第23話 考察


 やはり、いくら話してみても、話が食い違う。

 最初は話がかみ合わないことにいら立ちを覚える彼らだったが、だんだん怒りよりも不気味さが勝ってきた。


「おい、待ってくれ。ドッペルは俺のパーティーにいたんだぜ?」


 と言い出したのはノーキンである。


「お前もかよ……。いったいどうなってんだ……? ドッペルはいったい何者なんだよ?」


 バッカスは頭を抱えてしまった。

 ワルビルは必死に足りない頭を動かして考える。


「まるでキツネにつままれた気分だぜ……。どうもおかしい。そんなことって、あり得ないだろう? なんで同時期に同じ人間が、いろんな場所に存在できるんだ?」

「だよなぁ。絶対変だ。まるでドッペルが4人いるみたいだぜ……。そうじゃないと、こんなのってありえねえだろ?」


 マヌッケスが言ったその言葉に、ノーキンはなにか閃いた様子で。

 ノーキンは目を大きく見開いて、何かに気づいた。


「おいどうした、ノーキン?」


 バッカスが尋ねる。


「ドッペルが4人……と言えば……。俺、実はドッペルを2人見たんだ」

「はぁ……? ドッペルが2人? なにをわけのわからねえことを言っていやがる」

「う、嘘じゃねえほんとうだ……! ぽんぽこ堂っていう食堂があるだろ?」

「ああ、結構うまいよな。そういえばドッペルのやつ、よくあの食堂にいってたな……。それがどうしたってんだ?」

「実はこの前、ぽんぽこ堂に行ったとき、そこにドッペルがいたんだよ。あの野郎、俺に追放されたくせに、一丁前に調子にのって、客にチーズギューをふるまっていやがったんだ。あの雑魚がどうやってチーズギューなんか仕留めたのか知らねえがな。それで、俺はドッペルに話しかけた。そのとき、あいつは2人いたんだよ」


 とノーキンは自分の身に起こった不思議な出来事を話す。

 怪訝な顔をして、マヌッケスが応えた。


「はぁ……? ドッペルが二人いただって……? そんなのあり得ねえだろう。いくらなんでも。同じ人間が2人もいるなんてこと、絶対にありえねえ。そいつはノーキン、あんたが酒でも飲んでたからじゃねえのか?」

「いや、絶対に間違いねえ。あのとき俺はしらふだった。たしかに自分の目を疑ったさ。だけど、本当だ。あのときは、まあ不思議なこともあるもんだな……と思ったくらいだった。だけど、今日の出来事と合わせると、さらに不思議だ……」

「確かにな……。もしその話が本当だったら、俺たちの身に起こったことも説明がつく。ドッペルが複数人いれば、話のつじつまは合うぜ?」

「そういえばそのとき、もう一つ不思議だったんだよ。ドッペルのやろう、どっちも俺のことなんか知らんふりしやがって、無視しやがったんだ。まるで初対面の人間のように俺様をあしらいやがった。ありえねえだろ? あれだけ一緒に同じパーティーですごした仲だってのによ。あのとき、俺は追放された腹いせに、わざと他人のふりなんかしやがって……と思ったんだ」

「だけど、もしドッペルが複数人いれば……。それも説明がつくな」

「ああ、察しがいいな。そう、ドッペルがもし本当に複数人いるんだとしたら……。別のドッペルが俺のことを知らねえのも無理はねえ……」


 お互いの考えを話し合うにつれて、4人とも、だんだんと状況を理解しつつあった。

 どうやらドッペルの身に、なにか不思議なことが起こっているようだ、と。


「しかもよ、さらに不思議なことに、そのときぽんぽこ堂で会ったドッペルは俺の知ってるドッペルと性格が違ったんだよな。俺のパーティーにいたドッペルは、もっとおどおどしたやつだった。一人称も僕だったしよ」

「おい、そいつは変だな。俺のパーティーにいたドッペルは、そんな奴じゃなかったぜ? あいつはおどおど

なんてタイプじゃねえ。なんていうか、もっと鼻持ちならねえやつだ。無能のくせに、態度だけは毅然としてて、思い出してもムカつくぜ」


 ノーキンとバッカスの意見が食い違う。


「もしかして、まじでドッペルは複数人いるってのか? そんなの信じられねえな……」

「でもよ、状況証拠だけ見れば、そういうことになるぜ? 俺もたしかに信じられねえが……。どうやらドッペルって男は、俺たちの知ってるドッペルだけじゃねえみたいだ」

「これはもう、信じるしかねえのかもな……。ドッペルはどうやら、二人……いや、それ以上か。何人もいるってことだ」


 自分たちで言っていても、にわかには信じられない4人。


「そういえば、昨日村の酒場で会ったドッペルも、俺たちの知ってるドッペルとは性格が違ったな」


 ノーキンが鋭い考察を落とす。

 それに応えたのはワルビルだ。


「そういえばそうだ。ドッペルはたしかにむかつく野郎だが、あんな感じに粗野なタイプじゃねえ。それに、あんなに強くもないはずだ」

「しかも酒場のドッペルは、俺たちのことを知らなかったよな?」

「じゃあ、あいつはまったく別のドッペルってことか……?」

「どうやらそうみたいだな……。いったいドッペルは何人いるんだ……?」

「そもそもなんであいつは複数人いる? なにかのスキルの影響か……?」

「いや待て、あいつのスキルはしょぼい雑魚スキル【爆発】だ。そんな分身術みてえな真似はできねえだろ」

「おい待てノーキン。お前今、ドッペルのスキルが【爆発】だって言ったか?」

「ああ、そうだが……?」

「おかしいな。そこも食い違う。俺の知ってるドッペルのスキルは【融合】だ」

「はぁ……!? じゃあスキルも違うってのか……!? おい、他の二人はどうなんだ……?」

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