第12話 立ち会い、二本目


「いや、これは参りました。読まれてましたね」


「ふふ、運が良かっただけですよ」


 折れた木刀を持って、マツの所に歩いていく。

 マツの横に正座した面々は、キラキラした目を向けたり、驚愕の顔をしていたり。


「お二人とも、お見事でした」


「機材の方はどうでした?」


「うーん、お二人とも・・・ここまで速いと、映らない所がありますね」


「すみません・・・」


「いえ、いいんですよ、本気でやってる所がちゃんと映りませんとね。何ならもっと速くして頂いてもいいんですよ。それでは、少しだけお待ち頂けますでしょうか」


 マツは、石の柱の周りの防護の魔術を解いて、何やら柱と、手のひらに乗せた石のようなものを、指でつついたり、撫でたりし始めた。


「すぐ終わりますから」


 マサヒデ達がその様子を眺めていると、少しして、


「さ、できました。では、もう一本、お願いします」


「はい・・・あっ」


 と言って、マサヒデが「あ」と、手に持った、中程で折れた木刀を見た。


「すみません、代えを持ってきますので、少し」


「あ、すぐ直しますよ。申し訳ありませんけど、お待ちを」


 マツが木刀に手を当てると・・・


「あ!」


 木刀の折れた部分が飛んできた。


「動かないで下さいませ」


 折れた部分の、ささくれだった所が、音もなく、すいーっ、と、くっついていく。

 見ていると、細かい破片も飛んできて、そこにくっついていく。

 気付けば、傷ひとつない状態に戻っている。


「うわっ!?」


 驚いた。思わず、手に持った木刀を、取り落としそうになる。アルマダも口を開いている。


「こ、これは!?」


「うふ。マサヒデ様、どうですか?」


 握り直して振ってみるが、何の違和感もない。


「ア、アルマダさん。少し、打ってみて下さい」


「は、はい」


 かん、かん、とアルマダが軽く木刀を打ってみる。

 持ってきた時と、全く変わりがない・・・


「これは・・・驚きました・・・全く、元に戻っていますね」


 マサヒデはそう言って、握った木刀を見つめる。アルマダもじっと見つめている。

 座った面々から「今の見たか」「無理だ」「さすがマツ様だ」と、声が上がり、ざわざわしている。


「さ、お二方。もう一本、お願いします」


「・・・はい」


 夢でも見ているようだ。

 驚きながら、2人はまた訓練場の真ん中に歩いて行った。


「これは、驚きましたね・・・」


「いや、魔術って、すごいんですね・・・」


----------


 二本目。


 先程のように、少し離れて向きあい、アルマダが確認する。


「はじめまーす!」


「お願いしまーす!」


 アルマダがマサヒデの方を向く。

 互いに礼。


「お願いします」


「お願いします」


 先程は遅れを取った。マサヒデは「やはり、慣れた形で行こう」と、構える。

 力を抜き、剣先を、やや右に落とす。


「む」


 アルマダは中段に。綺麗な正眼だ。

 ぴたり、と止まった木刀は動かない。

 このマサヒデは、本気だ。殺気はないが、その静けさが怖い。


「・・・」


 動かない。

 一本目とはまた違った、張り詰めた雰囲気が訓練場を包む。

 見学している面々の喉が、ごくり、と鳴った。


 それから、何分経ったか。


 アルマダが、じり、と、ほんの少しだけ、前に足を運んだ。

 マサヒデは動かない。アルマダは、1歩出た。


「・・・」


 少しだけ間合いが詰まり、また、2人の動きが止まる。

 見学者たちは目を見開いて、勝負を見過ごすまいと、瞬きもしない。


 そのまま、しばらく動かない。


 そして、マサヒデが足を進めた。

 す、す、と自然に歩くように足を進め、アルマダの方に近付く。


「っ!」


 アルマダは、ばっ! と飛び下がった。

 ぴたり、と木刀を正眼につける。


「・・・」


 マサヒデはあくまでも自然に、静かに、アルマダに近付く。

 一見すると、適当に木刀を下げて、隙だらけで近付いているようだが・・・


「くっ!」


 また、アルマダが飛び下がる。

 マサヒデは落ち着いて、ゆっくりとアルマダに近付いていく。


「・・・」


 このまま下がるだけでは・・・

 アルマダは腹を決めた。正眼のまま、綺麗な足運びで、マサヒデに近付いていく。


「・・・」


 一足一刀!

