第5話 投石


「よし、俺が投石で、まず奴らの気を引く」

「わかった」


 俺はチーズギューの群れに向かって、投石をした。

 しかし、チーズギューは素早く、それを避ける。

 チーズギューは運動神経がいいし、警戒心が強いから、普通に投石をして、拡大したのだと、倒せないだろう。

 だが、こちらへ気を引くことには成功した。

 チーズギューの群れは俺たちのほうをにらみつける。

 そして、勢いをつけて、こちらに向かって突進してきた。


「よし……!」

「グモオオオオオオオ!!!!」


 ――ドドドドドドドドド。


 チーズギューは一度突進しだすと、急には止まれない。

 俺は目の前に、投石をした。

 そして――。


「今だ……! 目いっぱい大きくしろ!」

「わかった! 拡大!」


 拡大が、拡大スキルを放つ。

 すると、チーズギューの目の前に、いきなり超巨大な岩が出現する。

 さっきまで俺たちのことを追いかけていたはずなのに、その間に大岩が出現したのだ。

 チーズギューたちは、急に現れた岩に驚いて、ブレーキをかけようとする――が、止まれない。

 そのまま、目の前の大岩に、チーズギューたちは突進していった。


 ――ドシーン!!!!

 

 チーズギューたちは堅い大岩に、頭からぶつかって、脳震盪を起こす。

 そのまま、チーズギューたちはクラクラと混乱して、倒れた。


「よし、とどめだ!」


 俺は倒れたチーズギューたちの頭上に投石する。

 それを拡大が拡大し、チーズギューたちの頭蓋に巨石が落下する。


 ――ズドーン!!!!


 チーズギューたちはきゅうと鳴いて絶命した。


「よし……! チーズギュー5頭討伐完了だ!」

「すげえ! 俺たち、やったな!」

「ああ……!」


 これは、自分でも驚くような成果だった。

 なにせ、俺には【投石】という雑魚スキルしかなかった。

 だが、どうだ? 今や、その投石が役に立ったではないか!

 ハズレスキルだと思われてた投石で、俺はチーズギューを仕留めた!

 ステータスにもスキルにも恵まれなかったこの俺が、自力でモンスターを仕留めたのだ。

 それは、俺が二人いたから可能だったわけだ。

 俺たちはハイタッチで喜んだ。


 ギルドからは、クエストの報酬として、2000Gが支払われた。

 よし、これだけあれば、しばらくの宿代と、食費になるぞ。

 なんとか俺たちだけでも、野垂れ死には避けられそうだ。

 この調子なら、俺たちだけでも冒険者としてやっていけるかもしれない。


 そしてなんといっても、チーズギューだ。

 ギルドにチーズギューの死体をもっていくと、解体してくれた。

 チーズギューの中で、武器や防具の素材となる部位は、ギルドが持って行く。

 だが、チーズギューの肉とチーズは討伐した俺たちのものだった。

 

 俺たちはさっそく、チーズと肉をもって、最寄りの食堂に駆けこむ。

 俺がよくいく食堂――ぽんぽこ堂へとやってきた。


「おい、ここにはよく来るのか?」

「ああ、そうだけど?」


 拡大が俺に尋ねてきた。


「実は俺もだ……」

「なに……!? マジか……」

「どういうことなんだろうな? 俺たち、同じ街で生活していて、同じ食堂に通っていた。今まで、よく鉢合わせにならなかったな?」

「そうだな……。その辺は謎だな……。まあいいや、さっさと肉が食いたい。細かいことは腹ごしらえの後だ」

「お、そうだな」


 俺はキッチンへ行くと、食堂の親父に声をかけた。


「おい親父、これを調理してくれ!」

「おお、ドッペルじゃねえか。って、ドッペルが二人……!?」

「あ…………」


 拡大のやつめ、変装でもしてくれればいいのに、あくまで自分がオリジナルなつもりなのだろうか。

 拡大は、決して変装したり、隠れたりすることを嫌がった。

 まあ、俺だって、俺がオリジナルだと思っているから、そこはお互い様か。


「どういうことなんだ? ドッペルが二人……? お前さん、兄弟なんかいたのか?」

「あ、ああ……。こいつは俺の兄だ。最近よく会うようになってな。と、とにかく……。チーズギューを仕留めたんだ。調理してくれ」

「ああ、かまわないが……。お前さん、パーティメンバーはどうしたんだ?」

「あ、ああ……。パーティは解散したんだ。今は兄弟でやってる」

「なるほど、なにか訳ありらしいな? まあ細かいことはきかねえよ。よし、待ってな。今調理してやる」

「ああ、ありがとう。そうだ。チーズギューは5頭分ある。二人じゃ食べきれないから、せっかくだから、今日は店にいるみんなに振舞ってやってくれ。俺の奢りだ。この店にはいつもお世話になってるからな」

「おお……! そうか、それはありがてえ、俺もありがたくいただくよ。まあ、お前さんは毎日きてくれるからな。ほんと、いい常連だよ」

「毎日……?」


 どういうことなのだろうか……?

