第四章 立ち会い

第11話 立ち会い、一本目


「まだ我々に何か手伝えることがあるのでしたら・・・アルマダさん、構いませんよね」


「ええ。喜んで」


 マツはにこにこ笑いながら、


「それでは、お二方にには、少しここでお手合わせ願いませんか」


「今、ここで?」


「はい」


「なぜ?」


「思い切り動くマサヒデ様を、この機材がしかと追えるか、映すことが出来るか、ちゃんと見ておきたいのですが。だめですか?」


「まあ・・・そういうことでしたら・・・」


「ええ。しかし、まだ・・・」


 周りを見渡す。

 訓練場では、まだ色々な荷物を出したり入れたりしている者たちがいる。


「そうですね・・・うーん、三本くらいでいいでしょうか。

 怪我などされましたら、私がすぐ治しますから」


「マツ様、色々と、作業している方々が大勢おりますが」


「構いませんとも。隅に置いてもらえれば・・・あ! そうだ! せっかくの機会ですし、お詫びにトミヤス流のお二人のお手合わせ、ご覧になって頂いては!」


「・・・」


「どうですか?」


「まあ、私は構いませんが・・・」


 先回、マツモトの選抜3人と立ち会った時のことを思い出す。

 あの立ち会いの噂が広まって、参加者が減ってしまう、と。


「マツ様。どうせ、今やらずとも、後々やらなければいけない作業なんでしょう」


「はい」


「では、マサヒデさん。やりますか。どうせ、見られたら参加者が減る、などと心配してるんでしょう」


「まあ、その、その通りです」


「陛下のご観覧がありますから、もう心配いりませんよ。思いっきりやりましょう」


「あ、そういえば、そうでした。オオタ様にそれを伝えにも来たんでしたね・・・ふふ、アルマダさんとは、2ヶ月ぶりですか。楽しみになってきました」


「ありがとうございます」


 と、マツは軽くと頭を下げ、また笑顔を上げた。


「この訓練場を、広く使って、思いっきり走り回って下さいますか。もちろん、走り回るだけでなく、しっかり打ち合って下さいね。よろしくお願いします」


「では、道着をお借りしてきましょう。着替えて参ります」


「はい。お待ちしております」


 2人が扉の方に向かうと、


「みなさーん! これから、トミヤス流の立ち会いが見られますよー! 荷物をすみっこに置いてー! こっちに集まってくださーい!」


 後ろでマツが手を振って、訓練場に大声を響かせていた。


----------


 準備室は、がたがたと荷物を運んでいる者がいて、忙しそうだ。それらの1人に「すみません」と言って道着を借りた。


 2人は着替えながら、


「うーん、これは何とも」


「ええ・・・何か、恥ずかしいですね」


「道場では門弟の皆さんが見てますけど、何かこう、客として、と言いますか・・・そういうのは・・・」


「分かります。私もそんな感じで・・・」


「これ、きっとマツ様も分かってますよね。何とも、茶目っ気というか、いたずら好きというか」


「まあ、大会が始まってしまえば、たくさんの人もご覧になるでしょうし。それに慣れろ、ということもあるんでしょう」


「マサヒデさん、ただの観客だけではありませんよ。国王陛下もご覧になって下さるんですよ」


「そうでした。無様な姿は晒したくありませんね」


「ふふ、あなたにそんな心配はありませんよ。さて・・・」


 2人は木刀を手に取った。

 ぶん、と、軽く振って、準備室を出る。


「行きますか。手加減なしで、お願いしますよ」


「アルマダさんに手加減なんてしたら、大怪我してしまいますよ」


「またまた・・・怪我は治してくれるそうですから、寸止めは・・・」


「必要ありませんね」


「といっても、頭をかち割る、なんてのはご勘弁ですよ」


「またそれですか。昨日、ギルドの方々と立ち会った時も言ってましたね・・・」


「いくらなんでも、死んだ者は生き返らないでしょう。マツ様の死霊術で幽霊になって生きていく、なんてのは、許して下さいよ・・・」


----------


 訓練場に入ると、マツの周りに、ずらり、とメイドやメンバー達が緊張した面持ちで、正座して座っていた。


(これは緊張するなあ)


