第4話 差異


 どうやら俺たちのスキルは組み合わせるとかなり相乗効果があることが判明した。

 俺たちが二人合わされば、もしかしたらとんでもないことができるかもしれない。


「ところでだ」

「なんだ……?」

「俺たちは同じ人間が二人いるよな? これって、わかりにくくないか?」

「何が言いたい?」


 もう一人の俺は怪訝な顔をする。

 そう、問題というのはこれだ。

 俺はこいつのことを、いちいちもう一人の俺だとかっていう呼び方をしないといけない。

 なにか呼び名があればいいのだが、俺もこいつもドッペル・ニコルソン。同じ名前なので、名前で呼び合うにしてもややこしい。


「お前なにか名前を変えないか?」

「はぁ? なんで俺が……!? 俺はドッペル・ニコルソン以外のなにものでもない。俺は自分の名前を捨てるつもりなんかないよ」

「俺もドッペル・ニコルソンなわけだが……。これじゃあややこしいだろう? そうだな、お前はドッペル2を名乗るのはどうだ? 俺はドッペル1だ」

「ちょっと待て、なんで俺が2でお前が1なんだよ。それじゃあ不公平だ。俺たちは同じ人間なんだから、優劣はないはずだろ?」

「そうだな……。じゃあ、スキルの名前で呼び合うのはどうだ? 俺のことは【投石】と呼ぶ。お前のことは【拡大】と呼ぶ」

「うーん、なんだか名前という感じがしないし……珍妙な呼び名だが、まあいい。それが一番いいだろうな」

「よし、よろしく頼むな、拡大」

「ああ、よろしく、投石」


 俺たちはさっそく、自分たちの可能性を試してみることにした。

 まずは冒険者ギルドにいって、パーティ登録をする。


「あの……パーティ登録をしたいんですけど」


 俺たちが冒険者ギルドにいくと、受付嬢さんは困惑の表情を浮かべた。

 俺たちの顔を左右に交互に見比べて、困った顔をしている。


「あの……? もしかして、双子の兄弟かなにかですか?」

「「あ…………」」


 失念していた。

 俺たちは同じ顔だ。

 同じ顔の人間が二人そろってパーティ申請をしにきたら、そりゃあ奇妙にも思われるというものだ。


「そ、そうです…………な、なあ。ドゲヘル兄さん」


 俺は拡大に向かってそう投げかける。


「おいなんだその変な名前は」

「いいから、話を合わせろ」


 俺は拡大の横腹を肘でつつきながら、小声でそう命令する。

 拡大はしぶしぶ了承して、苦笑いをしながら、こういった。


「そ、そうですぅ……。ドゲヘルとドッペルの双子の兄弟なんです、あははは……。くそう、なんで俺が別の名前を……」

「いいから、今だけだから、とりあえずそう書いておけ」


 あとから戸籍を調べられたりしたら面倒だが、いまどきの冒険者ギルドはそこまでしない。

 多くの冒険者は登録して半年以内に死ぬんだから、いちいち不正を疑ったりはしないのだ。

 俺たちは、冒険者パーティ登録書に、とりあえず双子として名前を書いておいた。


「はい、これで登録は完了です。さっそくクエストを受けられますか?」

「はい、そうします」


 俺たちはさっそく、手ごろなクエストを手に取った。


【チーズギューの討伐】


 Dランクのクエストだ。

 Dランクにしては報酬がいいので、これにした。


「これをお願いします」

「はい、わかりました。チーズギューはこの時期、凶暴化していて手ごわいので、気を付けてくださいね」

「はい」


 クエストを受けた俺たちは、さっそく草原へやってきた。

 チーズギューは草原に住む、凶暴な牛のモンスターだ。

 チーズギューの血液は、チーズでできている。

 なので、チーズギューからはたくさんのおいしいチーズがとれるから、市場で人気なのだ。

 チーズギューを倒せば、今夜は美味しいチーズフォンデュが食べられるぞ。

 チーズにチーズギューの肉を絡めて食べるのが、絶品なのだ。


 草原を歩いていると、さっそくチーズギューを見つけた。


「おい、どうやって倒す?」

「当然、投石を使うに決まってるだろ」

「だが、チーズギューは動きが素早い。あの突進を喰らったら、俺たちはひとたまりもないぞ」

「そうだな……。こうしようまずは俺が投石する」

 

 俺は、目の前の地面に石を投げつけた。


「それで? これがなんだっていうんだ?」

「よし、この石を拡大で大きくしてくれ」

「わかった……」


 拡大が石を拡大すると、目の前に大きな岩が現れた。


「これをどうするんだ?」

「チーズギューをこの岩に突進させる。そうすれば、あいつらはお陀仏だ。チーズギューは一度突進しだすと止まらないからな。それを利用する」

「なるほど……! お前俺のくせに俺より賢いな」

「どうやら、俺たちは微妙に知能に差があるようだな?」

「そんな言い方するなよ……。俺が馬鹿みたいじゃないか。俺も一応、お前なんだぞ?」

「悪い悪い。個性ととらえよう。見た目が同じだけど、俺たちはそれぞれ個性のある人間だというわけだ」

「そうだな。なんだか微妙に、性格も違うような気がするな」


 それは俺も感じていた。

 しばらく一緒にすごして思ったが、俺と拡大は同じ人間でありながら、微妙に考え方や性格にずれがあるようだ。

 まあ、思考回路まですべて同じだと、それはそれで怖いけどな。

 それだったら、そもそも同じ言葉を同時に発して、会話にならなさそうだ。

 だが根本的な価値観などは、俺自身のもののような気がする。

 ただし、女の好みは別のようだ。

 さっきの受付嬢さんを、こいつは鼻を伸ばして眺めていたが、俺のほうはというと、特に好みではない。

 育ってきた環境が違うから、好き嫌いは否めないのかな。

 いわば、こいつは別の育ち方をしてきた、別の世界線の、あり得たはずの俺、ということなのかもしれない。

 だが、まったく同じ人間だというわけではない、というのは、ある意味強みでもあると思う。

 同じ考えだと、力を合わせる意味がないからな。

 違う考えを持ったもう一人の俺、というのは、これ以上ない頼もしい味方になりうるだろう。

 もしかしたらこいつから、俺にはない発想が出てくるかもしれないわけだしな。

 同じ考えをしていたら、同じ間違いを犯してしまいかねない。

 違う考えならば、お互いに欠点をカバーし合うこともできるというわけだ。


「さて、今夜はチーズギューを美味しくいただくとするか……」

「おう……!」


 俺たちは行動を開始した。

 



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