 俺は、せいぜい、この店にくるのは、週に一度くらいなものだ。

 常連ではあるけど、毎日通うほど美味くはないぞ?


 俺は拡大と顔を見合わせる。


「おい、お前、そんなにこの店にきてたのか?」

「いや、俺は週一だが……? お前じゃないのか?」

「いや、俺も週一程度しかこない」

「どういうことなんだ……?」

 

 まさか……いや、まさかな……。

 俺たち二人以外にも、俺がいるのか……?

 そんなことって……。

 

 不思議に思いながらも、俺たちはとりあえず、テーブル席に座る。

 キッチンの奥から、食堂の親父が、店にいるみんなに大声で話しかける。


「おいてめえら! 今日はなんとチーズギューが5頭分も手に入った! そこに座っているドッペル兄弟からの奢りだとよ! ありがたくいただこうぜええええ!!!!」


 すると、食堂は歓喜の声で大盛り上がりになった。

 酒飲みたちがいっせいに立ち上がって、雄たけびを上げる。

 店はこれまでにないほど振動していた。


「うおおおおおおおおお! チーズだ! 肉だ! 最高だ!」

「ドッペルに感謝! ドッペル万歳!」

「FOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


 なんだか、ここまで喜んでもらえると、嬉しいな。

 苦労して倒した甲斐があったというものだ。


 そのときだった。


「ん……? ドッペルだと……?」


 俺たちの目の前に、いきなり見知らぬ男がやってきた。

 男は成人男性二人ぶんくらいある大男で、いかつい目つきをしていた。


「おい、ドッペルじゃねえか。こんなところで何してやがんだ? チーズギューなんてどこで手に入れたんだよ?」


 おい、ドッペルじゃねえか。と言われても……こいつは誰だ?

 俺はこんな奴知らないんだけど……?

 拡大のほうを見やる。

 しかし、拡大も、知らない知らないと、首を横に振る。

 どうやら俺たち、どちらの知り合いでもなさそうだ。

 だが、男はなぜか俺たちの名前を知っている。


「というか……? ん……? なんでドッペルが二人いるんだ……? まあ、いい。お前なぁ。あまり調子に乗るなよ? 俺様に追い出されたばかりだってのに、やけに調子よさそうじゃないか?」


 追い出された……?

 どういうことなんだ。

 こんな奴にはあったことすらないのに……。


「おい、待ってくれ。さっきから何の話をしているんだ? よくわからないよ。確かに俺はドッペルだが。あんたのことなんか知らない……。どこかで会ったか……?」


 俺がそう言うと、男は怒りをあらわにした。

 まるで火がついたかのように、血管を浮き立たせ、怒鳴り散らす。


「ああん!? 俺様を憎むあまり、他人のフリしようってのか!? てめえ、ドッペルのくせにいい度胸じゃねえか。チーズギューの差し入れしたりして、てめえ調子にのってんのか!?」

「いや……本当に知らないんだ……。人違いじゃないのか……?」

「てめえええええ殺す……!!!! このノーキン様を忘れたとは言わせねえぞ!」


 男はいきなり、俺たちに殴りかかろうとしてきた。

 しかし――。


「おいおい、店で暴れられたら困る。これ以上なにかするなら、出ていってもらおうか?」


 キッチンから親父がでてきて、男のことを止める。

 それに便乗するように、店中の客たちから、ノーキンに向かって、罵声が飛ぶ。


「そうだそうだ! 喧嘩はやめろー!」

「ドッペルは肉を食わせてくれるんだぞ!」

「ドッペルの敵は俺たちの敵だ!」

「おっさん失せろ! うぜえんだよ!」

「邪魔すんじゃねー!」


 さすがにここまで冒険者たちに囲まれて、文句を言われたのでは、ノーキンもたまらないようだ。

 大人しく、ノーキンはこぶしをひっこめた。

 そして、舌打ちをして、不満そうに店を出ていく。


「っち……。今日のところは許してやるよ……。だが次に街であったら容赦しねえからな……」


 俺は拡大と顔を見合わせる。


「なんだったんだ今のは……」

「さぁ……」

「考えたくはないんだがな……。これはつまり……」

「ああ、そういうことだろうな……」


「「どうやら俺はもう一人いるらしい……」」




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