第14話 融合


「ちょっと待って、僕たちを融合するって、どういうこと……!?」


 拡大の突然の提案に、融合が困惑の声を漏らす。


「そのままの通りだ。俺たちは寸分たがわず、同じ顔をしているだろ? だったら、ポーションとかと同じように、俺たちだって融合できるんじゃないのか……?」

「そ、それは確かにそうかもしれないけど……」

「一応きくが、その融合は、あとから分裂……つまり、元に戻すこともできるのか?」

「うん、できるよ」

「よし、なら試してみようじゃないか」

「うぇぇ!?本気!?」


 ということで、俺たちは人間融合を試してみることにした。

 試してみる価値はある。

 この世界のどこにも、俺たちほど同じ顔をした人間はいないだろうからな。

 人間融合を試せるのも、俺たちしかいないだろう。


「よし、じゃあまずは俺と拡大を融合してみてくれ」


 まずは俺が名乗りをあげた。


「わ、わかった……いくよ……」

「おう」

「えい! 融合!」


 その瞬間――


 俺の肉体に、拡大の肉体が吸い込まれていった。

 いや、俺のほうが吸い込まれていったのか……?


 う…………。

 頭痛が俺をおそう。


 しばらくして、頭痛がおさまり、目を開けてみる。


「あ…………うわ…………なんだこれ………………」


 なんというか、言い知れぬ違和感があった。

 俺は俺自身なのに、拡大でもある。

 拡大の持っていた記憶が、一気に俺に流れ込んできた。

 俺は二人の別々の人間から、一人の人間になったのだ。

 融合って、こういうことなのか……!?


 一人目の俺と、二人目の俺、その両方の記憶、思考、価値観が、今では俺という一人の人間の中に存在している。


「どう? どんな感じ?」


 爆発がきいてくる。


「まさに……これは融合という感じだな……。二人の人間が一人の人間になった。お互いの考えがすべて手に取るようにわかる感じだ。お互いの記憶が、お互いの中に流れ込んだ。もはや俺たちは、すべてを共有している」

「へぇ……なんだか奇妙な感じだね……」

「ああ、実に気味が悪い……」


 ためしに、ステータスを見てみることにした。

 融合したことで、もしかしたらステータスにも変化があるかもしれない。

 

「ステータスオープン!」


 

=============

 ドッペル・ニコルソン

 男

 17歳


 Lv   1

 HP   22

 MP   22

 攻撃力   2

 防御力   2

 魔法攻撃力 2

 魔法防御力 2

 敏捷    2

 運     2


 スキル

 ・投石

 ・拡大

=============



「おお……! これはすごい! 俺たちのステータスが見事に加算されている……!」


 俺たちのステータスはもともと、HP、MP以外はオール1だった。

 だが、二人が融合したことで、それらが2になっている。


「これはすごいな……あれほどステータスが上がらなかったこの俺が……ついに……!」

「ほんと……すごいね……!」


 そしてさらに驚くべきは、スキルが2つあるということだ。

 この世界では、すべての人間が、平等に1個のスキルを持っている。

 どんな人間でも、スキルの数は必ず1個と決まっているのだ。

 だが、俺だけが、なんとスキルを2つも持っている……。

 これは、この世界の理を根底から覆すような出来事だ。


「ありえない……。すげぇ……はは……」


 まさか本当に融合できてしまうとは……。


「なあ、試しに全員で融合してみないか?」

「そ、そうだね。そしたら、さらにステータスが上がるってことだもんね」

「ああ、そういうことだ。それに、記憶の共有もできる。いちいちお互いに話し合ったりしなくても、お互いの考えもわかるしな。今後のことも考えて、一度感覚を共有しておこう」

「うん、わかった」


 ということで、今度は4人全員で融合することにした。


「自分自身を融合素材にすることってできるのかな……。やったことないからわからないや……」

「まあ、ものは試しだ。やってみてくれ」

「わかった、いくよ。えい!」


 すると、今度は4人がそれぞれの肉体に吸い込まれていき――記憶が混ざり合う。

 感覚がごちゃまぜになって、誰が誰だかわからなくなる。


 しばらくめまいと頭痛が続いて――。


 俺は目を開けた。


「ふぅ……。これで、成功したのか……?」


 なんだか実感がわかない。

 だが、さっきまでこの部屋に4人の俺がいたのに、今では俺は一人になっていた。


 なんだか、こうして一人になってみると、もとから俺は一人の人間だったのではないかとすら思えてくる。

 さっきまでのあれは、俺が見ていた幻覚だったのではないかと……。

 だが、たしかに今、俺の中には、4人分の人生の記憶が存在している。


「よし、ステータスを確認してみよう……」


 

=============

 ドッペル・ニコルソン

 男

 17歳


 Lv   1

 HP   44

 MP   44

 攻撃力   4

 防御力   4

 魔法攻撃力 4

 魔法防御力 4

 敏捷    4

 運     4


 スキル

 ・投石

 ・拡大

 ・爆発

 ・融合

=============



「すげぇ……スキルが4つもある……」


 そんな人間は、この世界でこの俺ただ一人だろう。

 だが、これはかなり便利だな……。


 ちなみに、どうやら年齢とレベルだけは融合しても変わらないようだ。

 もし年齢が4倍になったりなんかしたら、おじいさんになっちまうからな……。


「ちょっと待てよ……この融合ってスキル……。もしかして、無限の可能性があるんじゃないか……?」


 融合を使えば、複数人いるドッペル・ニコルソンを一つにすることができる。

 大勢の俺がいれば、それぞれに性格が違うし、意見がわかれることもあるだろう。

 だが、融合で一人になってしまえば、それは自分自身の中での葛藤にとどまる。

 別に、融合したからといって、他の人格が消えるわけではない。

 俺という一人の中に、4人全員の魂、人格、意識が存在している。

 それらは混ざり合って、今では一人の俺という人間を構築していた。


 もしかしたら、人間というのはもともとそういうものなのかもしれない――複数の要素がまじりあって、複雑な一人の人間を作り出す。

 だから、別に他の人格が混ざり合ったとしても、俺という自我は崩壊しない。

 もともと人間というのは一人の人間であっても、いろんな矛盾する価値観を持って、矛盾の中で生きているものだ。


 融合で一人になれば、食費もひとり分で済む。

 お互いに話し合ったりすることも必要ない。

 スキルだって増えるし、ステータスも上がる。

 融合って、いいことずくめじゃないか?


 もし、もしもだ。

 もし俺、ドッペル・ニコルソンが、俺たち4人のほかにもいるのであれば?

 まあ、3人いたのなら、4人目も現れるということは簡単に予想できた。

 なら、きっと5人目6人目もいるのだろう。


 もしかしたら、この世界には無数の俺が存在するのかもしれない。

 だったら、それらすべてを融合してしまえばいいんじゃないか?

 だいいち、同じ人間が複数いるというのがおかしな話なのだ。

 だったら一つにしてしまえばいい。


 そうすれば、知識も増えるし、記憶も増える。

 無限の俺がいれば、ステータスだって無限だ。

 スキルだって、どんどん増えるぞ。

 俺は、俺にであれば出会うだけ、ステータスとスキルを増やすことができる。

 これって、すさまじいことじゃないか……?


「はは……! おもしろくなってきた……!」

 

 俺は次なる俺を探す――。

 

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