第6話 三人目のドッペル


【Doppelgänger:3】


 

 

「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」


 いきなりそんなことを言われて、僕はたいへん驚いた。

 パーティリーダーのノーキンは、その大きな体で僕を威嚇しながら、そんなことを言う。


「ちょっと待ってよ、ノーキン。どうして僕が……」

「うるせえよ! 俺に口答えすんじゃねえ! 雑魚が……!」

「う……ごめん……」


 僕はいつもこうだった。

 身体の大きなノーキンが怖くて、彼に逆らえない。

 だけど、僕なりにノーキンの役に立とうと、今まで頑張ってきたのに。

 それをいきなり追放だなんて、ちょっと酷いんじゃないかな?


「せめて理由を説明してくれないかな……?」

「いいだろう。おい、ガス。このノータリンに説明してやれ」


 ノーキンに呼ばれて、ガスが僕の前に立ちはだかる。

 ガスはメガネをかけた、ノーキンの腰ぎんちゃくだ。


「いいでしょう。まず、ドッペルくん。あなたのスキルは使い物にならない。それが理由の一つですね」

「そ、そんな……!」

「確かにあなたのスキル【爆発】は、一見強そうに見えます。私たちも、最初は有用なスキルかと思いました。だからこそ、あなたをパーティに加入させた。だけど、実際はどうですか? あなたのスキルはゴミスキルもいいところ。なんの役にも立ちません」

「そ、それはそうかもしれないけど……!」

「あなたは私たちを騙したのですよ! その一見強そうなスキルでまんまと騙して、パーティに加入させた。あなたはとんだ詐欺師です!」

「そ、そんなつもりは……。だって、最初にちゃんと説明したじゃないか……!」

「やかましい! あなたは我々をペテンにかけた。こちらとしては冒険者ギルドにいいつけて、裁判をしてもいいんですよ? それを追放でゆるしてやろうという、ノーキン様のご慈悲がわからないのですか?」

「うう…………」


 僕のスキルは、ガスの言う通り、【爆発】だ。

 これはありとあらゆるものを爆発させるという、文字通りのスキルだ。

 だけど、それには制限がかなりある……。

 まず、地面と接しているものは爆発できない。

 つまり、家や、壁、ダンジョンの天井など、そういった、背景や設置物は爆発できないのだ。

 

 爆発可能なものは、宙に浮いているもののみになる。

 それから、空気や塵なんていう曖昧なものは爆発できない。

 ある程度以上の固形物じゃないと、爆発できないのだ。

 無の空間を爆発させることはできない。

 埃や砂のような細かすぎるものもダメだ。

 小石程度なら爆発させることがようやく可能になる。


 だけど、小石を爆発させることにそれほど意味はない。

 爆発の威力は、爆発させるものの大きさに関係してくる。

 だから、小石を爆発させたところで、大した威力にはならないのだ。

 理想は、巨大な岩を爆発させることだけど――でも、巨大な岩を放り投げることなんて、僕の力ではできないしな……。

 それに都合よく、ダンジョンの中に巨大な岩が落ちているわけでもないし。


 そして、爆発には当然、魔力を消費する。

 ここがちょっと厄介なところなんだ。

 爆発させる対象物が価値のあるものであればあるほど、必要な魔力は大きくなる。

 つまり、金塊や鉱石を爆発させようと思うと、かなりの魔力を消費するのだ。

 だから、僕が爆発させられるのは、せいぜい小石や葉っぱくらいなもの。

 だけど、小石を爆発させても、あまりダメージは与えられない。

 まあ、つまり……僕の爆発スキルは、話だけきくと、一見強そうに見えるものの……使い物にならないゴミスキルなのだ。

 それは、僕も認めよう。


「だけど僕は、自分なりにいろいろ頑張ってきたつもりだ! 荷物持ちや雑用で、僕は十分に役に立ってたはず! それに、知識だって……。ダンジョンの罠を解除していたのも僕だ。食べられる植物を調べるのも僕だし。戦いのときの陣形や、戦略も僕まかせじゃないか!」

「うるせえよ! もううんざりなんだよ! てめえみたいな雑魚の言うことをきくのはよ。俺にもプライドがあるんだ。お前のような雑魚に命令されたくないね」

「ぼ、僕は別に命令なんか……」

「とにかく、お前はもう用済みなんだよ! お前の代わりに、もっと優秀なやつを雇っているんだ。しかもそいつは女だからな。お前と違って、いろいろと使えるぜ」

「そうか……、わかったよ。僕はもういらないんだね……」

「ああ、そういうことだ。わかったらとっとと出ていきやがれ」

「ぼくより優秀な人が入るのなら、まあ大丈夫だとは思うけど……最後に一つ忠告だ。嘆きの森にはいかないほうがいい。あそこは危険だから」

「うるせえよ。最後まで命令するつもりか? 誰がてめえみたいな雑魚の話をきくかよ。わかったらとっとと失せろ」

「うう……わかったよ……。僕は、忠告はしたからね……」


 僕は大人しく、彼らのもとから去った。

 これ以上なにを言っても無駄だと思ったからだ。

 それに、ノーキンをこれ以上怒らせると、彼はなにをするかわからない。

 手を出されたら、僕なんかじゃひとたまりもないからね……。


 さて、だけど、これからどうしようかな……。

 僕一人で、これからどう生きていけばいいんだ……?

 僕は行く当てもなく、街をぶらぶらと歩く。

 しばらく歩いていると、後ろから、なにやら声がきこえてきた。


「おい、いたぞ……!」

「ああ、あいつだ。間違いない」


 何事だろうか……?

 もしかして、指名手配犯でも見つかったのかな?

 そんなことを思っていると、いきなり、後ろから肩をつかまれる。

 ぼ、僕……!?

 いや、僕はなにもしてないんだけど!?

 まさか、カツアゲ!?

 

「や、やめてください! 僕はお金もってません!」

 

 僕は恐ろしさのあまり、目を瞑って、しゃがみ込む。


「なんだ? こいつ……。本当にこいつか?」

「いや、見た目はたしかにそうだぞ……」

「おい、俺たちはなにもしない。味方だ。だからとにかく、こっちを見ろ」


 うずくまる僕に、声の主はそんなことを言ってくる。

 味方……?

 だけど、この街に他に知り合いなんていないはずだけど……?

 味方って、どういうことなのだろうか。

 僕は恐る恐る、顔を上げて、彼らのほうを見る。

 すると、そこにはなんと、同じ顔をした人間が二人、立っていた。

 しかも、彼らは僕と同じ顔をしていた。

 い、意味が分からない……。


 同じ人間が三人いる……!?

 しかも彼らの服装まで、僕とそっくりだった。

 いったいどういうことなんだ。

 僕は幻覚でも見ているのか……!?


「お前、名前は?」


 同じ顔をした二人は、突然そんなことをきいてきた。


「ドッペル……ドッペル・ニコルソン……だけど……」

「ほら、やっぱりな」

「ど、どういうこと……?」

「俺たちも、見ての通り、ドッペル・ニコルソンなんだ」

「えぇ……!? ほんとうにどういうことなの……!?」




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