第41話 俺、魔王になるわ

「ロバート、俺は魔王になろうと思う」

「サキ殿、とうとう頭がイカれてしまったのか?」


 いやいやいや、ロバート、それは酷くねぇ? しかもとうとうって、もっと酷っ!


 少しは俺の提案に耳を傾けてから決断してほしい。俺は彼女達と話したことを要約して提案した。


「つまり……サキ殿一人でケルカ大臣達が統治している王都を攻撃し、殲滅させた時に覚醒者であるセシル達に討伐させてもらうと」

「そうそう、その方法なら俺一人が悪役になればいいし、彼女達の株も上がるから一石二鳥だろう? 幸い、俺は身元不明な転生者だし」


 真面目すぎるロバートは「自作自演なんて……」と難色示すかもしれないが、俺は案外いい案だと満足している。


「いや、私は反対だ。彼女達もそんな危険な作戦を納得するとは思えない!」


 うん、俺も彼女達も楽観視してるから、この作戦の実情を全く理解していない。分かってるよ、安易な作戦じゃないことくらい。


 魔王になるってことは、人類の敵になるってことだ。

 そんな存在を生かしているほど、この世界は優しくない。


 きっと捕獲されたと同時に、悪の根源は処刑されるだろう。

 だから俺は、その残酷で名誉な役割を、ロバート……アンタに託したい。


「俺はお前らに処刑される。なぁに、元々存在しない人間だ、秩序を守る為には俺の存在は無くなったほうがいいんだ」

「ふざけるのもいい加減にしてください! なんで私がそんな!」


 甘ったれたことを抜かす激甘王子の胸倉を掴んで、思いっきり壁に叩きつけた。


 それは俺のセリフだ……俺が守った世界を、こんなになるまで放置してたくせに……!


「お前には修正できるだけの力があったのに! ふざけてるのはお前だろう⁉︎ 弱いから? 自信がないから? そんな甘ったれたことを抜かすな! 聞け、俺は……この世界を滅ぼすつもりで暴れ回る。お前らは世界を守るつもりで殺しに来い」


 ロバートの瞳が揺れに揺れる。困惑に悲哀、なぜ自分がこんな目に遭わないといけないんだと悲壮に満ちた色。


「………悪いな、お前一人に背負わせる形になるが。きっと彼女達にはできないことだから。お前に託すしかないんだ」


 旅を続けて、彼女達の置かれた過酷な状況を思い知って……俺は守りたいと思ったんだ。彼女だ達だけでなく、国民の多くが幸せだと思える世界を作りたいと。


「そのために絶対悪が必要というのなら、俺は喜んで悪役になってやるよ」


 ロバートに話すまでは、事態を重く考えていなかったが、確かにそうだよな……。悪とはいえ、これから大勢の人間を虐殺するんだ。それ相応の罰は受けなければならないな。


「………これ以上、一緒にいたら作戦がパァになる可能性があるから、俺は街を出るよ。くれぐれも彼女達のことをよろしく頼むよ」


 彼女達ともたくさんの思い出を貰った。もう悔いはない。


「さぁて、一丁暴れ回るかな……」




 その数日後、俺は王都を壊滅させた史上最悪の悪人として名を馳せることになる。


 抵抗する兵士、保身のために籠城した役人。少しでも犠牲者を減らすために城に潜り込んだのだが、やはり生身の人間が相手なのは堪えるな。


 これは必要な犠牲なんだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は虐殺を続けた。


 よくよく考えれば、対象が人間か魔族かの違いくらいで、魔族だって生きているんだ。同じ形をしてるだけで、罪悪感を強いられるのもおかしい話だよな……。


『戦争を行えば、他の人が殺すだけだ———……。多くの人間が罪を背負うよりも、俺一人で済ませた方がいいじゃないか。少なくても彼女達には……同族殺しの罪は背負ってほしくない』


 何人、何十もの返り血を浴びた姿は、まさに魔王と呼ぶに値する残虐な容姿をしていた。


「悪魔! 近寄るな、近寄るなァ!」

「ぎゃぁぁぁぁ……! 死にたくないッ! 神さ……ッ!」


 命乞い、蔑む声、罵倒———……あれ、正義って何だっけ?


 あぁ、俺もつくづく最低なことを考えたもんだ。一人で無双って、思ったよりも楽じゃない。


「ね、そう思わない? ケルカ大臣」


 王の間で王座にふんぞり返って座っていたケルカ大臣———いや、ケルカ王と言った方が正しいのか?

 俺が受けた痛みを味わってもらおうと、手足を捥いで、地に這いつくばして質問してみた。


 痛みから気を失いかけていたケルカ王を蹴って起こし、前髪を掴んで聞いてやった。


「これ、アンタらがやったことと、何ら変わらないからな? 自分でされたら嫌なことは人にはしない、これ常識な?」


 あー、血を失いかけて声が聞こえてないかな? それじゃ、最後のフィナーレと行こうか。


 血塗れのナイフを持ち直し、瀕死のケルカ王の首筋に刃を当てた。一思いなんかで楽にはさせてあげねぇ……思う存分、苦しむがいい。


 悲壮に満ちた断裂魔を聴きながら、俺は最後の仕事を終えた。


 城外では大勢の人間が逃げ纏っている。

 そいつらに現実を思い知らせるために、切った首を持って、バルコニーから掲げて晒してやった。


「セントラルコウゴウは俺が制圧した! 従わない者はその場で首を跳ねてやる。生き残りたいなら、今すぐ立ち去れ!」


 茶番にしては行き過ぎた、最悪な結末が訪れようとしていた。


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