第7話 三人寄れば文殊の知恵


【Doppelgänger:1】


 

 

 三人目の俺を確保した俺たちは話し合いをすることにした。

 状況を整理しよう。

 俺たちは、とりあえず、宿をとって、その一室に集まった。

 

「まずは自己紹介からだ。俺はドッペル・ニコルソン」

「俺もドッペル・ニコルソン」

「ぼくもドッペル・ニコルソンです……」


 つまり、この場所には俺が三人いる。

 

「なあ、いったいこれはどういうことなんだろうな? 同じ人間が三人いるなんて、あり得るのか?」

「だが実際にここに三人目が現れた」


 俺と拡大は頭を悩ませる。

 三人目の俺はまだ状況を飲み込めていないようで、困惑した表情でこたえる。


「あのー僕まだ理解できていないんですけど……。これはなにかのいたずら? それとも幻覚?」

「残念ながら、これは現実だ。ところでだが……お前、なにかお前だけ俺たちと少し違うくないか?」

「そうですか? 僕にはみんな同じに見えるけど……。ほら、ほくろや傷の位置まで一緒だ……」

「いや、見た目のことじゃない。お前は性格がかなり違う気がするぞ? 一人称も僕だし、なにかおどおどした感じがある。お前はそれでもドッペル・ニコルソンなのか?」

「そんなこと言われても……僕はずっとこんな感じで生きてきたんだから……」

「まあ、いいだろう。どうやら俺たちは少しづつ性格が違うようだ」


 人数が増えるにつれて、いろいろなことがわかってきた。


「あの……僕思うんだけど……。これ、もしかしてまだ増える可能性あるのかな? 4人目が出てきたり……」

「それは、当然、あり得るだろうな。というか、ここまできたら、むしろないほうがおかしい。三回あることはまたあるというじゃないか」

「だよね……。はぁ……どうなっているんだこれ……」

「まあ、いいじゃないか。前向きに考えよう。俺が増えるということは、仲間が増えるということじゃないか。敵が増えるよりいいだろ?」

「でも、必ずしも仲間とは限らないんじゃないかな?」

「ん? どういうことだ?」

「それぞれ性格が違うように、価値観も違うかもしれない。もしかしたら、中には、敵対心をもってくるドッペル・ニコルソンもあらわれるかもしれないってことだよ。そうなったら、かなり厄介なことになるよ。だって、自分自身と戦うってことだからね」

「なるほどな……確かにその可能性も否定できない……。そこに気づくとは、さすがは俺だ。やるな」

「えへへ」

 

 次に、誰に追放されたかだ。

 それについても整理しておこう。


「俺は、バッカスという男に追放されたんだ。お前たちは?」

「俺はマヌッケスという奴だ」

「僕は、ノーキンという男に……」

「食堂で会ったやつだな」


 これですべてがつながった。

 三人目を追放したノーキンというやつに、たまたま俺たちは出くわしたのだ。

 そして、ノーキンは俺たちのことを三人目だと思い、突っかかってきた。

 だが当然、俺たちはノーキンのことなんか知らないわけだから、かみ合わなかったのだ。


「三人目、すまない。次にノーキンに街で会ったら、お前は殺されるかもしれない」

「えぇ……!? なにがあったの……!? こ、困るんだけど……!?」

「大丈夫だ、安心しろ。俺たちは三人いる。協力して身を守ろう」

 

 ちなみに、お互いにお互いの元パーティメンバーとは面識がないようだ。

 次に、確認しておくべきはスキルだ。

 

「それで、三人目。お前のスキルはなんだ?」

「スキル? 一緒なんじゃないの?」

「それが、どうやら違うっぽいぞ。ちなみに俺は投石で、こいつは拡大だ。ややこしいから、名前じゃなくてスキル名で呼ぶことにしているんだ。お前もいつまでも三人目だとややこしい。今後のためにも、スキルを教えてくれ」

「僕は、【爆発】っていうスキルなんだけど……」

「おお……!?」


 俺と拡大は目を大きく見開いて驚いた。

 爆発、その名前だけきくと、かなり強そうなんだが?

 少なくとも、投石なんていうふざけたゴミスキルよりはいくらかマシに思える。

 なにかを爆発させる能力なのだろうから、攻撃につかえそうだ。

 こんなやつが追放されるとは思えないんだがな。


「あ、今二人とも、僕のスキルが強いかもしれないと思ったでしょ……」

「違うのか?」

「残念ながらね……。僕の爆発スキルにはいろいろと制約がありすぎる……。まず、地面とくっついているものは爆発できない。宙に浮いていないといけないんだ。それに、高価なものは爆発できない。例えばだけど、投げた小石程度のものしか爆発させられないんだよ……。小石だと、爆発させても大した威力にならないから、無意味なんだけどね。ね? 僕のスキルも、見事なゴミスキルでしょ……?」


 爆発は、そんなふうにして自分のことを語った。

 しかしちょっと待て……。

 俺と拡大はすでに気づいていた。

 俺たちは顔を見合わせて、にんまりとする。


「おいお前、今とんでもないことを言ったぞ」

「え……?」

「まだ気づいてないのか?」

「うん? なんのこと?」

「お前、投げた小石程度なら爆発できるといったよな?」

「そうだね」

「もしその小石が、空中で急に巨大な岩になった場合……それも爆発させられるか?」

「可能だよ。宙に浮いてさえいればね。だけど、どうやってそんなこと……? 巨大な岩を投げることができれば話は別だけど、そんなこと不可能でしょ? 空中で急に小石が岩に変化することなんて……あ……」

「やっと気づいたか」


 俺たちは三人して、顔を見合わせて、にやけてしまう。


「まず、俺が投石で石を投げる。それから、拡大がそれを拡大させ、巨大な岩にする。そしたらそれが落下するまえに、爆発、お前がそれを爆発させるんだ」

「なるほど、そうか! それなら、空中で岩を爆発させられる……!」

「そう、俺たち三人のスキルを合わせれば、巨大な岩を投げつけ、爆発させて攻撃することができるんだ!」

「ゴミスキルも、集めれば有用ってわけだ」

「まさに、三人寄れば文殊の知恵というやつだ」

「知恵というにはちょっと暴力的だけどね……」


 思いついたからには試すしかない。

 俺たちはさっそく、またクエストを受けることにした。

 人数が増えたから、またあらたにパーティメンバー申請をしなければならない。

 二人のときは双子の兄弟だと誤魔化せたが、三人いるから、どうしようか……?

 さすがに兄弟が増えました、じゃあ怪しまれるよな……?

 

「よし、お前たち、俺に考えがある」

 




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