第25話 ドッペル


【Doppelgänger:6】



「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」

「そ、そんなぁ……!」


 僕はパーティーリーダーのロックスから追放を言い渡されてしまった。

 あまりにもの急な出来事に、頭が動かない。


「当たり前だろう? なにせお前にはゴミスキルしかないんだからなぁ……!」

「う……それは……そうだけど……」



 ――僕のスキルは、【ドッペルゲンガー】という謎のスキルだった。


 ドッペルゲンガー、なんていう言葉は、誰もきいたことがない。

 響からしても、異国の言葉なんじゃないかと思う。

 発動させてみても、なにかが起こるわけじゃないし、いったいなにに使うスキルなのか、さっぱり謎なのだ。

 スキルを鑑定してもらっても、その効果についてはわからなかった。


 この世界では、ひとりにつき、ひとつのスキルが与えられる。

 スキルを新しく覚えたりすることはできず、生まれ持ったスキルが才能のすべて。

 それだというのに、僕に与えられたのは、効果のわからない謎のスキルだけ。

 神様は、あまりにも不公平だ。

 僕がいったいなにをしたっていうんだ。


 最強のスキルじゃなくてもいい、だけどせめて、使い方くらいはわかるスキルがほしかった。

 それなのに、名前すら謎の、わけのわからないスキル。

 僕は最初、絶望した。

 だけど、冒険者になることだけは絶対、あきらめたくなかった。


 なぜなら、僕には大事な妹がいたからだ。

 妹は重い病気を抱えていた。

 そんな妹を救うためには、冒険者になるのが一番だと思ったのだ。

 なぜなら、冒険者になれば、自分で薬を探しにいくことができる。

 妹の病気は街の薬屋や医者では対処できなくて、エリクサーと呼ばれる幻の薬が必要だった。

 だけど、そんなエリクサーなんてしろもの、普通にはてにはいらない。


 エリクサーを持っているのなんて、第一線で活躍している、勇者級の冒険者くらいなものだ。

 僕も冒険者になれば、少しでもエリクサーに近づけると思ったのだ。

 宝箱からは、ごくごく少数の確率で、エリクサーが手に入ることがあるという。

 普通に働いていても、エリクサーなんて高価すぎて絶対に買えない。

 だとしたら、冒険者になって、自力で手に入れるしかないと思ったのだ。

 もしくは、エリクサーを持っている冒険者に近づけば、わけてもらえるかもしれない。


 それに、冒険者には資格も経歴も関係ない。

 ただ身体を張る覚悟さえあれば、誰だって冒険者になることができる。

 スキルに恵まれない僕は、医者にもなれないし、商人にもなれない。

 スキルがゴミでしかない僕になれるのは、せいぜい冒険者くらいだってっていうのもある。

 

 冒険者は、稼ぎとしても悪くない。

 命を危険にさらすというリスクはあるが、その分見返りはそれなりだ。

 妹の病気を治すために、エリクサーを手に入れるだけじゃなく、妹を食わせていかなければいけない。

 そのためには金がいる。

 僕は普段は冒険者として働かないといけないから、妹の面倒をみてくれる家政婦さんも必要だ。

 それらのいろんな条件を加味して、僕は冒険者を選んだ。


 スキルのない僕でも、ここまで冒険者を続けてこられたのにはわけがある。

 僕は、ゴミスキルでも冒険者になるために、必死に努力をしてきたのだ。

 あらゆる知識を図書館で勉強して身に着けた。

 そのおかげで、ダンジョンのトラップや植生には誰よりも詳しい。

 地図を書いたり読んだり、さまざまな知恵を身に着けた。

 言語もいろんなものを習得した。

 おかげで、亜人種ともやりとりできて、買い物をするときに便利だった。


 僕はパーティーの中で、あらゆる雑用もこなした。

 そうやって、僕は僕なりに、精一杯パーティーに貢献してきたつもりだ。

 戦闘面でも、最低限脚をひっぱらないように、努力してきた。

 僕のステータスは決して高くはないけど、努力でそれを補った。

 剣の扱いは、同年代の誰にも負けないつもりだ。


 ――それなのに。


「わかったらさっさと出ていけ! この使えないクズが!!!!」

「わ、わかったよ……」


 ロックスにいわれて、僕はしぶしぶ、パーティーをあとにした。

 ロックスのパーティーはそこそこ強くて、居心地もよかったんだけどなぁ……。

 他のパーティーが、ゴミスキルの僕を今更雇ってくれるとも思えないし……。

 これからどうしようかなぁ。

 行く当てもなく、僕はまちをさまよう。


 すると、いきなり後ろから声をかけられた。

 振り向くと、なんとそこには、僕とまったく同じ顔をした人間がいた。


「おい、お前……。なにもんだ?」


 こんなの、あり得ない。

 自分と同じ顔をした人間が現れるなんて……!


「なにって……君こそ……ど、どういうこと……!?」

「まず、お前の名前は……?」

「名前……ドッペル・ニコルソンだけど……?」

「そうか、やっぱりな。驚くなよ。俺もドッペル・ニコルソンなんだ」

「ええええええ……!?」

「どうやら、俺とお前はまったくの同じ人間らしいな。信じられないことに……」

「そうみたいだけど……ええええ……!? そんなことってあり得るの……!?」

「どうやらあり得るみたいだ……。まあ、立ち話もなんだ。とりあえず俺と一緒に来い」

「えええええ……!? わ、わかったよ…………」


 とりあえず、僕はもう一人の自分についていき、彼の泊っているホテルへと向かった。





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