第34話 話を聞かせてもらおうか?

 とりあえず優勝を勝ち取った俺は、マリッシュに賞金を渡して救護室へと向かった。


 扉の向こうには倍以上に腫れ上がった顔のバショウグンが横たわっていた。


 相手の実力は知っていたのだから、少しくらいは手加減してやればよかったかな? けどなー……弱いくせいに見えを張って偉そうにしていたバショウグンが憎たらしく思えたんだよねー。


 まぁ、いいや。そんなことよりも事情を聞かねば。


「そもそもさ、近衛隊長であるアンタが、何でこんな違法街にいるんだ?」


 しかもシードで決勝に上がったってことは、コイツが元締だろう? 王都のお偉いさんが情けないね。


「む、君は……ザッケルの街の村人……」

「サキだ、ちゃんと名前を覚えておけ。一応、アンタの王子様に成り済ましていたゴブリンを撃退した恩人だろうが」


 そこまで説明をして、やっと気付いたようで、バショウグンは身体を起こして深々と頭を下げ出した。


「申し訳ない……! 君に無礼な態度を取って」


 まぁ、思い出してくれたのならそれでいいんだけど。それよりもこの変わり果てた状況を説明してほしい。


「俺はアンタの依頼通りにロバート皇太子を救い出したんだけどよ。王都に入った瞬間に誘拐犯として拷問を受けたんだ。何でこんな目に遭わないといけねぇんだ?」


 ちゃんと話を通してくれていれば、こんなことにはならなかったのに。


 だが事態は思っていた以上に深刻で、救いよのない答えが返ってきた。


「……そもそもロバート皇太子や私共を襲ったゴブリンだが、ケルカ大臣が放ったものらしい」

「———は?」


 どういう意味だ?

 もしかして派閥争い、内部抗争か? あの大臣、ロバートを失墜させる為にあえて?


「私が王都に戻った時には、すでにロバート皇太子は亡き者扱いとなっており、私も見殺しにしたと罰を受け、追放されてこの街に流れ着いたのだ」


 それで本物のロバートが現れて、慌てて処分しようと襲ってきたのか。


「なに、ロバートってそんなに嫌われてたの? あいつ、そんなに悪い奴じゃねェのに」

「皇太子はスキルも潜在能力スキルも弱かったから、認めない臣下が多かったのだ。勇者の血筋ってだけで王族になったと」


 ロバートが勇者の血族?

 ってことは、俺の末裔になるのか?


 いやいや、大勢の男と交わってできた子供だろうから、純粋な血筋でもないだろう。


 だがそれで合点した。俺が初代勇者って判明して喜んだのは、そういうことだったのか。


 憧れだったご先祖様に会えて嬉しかったんだな、ロバート。可愛い末裔だ。今度会ったら頭を撫で回してやろう。


「にしてもサキ殿。貴殿は……しばらく見ないうちに随分と逞しくなったな」

「あー、うん。どうやら俺、リンク様らしいから」


 一瞬、バショウグンの顔がバグったようにフリーズした。その後「は? え? はい?」と何度も自問自答しながら必死に理解しようとしていたが、一向にまともに戻らなかった。


「だーかーら、ロバートに鑑定してもらった結果、俺はリンク様の生まれ変わりの生まれ変わりだったの!」

「それでそんなにお強いので! 何も存じ上げていなかったとはいえ、数々のご無礼申し訳ございませんでしたー!」


 地に額を擦るように、全身全霊で謝罪を繰り返していた。


 だが、そんなのどうでもいい。

 もう今更だし、俺も知らなかったことだし?


「それよりバショウグン。ずっと聞きたかったんだけど、本当に魔王って存在するのか? どうもキナ臭さしかないんだけど」


 考えれば考えるほど、魔王が都合のいい存在にしか聞こえない。

 そして俺は、ロバートが排除された理由も、弱いからじゃないと踏んでいる。


「ロバートが真面目だったからじゃないのか? そもそも種が弱くても覚醒者が強ければ優秀な子供勇者が生まれるから、アイツが気に病む必要はない。なのにロバートは自分のせいで弱い勇者が生まれて魔王に勝てなければ……と危惧していた。それはが吹き込んだんじゃないのか?」


 そう。絶世の美女達、覚醒者を王族以外の人間も交わえる為に。


「吹き込んだはいいが、いつ否定するか分からない。だからロバートを亡き者にして、都合のいい奴を王に仕立て上げた。違うか?」


 ガタガタと震えていたバショウグンも、観念したように小さく頷いた。


 だよなー、そうだよなー……。

 ついでに魔王だけど、勇者が育ち上がるまで誕生しないとか、何てご都合主義って思っていたけど、それも嘘だろう?


「その時にいる強い魔物や魔族を、魔王に吊し上げてるだけなんじゃねーの? なぁ、覚醒者をいいなりにさせる為に。世界の平和が掛かっていたら、子を産むために黙って股を開くだろうからな!」


 あー、イライラが止まらねぇ!

