第13話 並行世界仮説


【Doppelgänger:1】



 

 とりあえず、意識を失った4人目の俺を、俺たちは3人で宿まで運んだ。

 しばらく寝かせておくと、ようやく目が覚めた。


「お、起きたか」

「うぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!?!?!?!?」


 あやうくもう一度失神しそうな4人目を俺たちはなんとか正気に戻す。


「えい!」


 とりあえず、5人目の頭を叩いた。


「いった……!? な、なにするんだ……!」

「よし、いいか? とりあえず話をきけ」

「って……うわあああああああああああ!!!!」

「おい、落ち着けって……」

「だ、だって……僕が3人もいるうううううううううう!!!!」

「いや、お前を含めれば4人だな」

「いやああああああああああ!!!!」


 4人目の俺は、あまりにもの出来事に叫び散らかしていた。

 いつまでも叫んでいて、なかなか落ち着いてくれない。

 俺は拡大と顔を見合わせる。


「なあ、こいつは本当に俺なのか……?」

「まあ、顔を見る限りはそうだろうな……」

「だけどさすがに、落ち着きがなさすぎないか? 俺はもっと冷静な人間なはずだが……。ここまで取り乱すなんて……情けない……」

「まあたしかに、爆発よりもさらに臆病なやつだな……」


 俺たちは顔を見合わせて、困ってしまった。

 このままじゃ話もできない。

 そっから、何分たっただろうか。

 ようやく状況になれてきたようで、4人目も落ち着きをとりもどしてきた。


「これでようやく話せそうか?」

「ちょ、ちょっと待って……どういうこと……!? 僕が4人もいるなんて……」

「まあ、そのことについては俺たちもまだよくわかっていないんだ……。とりあえず、お前も俺たちの仲間に加われ。お前も俺であることに変わりはないんだ。一緒に事態を解決しよう」

「解決って……どうやって……?」

 

 拡大が横から口を挟む。


「うーん? たしかに、俺たちの場合、いったいなにが解決なんだ? どうなったら事態が収束したことになるっていうんだ?」


 爆発がそれに応える。


「元の一人に戻るとか?」

「ちょっと待て、誰がいったい元の一人なんだよ? いっただろ、俺たちは全員がオリジナルだ。誰が一番とか二番とか、そういうのはなしだ。それに、それぞれに生まれたときから今までの記憶があるだろ? 俺たちは別に、ある日急に4つに分裂したとかではなさそうだぞ?」

「うーん、確かに……多重人格者の話とかはきいたことがあるけど、これはそういうのとは違いそうだしねぇ……?」

「俺の予想だとな。俺たちはもともと、別の世界線にいたんじゃないかな?」

「別の世界線?」

「つまり、並行世界だよ。それぞれ別の世界の俺だったんだけど、それがどういうわけか、ある日世界がごtまぜになったんだ」

「まあ、そう言うこともあり得るかもしれないね? だけど、だったらなにが解決? それぞれが元の世界に戻ること……?」

「うーん、どうなんだろうな。俺のはあくまで仮説でしかない」


 どうやらこのまま話し合っていても、解決しそうにないな。

 そういった、根本原因は、どうやっても解明できなさそうだ。

 それよりは、もっと現実的なことを考えよう。


「俺たちは全員、それぞれ別のパーティーに追放された……。これは間違いないな?」


 俺は4人目の俺に確認する。


「うん、そうだね……。追放されて、いきばがなくて、ふらふらしてたところを、君たちにつかまった」

「まあ、俺たちは全員だいたいそういう流れで出会っている。追放されて、金も仕事もなくて、集まった4人だ。俺たちはパーティーを追放された。だけど、生きていなくちゃならないだろう?」

「そうだね」

「生きていくには金がいる。金を稼ぐには、仲間がいる。だったら、ちょうどいいじゃないか。自分自身ってのは、他の誰よりも信頼できる。俺たちで協力して生きていこう。俺たちはそれぞれはハズレスキルしかない、ちっぽけな存在だ。だけど、力を合わせれば、なんだってできる。そうだろ?」


 ところで――と、爆発が手を挙げる。


「4人目の君は、スキルはなんなのかな……? まあ、君も追放されたってことは、どうせ大したスキルじゃないんだろうけど……」

「まあ、そうだね……。僕のスキルは【融合】だ……」

「融合……?」


 じゃあ、今後は4人目のこいつのことは融合と呼ぶことにしよう。


「その融合ってのは、どういうスキルなんだ?」

「同じものを融合するスキルだよ。例えば、ポーションを5つ合わせれば、ハイポーションと同じものができる」

「ほう……それは案外、便利そうだな……?」

「それがそうでもないんだよ……。コストとパフォーマンスが釣り合わなくてね……」

「そうなのか……」


 俺のスキルは投石、そこに拡大、爆発ときて、融合か……。

 これまでのスキルは、それぞれ組み合わせによる相乗効果シナジーがあったが……。

 融合はどうやって活用すればいいんだろうな?

 一見して、俺たちのスキルを増強するようなものではなさそうだが……。

 そう思っていると、先ほどからなにやら思索にふけっていた拡大が、なにか閃いたように手をあげた。


「なあ、今……同じものを融合するって言ったか……?」

「うん、そうだけど……」

「俺、思いついたんだけどな……」

「うん」


「俺たちを融合するってのはどうだ……?」

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