第7章 祝いの言葉

第18話 祝の言葉


 訓練が終わり、食堂へ向かう。

 マツの訓練では、手も足も出なかったが

『まだ魔術に慣れていないだけで、少し慣れれば大体分かってきます』

 とのことだが、不安で仕方がない。


 3人はテーブルを囲み、先程の訓練の話をしだした。


「マツ様、私、自信がなくなってしまいましたよ。これでは、とてもトミヤス道場の高弟、などと言えませんね」


 アルマダはがっくりしている。


「大丈夫ですよ。次にはもう慣れてしまいますよ」


「そうでしょうか・・・」


「ええ。今回で、基本的な形はお見せしました。もう、同じものには対応出来ましょう?」


「出来ると思います・・・おそらく、ですけど」


「なら、他の魔術でも大丈夫ですよ。同じようなものです。あとは、他の種類の魔術の長所や短所、その種類でなければ出来ない所を覚えるだけです。最初に、形が分かりやすい土の魔術にして良かった」


「他の種類の、長所短所は、例えばどんなものがありますか」


「先程も申しましたけど、例えば火の長所。実体がなくて斬れませんよね。それに熱いから、広く効果を及ぼしますよね」


「ええ」


「ですけど、土の魔術みたいに、穴を掘ったりするのは難しいですね。あと、小さな火では、軽い火傷が良い所で、効果がありません。大きな魔力で、すごく熱くしませんと。あと、魔術と言えば定番の、火の玉。あれも、飛びながら熱が逃げていきますから、遠くまで飛ばしたり、長い間浮かせたりしようとしたら、すごい魔力を使うんですよ」


「なるほど」


 マツは小首をかしげ、少し考えた。


「火の攻撃魔術は・・・うーん、そうですね・・・一発勝負の大技、みたいな感じですね。もちろん、唱える人の魔力が多かったり、呪文や札を使えば別ですけど」


 訓練場を借りる時に立ち会った、槍の魔術師。

 呪文も唱えず、ものすごい熱の火球を放った。

 単純な火の玉だったが、あれは多くの魔力を使った、高度な技だったのだ。


「それに、実体がないから斬ることは出来ませんが、逆に、壁を作っても飛び道具などは通してしまいますし、薄い壁なら、目眩まし程度にしかなりません。駆け抜けてしまえば問題ありません」


「あ、確かに」


「と、このように長所短所が分かれば、対応も簡単ということです」


「勉強になります」


「でも、ほんの小さな火を作れるだけで、松明をつけたり、焚付にしたりと便利なんですよ」


「なるほど。それは確かに便利ですね。面白い」


「どんな魔術も、使いよう。同じ魔力、同じ種類の魔術でも、その使い方で、その人の強さが大きく変わります」


 アルマダも同じことを言っていた。

 手持ちの魔術を使い、どう戦うか。それが魔術師の強さだ、と。


「同じ技も、その使い方で、強さが変わる・・・」


「そういうことです」


 そこへ、メイドが食事を持ってきた。


「さあ、食べましょう。うふふ。皆様のご挨拶、楽しみです」


「・・・」


「失礼がないと良いのですが・・・」



----------



 昼を過ぎ、ギルド2階、会議室。

 マサヒデ・アルマダ・マツは、座って皆を待っていた。

 マツだけがにこにこしている。


「マツさん。私の友人、トモヤは礼儀を知りません。無礼があるかもしれませんが、許してやって下さい」


「もう、マサヒデ様ったら。マサヒデ様のご友人は、私の友人と同じですよ」


「いえ、もう心配で。アルマダさん以外の貴族に会ったことがなくて・・・アルマダさんは、この通り気さくな方ですし」


「ははは! ひどいですね! まるで、私が貴族らしくないみたいな言い方じゃないですか」


 マサヒデとアルマダも笑ったが・・・


(ほんの一瞬でも、あの怖ろしい空気が出たら)


 と、心配で仕方がない。


 皆、腰を抜かして、縮み上がってしまうだろう。

 言葉も出なくなったり、下手をすれば逃げ出したり。

 皆の心配もあるが、そんな所を見せてしまえば、マツは悲しむ。


 とんとん、とノックの音。

 はっ、と顔を上げると、メイドの声。


「失礼致します。お客様をお連れしました・・・」


 その声から、明らかに恐れを感じる。

 ついに来てしまった・・・


「どうぞ、お願いします」


 静かにドアが開き、トモヤを先頭に、騎士4人が廊下に立っている。


「皆様、どうぞ入って下さい」


 騎士4人は兜で顔が見えないが、トモヤはがちがちに緊張しているのが分かる。

 鎧を着てきたのは、おそらく兜の下の表情が、見えないようにだろう。


「さあ、お座り下さい」


 トモヤだけがマサヒデの隣に座り、騎士4人はアルマダの後ろに立つ。

 アルマダは振り返り、


「さあ、皆さんも座って」


「我々は後ろで控えております!」


 がちゃりと鎧を鳴らし、4人はぴしっと背を延ばして、直立不動だ。

 その気持ちも分かるが・・・


 アルマダの顔と口調が厳しいものに変わった。


「座れ。兜を脱ぎ、マツ様に顔を見せろ。礼儀をわきまえろ! ・・・マツ様、この者達の無礼をお許し下さい」


「は! マツ様! ご無礼をご容赦下さい!」


 4人は頭を下げた後、がちゃがちゃ鎧の音をさせながら、兜を取り、椅子に座った。


 メイドが皆の前に紅茶を並べる。


 しばしの沈黙。この沈黙を、アルマダの態度の変わり方に驚いた、と取ってくれれば良いのだが・・・

 ずずー・・・と紅茶をすする音が部屋に響く。


「で、では、マツ殿! ワシから、祝の言葉を贈りますぞ!」


 いきなり、がちゃん、とカップを置き、トモヤが大声で、固い笑顔をマツに向けた。

 マツはにこにこしながら、トモヤを見ている。


「うむ! では、マツ殿! 幼き頃からの友人、シロウザ、いやマサヒデと夫婦になってくれた事、ワシは嬉しゅう思いますぞ。こやつは昔から剣一筋。頭の固い所もあるが、それは、一つ事に真面目であるという証。鈍いと思う所もあるかもしれんが、それは心の広い証」


 トモヤの言葉を聞いているうちに、マツは泣き始めた。

 マサヒデは恥ずかしくなって、顔を赤くしてうつむいてしまった。


「不器用で、口下手じゃ。じゃが、その心の底では、言葉に出来ぬほど、マツ殿を愛しく思うておるはずじゃ。でなければ、この男がマツ殿を娶ろうなどと思わんかったはずじゃ」


 ついにマツは「ううっ」と、口に手を当てて、うつむいた。

 トモヤは土下座をするように、勢いよくテーブルに額をつけ、マツに頭を下げた。


「マツ殿! どうか、どうか! 我が友、マサヒデをよろしゅう頼みます!」


 マツは慌てて席を立ち、頭を下げているトモヤの手を両手で取って、


「はい、はい! トモヤ様! 私、きっと、マサヒデ様に相応しい妻になってみせます!」


 そう言って、ぼろぼろと涙を流した。

 トモヤは顔を上げ、両手でマツの手を包み、少しの間、マツを見つめて、


「・・・マサヒデを、よろしゅう頼みます」


 と、もう一度言って、軽く頭を下げた。

 トモヤの目にも、涙が浮かんでいた。

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勇者祭 3 女魔術師の正体 牧野三河 @mitukawa

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