第22話 集合
森の中央で、バッカス、マヌッケス、ノーキン、ワルビルの4人は、まるで導かれるようにして出くわした。
それぞれお互いに面識は、もちろんない。
しかし、ドッペル(豪運)にボコボコにされたとき、一度酒場で会っている。
まず、バッカスが最初に口を開いた。
「なんだぁ? こんな森の中で人に出会うとは……。しかも、4人同時に……」
それにマヌッケスが続く。
「どうやらみんな冒険者のようだが……。クエスト中か? それにしても、お前らどこかで見たことのあるような顔だな……?」
ノーキンが応えた。
「おう、俺はお前らに見覚えがあるぜ。お前ら村の酒場にいたやつだろう? 違うか? ドッペルにボコボコにされてたやつらだ」
ノーキンの言葉で、みんなそれぞれ酒場での状況を思い出した。
そういえば、自分のほかにもドッペルに突っかかっていたやつがいたな……と。
ワルビルが口を開く。
「そういうてめえも、ドッペルに殴られてたじゃねえか」
「うるせえ。あれはたまたまだ。このノーキン様がドッペルなんかにやられるわけねえだろうが。あれはなにかの間違いなんだよ」
「俺だってそうだぜ。このワルビル様がドッペルごときにやられるわけねえってんだ」
ノーキンとワルビルの会話をきいていたバッカスが、あることに思い至る。
「おい、ちょっと待てよ? お前ら今ドッペルって言ったな?」
「あん? それがどうかしたか?」
「お前らもドッペルと知り合いなのか? ていうか、酒場でもお前ら、ドッペルと喧嘩してたよな? まさかここにいる全員、ドッペルを知っている……?」
「たしかに……それは妙な話だぜ。そんな偶然ってあるのかよ? たしかに俺はドッペルとは知り合いだ。だけど、まさかお前らも……?」
4人は互いに顔を見合わせ合った。
なにかおかしなことが起こっている、それだけはあまり賢いとは言えない彼らにも感じとれた。
「よし、状況を整理しようか。というかまず、それぞれの名前を教えてくれ。俺様はバッカスだ」
「俺はマヌッケス」
「俺はノーキンだ」
「俺はワルビルだぜ」
自己紹介を軽く済ませる。
なぜか最初に口を開いた、バッカスがこの場を取り仕切っていた。
「状況を整理しよう。俺たちは全員、酒場にいた。そしてみんなドッペルに突っかかって、ボコボコにされた……。これはまあ、不本意ではあるがな。それは間違いないな?」
「ああ、そうだぜ。マジでムカつくけどよ」
「よし、じゃあ聞くが、お前らはそもそもドッペルとはどういう知り合いなんだ? ちなみに俺は、ドッペルとは同じパーティーにいたんだ。あいつは俺のパーティーにいた。なにせ、同じ村出身の幼馴染だからな。んで、つい最近ドッペルを追放したとこだったんだよ。それで、たまたまあのとき、酒場で再会したってわけだ」
とバッカスは自分とドッペルのこれまでの顛末を話した。
それに対して口をはさんだのはマヌッケスだ。
「おい、ちょっと待てよ。バッカスとやら」
「あん? なんか俺に文句があんのか?」
「いやそうじゃねえ。おかしいんだ。それじゃあつじつまが合わねえ」
「は……?」
「実はよ、俺もドッペルと同じパーティーにいたんだ。あいつは俺のパーティーにいたんだよ。んで、俺はあいつが無能だったから、追放してやったんだ。そしたらたまたま、あの酒場で再会したってわけよ」
「いやいや、おかしいだろそりゃあ。あいつは俺のパーティーにいたんだぞ? なんでお前さんのパーティーにも所属できるってんだ。あいつはずっと俺と一緒にいた。他のパーティーに浮気する暇なんかなかったはずだぜ」
「でもよ、俺だって、そこそこ長い時間、ドッペルとは一緒にいたぜ? んで、追放したのもごく最近の話だ」
「おかしいな……。それじゃあドッペルが2人いねえとつじつまが合わねえぜ?」
「俺が間違ってるっていってんのかてめえ?」
「いや、そうはいってねえじゃねえか。それじゃあ俺が嘘言ってるってか? てめえ、文句あるのかよ?」
「おう? やるか……?」
「いい度胸だ。かかってこいよ」
言い争いヒートアップするバッカスとマヌッケス。
二人とも短気で単純な性格だから、すぐに喧嘩になってしまう。
ある意味では似た者同士だが、それ故に相性は悪いのかもしれない。
同族嫌悪というやつだ。
いまにも喧嘩がはじまりそうな二人の間に割って入ったのが、ワルビルである。
「おいちょっと待て。それどころじゃねえ。お前らきけ」
「あん……? なんだ?」
「実は俺もずっとドッペルと同じパーティーにいたんだ。あいつは俺のパーティーの雑用係だったんだよ。嘘じゃねえ本当だ。んで、俺はあいつにムカついて、追放したんだ」
「はぁ……? なに言ってんだ……? それじゃあ俺と言ってることが一緒じゃねえか」
「だからそう言ってんだよ。俺らはなぜかおんなじエピソードを話してる」
「い、意味わかんねぇよ…………」
「俺がドッペルを追放したあとに、お前さんのパーティーに加入したってわけじゃねえんだよな?」
「いや、そんなわけねえ。俺はドッペルとかなり長い間一緒にいたし、追放したのもここ数日のことだ」
「俺も一緒だ……。俺も、追放したのは最近のことだ」
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