第35話 助けて!

 しかし、世も末だよな。

 倒すべきは魔王ではなく、人間だなんて。


「しかも世間的には正義の立場に立つ奴ら……。あながち悪役って間違ってないかもな」

「いえいえ、サキ殿は間違いなく正義です。問答無用に人の命を奪う奴らなんて、誰が正しいというもんですか」


 必死にフォローを入れてくれるバショウグン。

 こういう時、お世辞でも肯定してくれる人がいると嬉しいもんだね。


 俺は気を失って横たわったマリッシュを寝かせて、グッと背伸びをした。


「さてと、目的はハッキリしたけど、どうしたもんじゃろうのう? 愛しの彼女達はどこに行ったのやら」


 そもそも無事なのかも怪しい。

 途方にくれ顰めた顔をしていると、急に目の前がうるさい蛍光色の光で覆われた。


「何だ? またマリッシュか?」


 咄嗟に顔を向けたが彼ではなかった。ってことは新手の敵か!


 備えていたナイフを手に取って戦闘体制に入ったが、すぐに柄から放すことになった。


 眩い光から薄っすら輪郭が浮かんで、それは次第に懐かしい形を描き出した。

 綺麗な白髪に困ったような目が特徴的な、ヴァンパイアと人間のハーフ。


「サキくん——っ!」

「エディ!」


 突然の登場に、ただ茫然とするしかなかった。

 そうだった、俺とエディはいつでもテレポートできるように繋がっていたんだった。

 宙から現れた彼女をしっかりと受け止めて、確かめるように抱き締めた。


 夢でも幻でもない、本物のエディだ!


「良かった、サキくん……! 死んじゃったかと心配したよ!」

「俺こそどれだけ心配したことか! エディだけか? 他のメンバーは?」


 エディは眉を八の字に垂らし、申し訳なさそうに振った。


「ごめんなさい、アタシ……あの場からは逃げきれたんだけど、バラバラに散っちゃって」

「散ったって、どういう意味だ?」


「皆、一緒のところにはテレポートできなかったの。確認したらセシルとリース……ロックバードとロバートが一緒みたいだけど。ただ、サキくんみたいにしるしを残さなかったから、迎えに行くことができなくて……」


 そうか、そういうことね。

 まず皆が無事なのが分かって一安心だった。

 それに個々に散らばったわけじゃなかったのも吉報だ。


 攻撃に特化していないセシルとロバートにも力強い仲間がそばにいるし、補助系のエディが俺のところに辿り着いたのも、何かの巡り合わせなのかもしれない。


「怖かっただろう、よく頑張ったな、エディ」

「サキくん……! 良かった、本当に良かった」


 まるで迷子になった子供のように、縋るように抱きつく彼女が安心するまで抱擁した。


 くぅ……っ! 今はロバートがいないから仕方なく俺に甘えているんだろうけど、あのエディがこんなに頼ってくれるなんて。ここは信頼を上げる最大のチャンスだ。


「なぁ、エディは皆の場所が分かるんだよな? ちなみに一番近くにいるのは誰だ?」

「えっとね、ロバートとロックバードかな? ただこの二人の場合、移動も激しいけど」


 そうか、彼女達も合流しようと必死に動いているんだ。せめてメッセージだけでも送れたらいいんだが。


「あ、そうだ。前に送った……あの鳥みたいなの。アレを皆に飛ばすことは可能か?」


 クルル山脈の時の、アレ。最初は首を傾げていたエディも「あぁー!」と思い出してくれたようだ。

 それで集合場所を決めたい。そうだな、ザッケルの街がいいかもしれない。あの街ならセシルのお爺さんが村長だから安心だ。


「ってことで、俺とエディは行くけど、バショウグンはどうする?」


 彼もまたケルカ大臣の陰謀の被害者だが? 弱いので足手纏いになる可能性も高い。けれど女神の頼みでマリッシュの同行もたのまれたしな……。一人も二人も変わらないか?


 それにまだ、完全に信用したわけではない。

 情報を知ったやつを放っておいていいものか?


 追放された後もこうして闘技場の元締として活躍している能力を見れば、敵に回すのは厄介だし、そばに置いておくのがいいかもしれない。


「もちろん、私にできることなら何でもいたします! たとえ火の中、水の中! どこまでもお供いたします!」

「いや、そこまで気負わなくていいから」


 下手に出しゃばれて、怪我でもされたら堪ったもんじゃない。


 とりあえず彼には、ココで稼いだ金を全部渡してもらって、良旅になるように心掛けてもらおう。


「ハッ、それでは最高の装備を用意いたします!」


 こうして俺達はザッケルの街を目指して旅立つことになった。





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