 と、アルマダが感じた瞬間、自然に、すっとマサヒデはその間合いに入る。


「!」


 声も出さず、アルマダの正眼から怖ろしい速さで突き。


 どうやったのか、マサヒデはそれを流していた。

 マサヒデが立っている場所は変わらない。


 アルマダが体を流され、たたらを踏んだ所で、突きを出した小手に、マサヒデの木刀が振り下ろされた。


「ぐぁっ!」


 アルマダは木刀を落とし、膝を着いた。

 骨を砕いた感触が、マサヒデの手にも伝わった。

 静かな目で、マサヒデがアルマダを見下ろしている。

 

「・・・」


 「う」とうめき、手を押さえながら、アルマダは立ち上がろうとした。

 かつん、と、マサヒデの木刀の先が、地に落ちた木刀を弾く。

 アルマダは下を向いて立ち上がり、マサヒデに礼をした。


「・・・ま、参りました」


「ありがとうございました」


 マサヒデが礼を返すと、アルマダが手を押さえたまま、木刀を拾いに行った。


「う」


「あっ」


 アルマダが木刀を取り落とし、拾い直した。


「すみません、寸止め無用ということで、思わず・・・」


「い、いえ。大丈夫です」


 アルマダの顔に、脂汗が浮かんでいる。


 マツの元に歩いていくと、周りの見学者から拍手が上がった。

 しかし・・・


「こら! お二人とも! 何してるんですか!」


 と、マツがぷんぷんしていた。


「え、な、なにか」


「もっと走り回って下さい! もう!」


 そう言って、マツがアルマダの腕の上に、す、と手をかざした瞬間。


「あっ?」


 アルマダが声を上げると、痛みは消えていた。


「はい、終わりましたよ」


 アルマダは、手を握ったり開いたりしている。驚いて顔を上げ、


「え!? もう!? 骨が、砕けて・・・?」


「何か、違和感はありませんか?」


「い、いえ、全く・・・リーもジョナスも・・・ここまで・・・」


 アルマダのパーティーの魔術師だ。治癒の魔術を使える、とのことであったが・・・


 マツは腰に手を当てて、


「いいですか、お二人とも! もっと、走り回って下さいね! まあ、速い動きは見えたので、今回は良しとしますけど!」


 ぷんぷんしてはいるが、表情とは裏腹に、怒ってはいない。あの怖ろしいオーラを感じないから・・・


 マツは、また柱と手のひらの石をいじりだした。


「・・・言葉もありませんよ・・・こんな治癒魔術・・・」


「大したことではございませんよ」


 柱を指で、すーと撫でながら、マツは答えた。

 手のひらの石をつついて、今度は何やら、懐からメモを取り出し、さらさらと書いている。書き終わると、石の柱を見ながら、うんうん唸り出した。


「・・・ええっと・・・うーん・・・一本目がこう・・・あわせて・・・こう・・・で、こう・・・」


 最後に、手のひらの石をつん、とつつくと、マツの手の上に、また小さな放映画面のようなものが浮き出した。


「よし! おそらく、これで調整は完了です。次で、この調整で合っているかどうかの、最終確認です。お二方とも、次はもっと走り回って、動いて下さいね」


「はい」「分かりました」


「では、よろしくお願いします」


「ふふ、マサヒデさん。今回は走り回りましょうか」

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