第29話 ざまぁ


【Doppelgänger:4】



 相棒を追放しやがったロックスに一泡吹かせるため、俺たちはロックスを探した。

 相棒の案内で、ロックスの行きつけの居酒屋で張っていたら、やつはすぐに現れた。

 ロックスはどうやら3人パーティーで行動しているようだ。


「よし、俺がちょっと行って懲らしめてくる。お前は物陰から見ていてくれ。たぶんそのほうが面白くなる」

「わ、わかったよ。君に任せる」


 相棒には物陰に隠れておいてもらうことにした。

 同じ人間が二人もいたらおかしいからな。

 ロックスには、俺のことを本物のドッペルだと思ってもらう必要がある。

 自分が追放し、見下していたドッペルという存在に、うちのめされる。そういう展開を演出したいからな。

 俺はカレンティーナを連れて、居酒屋へと入っていく。

 これ見よがしにカレンティーナの肩に腕をまわし、イチャイチャしながら中へ入っていく。


「よう、親父。酒を一杯もらおうか」


 俺は店内に響き渡るほどの大声で、わざときこえるように言った。

 するとそれに反応してロックス一味が俺の方を見る。

 ロックスは俺がドッペルであることに気づいたようで、立ち上がり近づいてきた。


「おやおや、これは誰かと思ったら、俺に追放されたドッペルじゃないか。こんなところで会うなんてなぁ。まだこの街にいたのか? てっきり冒険者引退して田舎に帰ったのかと思ったぜ」

「そういうお前は……誰だっけ?」


 俺がそういうと、ロックスは面白いように怒りをあらわにした。

 単純なやつだ。


「な……! このロックス様を忘れたとは言わせないぞ!」

「あー。そうだったそうだった。そういえばそんな奴いたなぁ……。影薄すぎて忘れてたわー」

「なんだと……!? お前、ドッペルのくせに調子に乗るなよ……? そんな女なんか連れて、身の程知らずなんだよ。俺に見せびらかすために、娼婦でも雇ったのか……?」

「いや? これは俺の女だが? なあ、カレンティーナ」


 俺はカレンティーナの尻を撫でながらそう言う。

 俺から見ても、カレンティーナは絶世の美女だ。

 自分が見下していた相手が、そんな美人を連れていて悔しいのだろう。

 ロックスのパーティーにいる女は、お世辞にも綺麗とはいいがたい。

 冒険者はまあ、みんな多かれ少なかれ怪我をするし、変な筋肉のつき方もするから、美人はあまり多くない。

 それにしても、ロックスの連れている女のレベルは低すぎる。

 ロックスの後ろから、奴の女が恨めしそうな目でカレンティーナをにらんでいるのが見える。

 カレンティーナは言った。


「そうよ。私はドッペル様のしもべ。あんたみたいな冴えない男とは違って、ドッペル様は最強の男なのよ? 臭いからその口、塞いでくれる?」


 カレンティーナはわざとロックスを挑発するようなことを言った。

 ロックスはまたしてもこっちの思惑通りに憤慨する。


「な……なんだと……!? くそ……なんでこんな美人がドッペルなんかと……」

「それは俺が魅力的で強い男だからさ」

「はぁ……? お前なんかゴミスキルの雑魚のくせに! 俺に追放された無能め! あまり調子に乗るな!」

「試してみるか? 俺を追放したことを後悔させてやるよ」

「っは! 望むところだ! 表へ出よう」


 ロックスは簡単に挑発に乗ってくれた。

 俺たちはそろって店の外へと出た。

 後ろから、野次馬たちがぞろぞろとついてくる。

 冒険者ってやつはみんな喧嘩が大好きだ。

 あっというまに、俺たちの周りにはぐるっと取り囲むほどのギャラリーが出来ていた。


「いいぜ、どっからでもこいよ」

「ドッペルのくせに! 殺してやるよ。死ねえええええ!」


 ロックスは剣を抜いて斬りかかってきた。

 うむ……なかなかの剣筋だが……。

 だが、俺にとってロックスの動きはまるで止まって見えた。

 奴のステータスはまあ冒険者としてはそこそこだが、俺には遠く及ばない。

 俺はやつの剣をさらっとかわし、その顔面に強烈なパンチを食らわせた。


「なに……!? ぐわぁ……!?」


 ――ドーン!


 ロックスは数メートル吹っ飛んで、店先に置いてあった酒樽の山に追突する。

 

「う……ぐ……俺の美しい顔面がぁあああ……くそ、どうなってんだ。ドッペルのくせに……」


 ロックスの鼻は折れて血が出ている。

 ざまぁねえぜ。


「どうだ? これでも俺が無能だっていうのか? 追放したことを後悔したか? 理解したら、潔く謝るんだな」

「誰が謝るかよ……! ドッペルのくせに! 雑魚のくせにいいいい!」


 ロックスは再び立ち上がると、また俺に向かってきた。

 さっきので剣はどっかに吹っ飛んでいったから、今度は素手で殴りかかってきた。

 俺はロックスの拳を真っ向から受け止める。


「なに……!?」


 ロックスの拳をパーで受け止めて、それを掴んで離さない。

 そのままロックスの腕を取り、俺は奴を宙に放り投げた。

 ――ぶん!


「うわぁあああ!」


 ――ドーン。


 ロックスは地面に勢いよく衝突。

 腰を打ち付けて立てない様子だ。


「いいぞおお! やっちまえ!」


 ギャラリーがヤジを飛ばす。


「言われなくても……!」


 俺は剣を抜き、宙に高く振り上げる。

 殺意をめいっぱい込めて。


「うわああああああやめろ! やめてくれええええええ! 殺さないで!!!!」


 ロックスは動けなくなっているようで、泣いて命乞いをするしかない。

 はっはっは、滑稽だな。

 

「死ねええええええ!」


 俺はロックスの足元をかすめて、地面に剣を叩きつけた。


 ――ドーン!


 ロックスは本当に斬られると思ったのか、目を瞑って頭を手で押さえている。

 ビビり野郎め。


「ひぃ……」

「安心しろ。殺すわけないだろうが」

「うう…………」


 ロックスは恐怖のあまり、失禁していた。


「どうだ? これで懲りただろう? 謝る気になったか?」

「わ……わかったよ……。くそ……悪かった。お前はもう十分強い。これでいいか……?」

「ふん……いいだろう。今日のところはこのくらいで許してやろう」

「な、なんでドッペルがこんなに強いんだよぉ…………」

 

 俺は剣を抜き、その場を去った。

 そして物陰で見ていた相棒と合流する。


「どうだった?」

「君のおかげで、すっきりしたよ。まさかあのロックスが泣いて詫びる姿が見られるなんてね……」

「はっはっは、傑作だったな」

「ありがとう、これでなんだか前に進める気がするよ」

「そりゃあよかった。お前は決して無能なんかじゃない。それを忘れるなよ」

「うん、ありがとう」


 さてと、俺にはもう一人、会わないといけないやつがいるんだよな……。


「よし、先にホテルに戻っていてくれるか? 俺にはまだやることがあるんだ」

「いいけど……。どうしたの?」

「謝らないといけないやつがいるんでな……。お前のことで、俺もいろいろ考えなおしたんだ」

「そっか……。それは、いいことだね」

「ああ、俺もお前には感謝してるよ。いろいろ俺に足りないもんを気づかせてくれた」


 俺は相棒とカレンティーナを先に帰すと、ある場所へと向かった。

 ジャクソンに会うために。

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