリーにエリクサーを手渡した。


「お兄ちゃん……こ、これは……?」

「これはエリクサーだよ」

「ほんとに……!? ついに手に入れたのね……!? けど、いったいどうやって……。こんなもの……すぐに手に入るようなものではないでしょう?」

「それは、このゴーウンのおかげだよ。彼が譲ってくれたんだ」

「え……。そんな……いいのかしら。こんな貴重なもの」

「ああ、いいんだ。彼もお前がよくなるのを望んでいる」

「ああ……なんてお礼を言ったらいいか……」


 メアリーは、豪運に向かって、深々とお辞儀をして、涙を流して見せた。

 豪運は、柄にもなく顔を真っ赤にして照れる。


「ふん……その顔が見れただけで、俺は十分さ。さあ、さっさとエリクサーを飲め」

「わかったわ……。ほんとうに、ありがとうございました」


 メアリーは、意を決して、エリクサーを口にした。

 エリクサーを一思いに飲み干すと、メアリーの身体はまばゆい光に包み込まれた。

 発光がおさまると、メアリーの身体はすっかりよくなっていて、その顔色は快活そのものだ。


「メアリー……! よくなったんだね! ほんとうによかった!」

「お兄ちゃん……! ありがとう! ありがとう! ゴーウンさんも、ありがとう!!!!」


 僕はメアリーと抱き合って、泣いて喜んだ。

 ほんとうによかった。

 僕の悲願がかなった。

 もう僕に思い残すことはなにもないよ。

 妹がよくなって、ほんとうに豪運には感謝しかない。


「豪運、あらためてありがとう。僕からもお礼を言う」

「ふん、俺自身のことでもあるからな。別に感謝はいらない。俺の運さえあれば、エリクサーくらいどうにでもなる」

「まったく……君は素直じゃないな。僕と同じ人間とは思えないや」

「お前だって、俺からすれば似たようなもんだ」


 話をする僕と豪運を見て、メアリーは言った。


「ふふ……なんだか二人、ほんとうの兄弟みたい」





 そのあと、元気になったメアリーとたくさん話をした。

 これまでに僕がどんな冒険をしてきたのかとか……。

 豪運たちのこともたくさんきかせてもらった。

 最初は悪いやつなのかと思ったけど、話をきくと、そういうわけでもないようだ。

 豪運はこういう性格だが、根はすごくいいやつなんだとわかった。


 元気になったメアリーが、ぜひお礼をしたいと、料理を作ってくれた。

 メアリーが元気に料理をするのなんて、いったい何年ぶりだろうか。

 メアリーがまだ元気だったころは、こうしてよくスープを作ってくれたものだ。

 メアリーはぜひ豪運にスープを飲ませたいと、張り切って作った。

 そしてメアリー、僕、豪運、カレンティーナ、お手伝いさん、みんなで食卓を囲んで、夕飯を食べた。

 メアリーの作った料理はやっぱりおいしい。


 久しぶりに食べたけど、メアリーの腕は全然落ちていなかった。

 身体にさわるから、家事はお手伝いさんに任せろと、あれだけ言ってあったのに、この調子だと、もしかしたら隠れて定期的に料理をしていたのかもしれない。

 まあ、今となっては無事に元気になってくれたんだから、なにもいうことはないけどね。


「メアリー、とっても美味しいよ」

「よかった。お兄ちゃんが喜んでくれて。ゴーウンさんはどう?」


 メアリーがそう尋ねるも、豪運はさっきからずっと、目線を下にして、なにも言わずにもくもくと料理を口に運んでいる。


「ゴーウン……?」


 豪運の顔を覗き込むと、なんと彼は泣いていた。

 涙をかみしめて、嗚咽を我慢しながらスープを飲んでいたのだ。


「どうしたんだい? そんなに美味しかったの……?」


 いくらメアリーの料理がおいしくても、そんなに泣くこともないだろうと思う。

 豪運の答えは、意外なものだった。


「似てんだよ……クソ……なんでかな。なんでだよ……。っち……、とうの昔に忘れたつもりでいたのによ……ッ! なんでこうも似てんだよ。はは……不思議なもんだな……」

「え……?」


「悔しいぜ……。子供のころに食べた、母親の味そっくりだ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る