 マツの所に行って、確認する。マツの手のひらには、何か小さな石のような物が乗っていて、その上には小さな放映画面が写っている。


「マツさん。訓練場を広く使って、ですね」


「はい」


「怪我などはすぐに治していただける、と。では、寸止めは必要ありませんね」


「はい。あ、でも、さすがに死んでしまったら、私でも生き返らせることは出来ませんよ?」


「おや。マツさんにも出来ないことがあったとは」


「うふふ。申し訳ありません、マサヒデ様。無理なものは無理でございます。あ、そうだ」


「なにか」


「死霊術も少しは使えますので、おばけになってもよろしければ」


「ははは! それはご勘弁ですよ」


 そんな会話をしている3人を、正座している面々が、緊張した顔でじっと見つめている。


「ふふ、ではマサヒデさん。参りましょう」


「はい」


 2人は、訓練場の真ん中辺りに歩いて行った。


「広く使え、と仰られましたし、少し間を取りますか」


「そうですね」


 普段より3歩分ほど距離を取って、向かいあう。

 アルマダは離れたマツの方を向き、大きな声を出した。


「ここらでいいですかー!」


「いいでーす!」


「じゃあー、始めますよー!」


「お願いしまーす!」


 マツの声が返ってくる。

 再び、向かい合う。


「では、お願いします」


「お願いします」


 2人は互いに礼をして、剣を構えた。ぴりっ、とした空気が、訓練場を包む。


 ぱっ、とアルマダが距離をとって、さーと後ろを向いて走り始めた。

 同時に、マサヒデも後ろに走り始める。


(壁か)


 どん! と、2人は壁を蹴った。

 マサヒデは水平に近く、アルマダの方は、ほんの少しだけ、放物線を描く。

 そのまま飛んで、着地。勢いを乗せてアルマダに走る。

 アルマダが少し遅れて着地する。


(あ!)


 アルマダは勢いに乗せて、また地を蹴って飛んだ。

 今度は水平に近く、だが、ほんの少しだけマサヒデより高い。


(しまった! 上!)


 この勢いで止まるのは無理だ。

 アルマダが相手では、下を走り抜けるのも無理だ。

 飛んでも、マサヒデの方が下から向かうことになる。

 受けたら、ふっとばされる。横に避けるか。


(流せるか!?)


 アルマダの剣が上からのび、マサヒデの左肩にすごい勢いで迫ってくる。

 マサヒデはその剣に、左上に剣を振り上げた。


 があん、とすごい音がして、アルマダがゆっくり回転しながら後ろに着地。

 マサヒデも走り抜けながら、後ろを振り向いて、ざざー、と止まった。


(あ!? これはまずい!)


 流すことは敵わず、何とか弾いたが、アルマダの剣の勢いが強すぎた。

 木刀にがっつりヒビが入っている。


 次の一撃で決めなければ。


 もう弾くことも、受けることも無理。

 当然、弾かれたり、受けられたりしても、いけない。

 何とか流すことは出来るかもしれないが、もしそれで折れてしまったら終わりだ。


 攻めるしかない。

 それも、受けられず、流されない。そんな一撃を入れるしかない。

 つー、とマサヒデの頬を汗が落ちた。


 アルマダは上段。

 マサヒデは下段に構えた。


 ざっ! と地を蹴って、マサヒデは走り始めた。

 下段から剣を残し、下段後ろにして、アルマダに向かう。

 アルマダの上段からの振り下ろし。


 マサヒデはそれを横に躱しながら、アルマダの斜め後ろ、向きを変えながら、下段から横薙ぎに剣を振ったが・・・

 アルマダの剣は振り下ろされておらず、途中で止まっている。目だけがこちらを向いている。


(いかん!)


 もう剣は止まらない。

 アルマダの剣が、その前に立てられた。


 ばしーん! と、音が訓練場に響き渡り、マサヒデの木刀が半分ほどで折れ、すっ飛んで行った。


 すごい勢いで折れた木刀が壁にぶつかり、があん、と音が響いて、少ししてから折れた木刀は地に落ちた。


「・・・参りました・・・」


 マサヒデは立ち上がり、アルマダに礼をした。

 アルマダも、


「ありがとうございました」


 と、礼を返した。


 少ししてから、おお、と声が上がり、拍手が響いた。

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