 彼女達がどんな思いで……どれだけの覚悟をして負ったのかも知らずに。


 くそ、事情を知ってる奴ら全員のケツの穴を開発してやろうか? 壊れるまでオークの慰め者にしてやろうか?


「け、けれど最初は確かに存在していたんです! 魔王も、人類を滅ぼそうと、大勢の人間が犠牲になって」

「そりゃ、そうだろうな。最初から嘘なら、リンク様なんて存在しねぇだろ? 俺も自分がクソ野郎だったら、今すぐ首を掻っ切って自決してやるわ!」


 せっかく救った世界が、屑野郎のせいで滅茶苦茶になったのが許せなくて、この世界に転生されたのだろう。


 分かるよ、分かる、リンク様よォ……。

 正しい世界の在り方に戻す為に、まずは大臣達を倒さないといけないようだ。


「腐り切った王家を一掃して、正しい新体制を築くのが俺の役目か。くそ、女神の野郎……ちゃんと説明してくれればよかったのに」

「えー、だって説明したら面白くないでしょ?」



 ………ん?

 思いがけない言葉に大袈裟に後退りをした。


 な、な、何?

 声がした方を見ると、そこにいたのは外で待っていたはずのマリッシュだった。

 まさか、お前が? 喋ったのか?


「えへへー、やっと気付いてくれた? そう、僕が佐伯くんをこの世界に呼んだ張本人だよ? ふぅ、やっと気付いてくれたね」


 いやいやいや、やっと気付いたじゃねーよ!

 こいつ、何を考えているんだ?


「いやー、申し訳ないね。タイミング見計らっていたら、遅くなっちゃって」

「違う、俺が言いたいのはそういうことじゃない! お前が俺を転生させたのなら、どうしてこんな回りくどいことをしたんだ?」


 こんな酷い設定で、おかしいだろう?


「………だって仕方ないじゃないか。僕にも色々と制約があるんだよ? 僕自身は召喚や転生させることしかできなくて、他には何の力もないしー。精々瀕死になった佐伯くんを救うことくらい? それも結構力を使ったんだよ?」


 ——そうだよな、そもそも覚醒者でもないマリッシュが、あんなスキルを持っていたこと自体疑うべきことだったんだ。


「そもそも僕が作ったのは、勇者リンクと仲間達の愛と友情のハートフルな物語だったのに、いつの間にかこんな世界になっているし……! 僕だって被害者だったんだよ?」

「は? お前がこんな世界にしたんじゃないのか?」


 覚醒だの呪いだの、創造主や神でないとできないことだろう?


「あー、それについてはヒロインを守る為? 浮気ばかりする節操なしって嫌じゃない? やっぱりヒロインは主人公に一途じゃなきゃね」


 え、それじゃ、俺のNTR属性は?

 セシル達が寝取られる様子に興奮していたのは、何かの呪い?


「それは君の性癖。随分変態な主人公になっちゃったね?」


 くそぉぉぉ……っ!

 そこは呪いでいいじゃないか!


 そんな俺達の会話についていけずに、隅の方であたふたとしたバショウグン。

 あ、奴の存在を忘れていた。聞かれても問題なかったのか?


「あー……別にいいよ。一人くらいは事情を知ってる人がいた方が相談しやすいでしょ? ちなみに僕は一時的にマリッシュくんの体を借りてるだけだから、あと少ししか話せないよ?」

「そういう大事なことはもっと早く話せ、コンチクショー!」

「あはは、ごめんねー?」


 反省の色も見せない謝罪を受けて、改めて聞き直した。


 やはり魔王はいないのか? そして俺たちはどうしたらいいのか?


「………佐伯くんの言うとおり、魔王は最初に倒したっきり誕生してないよ。本当はそこで終わるはずだった物語が、ずっと続いているんだ。言わば放置された物語のアナザーストーリーかな?」


 そして何かのバグか、定期的に生まれてくる覚醒者をいいように弄ぶために、腐った奴らが魔王を仕立て上げたってわけか。


「だから、僕としては……ケルカ大臣達を倒して、勇者と仲間である覚醒者が仲良く暮らす平和な世界に戻してほしいんだ」


 やっとエンディングが見えて、スッキリした気分だった。だったら遠慮なくぶっ倒してやろうじゃないか。


「ちなみにこのマリッシュくんも救ってあげてくれないかな? この子の両親も冤罪を課せられて追放された、とても可哀想な子なんだ」

「あぁ、約束してやるよ。皆、まとめて救ってやる」


 その言葉を聞いて安心したのか、マリッシュは眠るように気を失った。



 ———……★

 やっと女神……? この物語の真髄に触れることができました。勝手にエロゲー設定に書き換えられたアナザーストーリー……こんな世界が許せなくて召喚されたサキでした。


 さぁ、ケルカ大臣をぶっ飛ばせ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る