第38話 サキ&エディ【ちょいR−15】

 さーて、何やらとんでもなく時間が経った気がするが、きっと気のせいだろう。


 俺とエディ、そしてマリッシュとバショウグンで旅だった俺達だが、ここにきて問題が浮上してきた。


 ———エディが俺から離れてくれないのだが?


 それはそれは、左の腕にぎゅーっとしがみついて、まるで抱っこちゃん人形のように、控えめではあるが確かにある膨らみを、惜しみなく押し付けてくるのだ。


 もうね、ヤル気で満ち溢れて、どんどんモンスターを薙ぎ倒しちゃったよ。

 片手でもドバーっと、バーンと、ドリャーってね。


 頭の悪い奴の戦い方だって思っただろう?

 実際そうだもん、仕方ない。片手じゃ何も出来ねぇよ。


「エディ、あのさ……少し離れてくれない? 君がそばにいると、思うように戦えないんだけど?」

「大丈夫、サキくんは強いから片手でも楽勝」


 うん、そうなんだけどねー?

 マリッシュ少年も不思議そうな顔で見てるじゃないか。そもそも彼は『何で僕はここにいるんだろう? この人達は誰だろう? ずっとイチャイチャばかりして』って不信感しか芽生えないよね?


 ほら、バショウグンもさー? そんなあからさまに目を逸らさないで、少しは助けてくれても良いんじゃね?

 あ、違う、違う。マリッシュの目を覆うんじゃなくて、エディを引き離してくれない?


 なに、このパーティ。連帯感ゼロじゃん?


 そんなこんなで、目標の3分の2しか進めなかった。他のメンバーのことを考えたら、さっさと合流したいところなのに。


 俺はパチパチと火の粉を上げる焚火を前に、大袈裟に頭を抱えた。


 そもそもエディは、ロバートに惚れてなかった? 皇太子であるロバートには正妻や大勢の側室がいるだろうから、エディが本命ってわけではないだろうが、彼も満更でもない様子だった気がする。


 それが今では……こうだ。


「サキくん、夜は冷えるね。一緒に寝ようね♡」


 ———これは、寝取りか?

 俺は寝取り側に来てしまったのか?


 だってよく考えたら、エディがロバートにしるしをつけないはずがないじゃないか。

 なのに彼女は……俺を選んだ。


「ねぇ、遠くでハイウルフの遠吠えが聞こえるよ? アタシ、怖ィ」

「大丈夫だよ、エディ。俺がいるから」

「ふふ♡ サキくんって頼りになるね」


 KAWAII……!

 何だろう、この感じは? セシルのツンデレとも違う、リースのバブ味とも違う、ロックバードの甘えん坊妹系とも違う……。


 危なっかしくて病んでる系。溺愛ヤンデレか?


『NTR溺愛ヤンデレ系! いやいや詰め込みすぎだろう⁉︎』


 けど突き放せない! ここでエディに手を出してしまったら、ロバートに合わす顔がない!

 でも、エディの方からグイグイ来てるなら……仕方ないよな?


 すると、バショウグンと一緒にいたはずの

 マリッシュがすぐそばまで来ていて、服の袖をギュッと掴んで引っ張っていた。


「僕も……サキお兄ちゃんとエディお姉ちゃんと一緒に寝たい」


 まるで捨てられて子犬のようなか弱さを武器に、訴えるその涙目の眼差し。

 胸が締め付けられる! 俺には拒めない!


 ———だが、一つだけ言わせてほしい。

 決してショタではない! 守備範囲は広いが、流石に無垢な少年に手を出すほど落ちぶれてはいない。


「ダメー、サキくんはアタシと寝るんだよ? マリッシュくんはバショウグンと寝たら良いでしょ?」

「ヤダヤダ、バショウグンって何か放置されていた雑巾みたいな匂いがするんだもん!」


 おい、マリッシュ! いくら事実でも言って良いことと悪いことがあるぞ?


