第12話 四?五?人目のドッペル


【Doppelgänger:5】



 

「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」

「そんな、どうしてなんだ!」


 パーティーリーダーのワルビルからいきなり追放を言い渡されて、僕は抗議の声をあげる。

 ワルビルは歯並びと目つきの悪い長身の男だ。

 いったいどうして、僕が追放されないといけないのだろう。


「当たり前だろう? お前はゴミスキルしかもっていないんだからなぁ!」

「うぅ……確かにそうだけど……、でも僕だって役に立とうと雑用や荷物持ちをしてきたじゃないか!」

「うるせえ! 追放ったら追放だ! てめえなんか全然役に立ってねえんだよ!」

「そんな……!」

「なあ? キルケ、お前もそう思うよな?」


 ワルビルは仲間のキルケに同意を求める。

 キルケは背の低い金髪おかっぱの青年だ。

 キルケは僕と仲がいいから、擁護してくれるはず……そう思っていたのに……!


「ほんと、そうですよ、ドッペルはなんの役にも立っていません」

「だよなぁ? がっはっは!」


 ひどい……! まさかキルケまでそんなふうに思っていたなんて……!

 信じていた仲間たちにこんなふうに思われていたなんて、すごくショックだ……。

 

「じゃあな、お前は2度と俺たちの前に顔を出すんじゃない。死にたくなかったら、今すぐここから出ていけ!」

「うぅ…………」


 僕はしぶしぶ、宿から出る。

 あのままいたら、ワルビルがきれてなにをしだすかわからないからな……。

 ワルビルは力が強くて、おっかないんだよな……。

 僕なんかじゃ、逆らうことはできない。

 なにせ、僕のスキルはほんとに、使い物にならない。


 僕のスキルは【融合】というわけのわからないスキルだった。

 いったいなにに役立てればいいのかわからない。

【融合】は、同じものをくっつけて、1個にするというスキルだ。

 例えば、薬草を2個用意する。

 それをこのスキルで、一つにすることができる。

 で、だからなんだっていう感じのスキルだ。


 まあ、薬草の場合、2個合わせれば、2倍の効果になる。

 だけど、それならわざわざ融合しなくても、2個使えばいいだけの話だ。

 それに、この融合はとても厄介なところがある。

 それは、「同じもの」しか融合できないというところだ。

 この「同じもの」という定義の範囲が、かなり狭い。


 薬草っていうのは、自然に生えているものが多い。

 だから、融合しようとする薬草と薬草に、差異があると、うまくいかないのだ。

 だから、かなりキレイな状態の薬草どうしでしか、融合はできない。

 例えば、片方の薬草が虫食いになっていると、融合は発動しないのだ。

 だから、剣や、硬貨などは比較的融合しやすい。

 だけど、ちょっとの傷やなんかで融合できなくなったりするから、ほんとうに扱いが難しいのだ。


 まあ、ちょっとくらいは便利な部分がある。

 それは、省スペースになることだ。

 アイテムを持ちすぎると、荷物が増える。

 だけどそういうときに融合で、同じアイテムをまとめておけば、かなりの省スペースになる。

 ポーションをいくつかまとめておけば、効力の高いポーションが作れたりもする。

 それに、たくさんポーションを持ち歩かないでもよかったりするしね。

 だから、そういう部分では、便利なところもある。


 だけど、普通は冒険者はそこまでの大けがはしない。

 優秀な冒険者ほど、けがをしないように、作戦をたてて、行動するものだ。

 だから、ポーションの効力をあげれても、あまり意味はない。

 例えばだが、ハイポーションはHPを500回復する。

 そしてポーションはHPを100回復する。

 つまり、融合によってハイポーション並みのポーションを作ろうと思えば、ポーションを5つ融合させる必要があるのだ。

 だけど、ポーションを5つ買うよりも、ハイポーションを1つ買ったほうが、値段が安い。

 だから、僕の融合のスキルは、あまり役に立つとは言えないのだ。


 同じ理由で、武器もそうだ。

 攻撃力10の武器を5個買って、融合して、攻撃力50の剣をつくるよりも、最初から攻撃力50の剣を買った方が、安くつくのだ。

 そんな使い道がよくわからないのが、僕の融合スキルなのだ。


「はぁ……これからどうしようかな……」


 いくあてもなく街を歩いてみる。

 すると、


 ぽんぽこ堂の前を歩いていたときだった。


 いきなり、なぞの3人組に声をかけられる。


 「「「よお」」」


 振り返って、顔をよく見ると――。


 なんとそこには、僕とまったく同じ顔をした男が、3人立っていた。

 い、意味が分からない……!??!?!?

 幽霊……!??!?!

 幻覚……!??!?!?

 とにかく、わけがわからなくて、叫んだ。


「うわああああああああああ……!??!?!?!?!!」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る