 流れ弾を受けてダメージを受けていたバショウグンが、木の影でこっそり泣いていた。どんまい、バショウグン。


 それにしても……なに、この状況。

 本当に決戦の前なの? 締まりねぇーなー? 始まりも始まりだったが、緩すぎるだろう。


「あー、もう仕方ねぇな! んじゃ、今夜はテントじゃなくて、外で寝るか!」


 俺達は焚火の近くに寝袋を用意して、川の字(プラス1)に並べた。いくら雑巾臭がするとはいえ、バショウグンも仲間なんだ。ハブるのは可哀想だからな。


「へへ……こうして皆で並んで寝ると、家族になったみたいだね」


 ふにゃっと笑みを浮かべながら喜ぶマリッシュを見て、俺達まで緩んでしまった。


 そういえば女神が言っていたな。マリッシュも可哀想な過去を背負っていると。

 エディも魔族からも人間からも迫害を受けて、一人で生きてきたんだ。


 きっと飢えていた愛を、必死に満たそうとしているのだろう。


 こんな可哀想な子が、当たり前になったらいけない。

 俺が上に立った暁には、貧困や差別のない世界を作る———そう誓いを立てた。


「なぁ、バショウグン。リンクが勇者だった時、世界はどんなだったんだ?」

「リンク様の時代ですか? それは平和な時代だったと言い伝えられていますが」


 そんな抽象的なことじゃなくてさー……。


「今みたいな男尊女卑になったのは、いつからだ? 王族が民衆から搾取を始めるようになったのは?」

「それは………分かりません。申し訳ございません」


 まぁ、いいや。

 俺がやることは決まってるからな。


 いつの間にか寝息を立て出したエディとマリッシュを横目に、俺も目を瞑って休むことにした。


「………サキ殿、きっと貴方ならこの世界を変えてくれると信じてますぞ」


 見守りの為に一人起きたバショウグンは、大木に背中を預けながら、揺らめく火を見つめていた。


——……★


 どれくらいの間眠っていただろう? 魔物の襲撃に備えて気配は張っていたもの、自分でも焦るほど眠っていた気がする。

 俺が身体を起こすと、見張りを続けてくれていたバショウグンが会釈をした。


「もう目を覚ましたのですか? まだお休みになっていればよかったのに」

「いや、十分休ませてもらったよ。バショウグンこそ睡眠を取ってくれ。これからは俺が見てるから」


 出来ることなら、少しでも早くザッケルの街に辿り着きたい。足手纏いにならない為にも休んで欲しいのが本音だ。


 俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、彼は「ではお言葉に甘えて」と寝袋に入り込んだ。


 パチパチと木が爆ぜる音が響く。

 この世界に来て、まだそんなに経っていないはずなのに、もう『佐伯理玖』として生きていた世界のことが、朧げになってしまった。


 あの時のおれは何も考えずに生きていた。

 平和で、変化のない世界で、ぬるま湯の中に浸かっていたのだと痛感させられる。


 辺り一帯は真っ暗な闇———その闇に紛れて、寝首を書こうと敵意剥き出しの気配を感じるが、少し睨みを効かせるだけで遠かったのが分かった。


「……あれ、サキくん。起きてたの?」


 眠たそうな目を擦って、エディが目を覚ました。

 彼女はグッと背伸びをすると、またしても俺の隣を陣取って腕にしがみついてきた。


「エディ……君の気持ちは嬉しいけど、距離近すぎ」

「だって、少しでもサキくんから離れたら不安で不安で……」


 可愛いんだけど、少し困る。どうしたらいいのだろう、教えてオジイサンー。


 そんな俺の横で、彼女は言いにくそうな表情で、企むような装いを見せてきた。


「ねぇ、サキくん。前の魔法を掛けた、あのしるしをつけた時のこと覚えている?」

「ん、まぁ。それがどうした?」

「アタシ、本当は知ってたんだ。その前に、サキくん達が他の覚醒者達と……エッチなことをしたの」


 おっと、何だこの、彼女に浮気がバレた時みたいな焦燥感は。


「別にそれは悪いことじゃないし、仕方ないことだと思う。だってその時のアタシはロバート王子に夢中だったし、アタシのことを思って声をかけなかったことも。でもね———」


 彼女は俺の正面に立つと、徐に下着を脱ぎ始めた。脱ぎたての薄い着衣が、ポトンと地に落ちる。


「アタシ、本当はあの夜、サキくんに抱いてもらいたいと思って会いに行ったんだよ?」

「え……けど」

「サキくん、ズルい。他の子にばかり優しくして……嫉妬しちゃう」


 そのまま腰を下ろしと、お互いの敏感なところを擦り合わせて、待って、待て待て、すぐそばにはマリッシュとバショウグンが!


「すぐ終わらせるから、お願い……?」


 もう、そんなエロくて可愛いねだられ方をして、断れる男がいるか?

 いねぇ、少なくても俺には無理!


 こうして俺達は、声を押し殺しながら———果てた。



 そして次の朝、何事もなかったかのように振る舞うエディ。

 前回よりも深く交わったことで、より強い魔法が掛かったので安心したと距離を取ってくれるようになったが……何だろう、この背徳感。

 ロバートにも、セシルやリース、ロックバードにも申し訳ない気持ちが込み上がる。


「サキお兄ちゃん、どうしたの? 顔が赤いけど風邪でも引いたの?」

「すいません、私が見張りを代わって貰ったばかりに」


「い、いやいや! 二人ともゆっくり休めたのなら何よりだよ! よし、昨日遅れを取った分、今日は急ぐか!」

「うん、アタシが皆にアシスト魔法を掛けるから、それで挽回しよう」


 え、エディ、そんな便利な魔法があったのか?

 こいつ、隠してやがって、確信犯だな。


 サキはエディの満面な笑みを見て、ゾクゾクと悪寒に近い身震いを感じた。やばい、コイツは沼女だ。ハマったら最後、骨の髄まで吸い尽くされる!


 だがもう手遅れだった。俺はもう、彼女達全員の魅力にどっぷり浸かってしまったのだから。


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