第31話 真の敵

 俺達はロバート皇太子の国、王都セントラルコウゴウを目前に、やや興奮を隠せなかった。


 やっと贅沢三昧ができる!

 柔らかくて気持ちのいい高級ベッドで眠ることができる!


 美味しいご飯も、綺麗で煌びやかなドレスや宝石を———!


「いやいやいや、お前ら、何もしてないくせにそんな」

「え、何を言ってるの、サキ。あなたがいれば魔王なんて倒したも同然でしょ? 何たって歴代最強の勇者の生まれ変わりなんだから!」


 そうかもしれないけど、万が一があるだろう?

 何もかも浮き足を立て過ぎるのは、少々良くない気がするんだ。


「いいじゃないですか。今まで過酷な旅を続けてきたんですから、今日くらいは」


 過酷な旅は、主に俺だけどね?

 まぁ、4人ともそれぞれ苦労はしてきたと思うが、何だかなぁ。


 昨夜のエディじゃないけれど、嫌な予感がするんだ。俺の思い過ごしならいいんだけど……。


 いよいよ踏み入れた王都は、今までの街とは比べ物にならないほど立派で、敷き詰められた石畳に石造りの建物は、どこか西洋の雰囲気を漂わせいた。

 街も活気に溢れているし、いい街だ。


「ふぅ、やっと我が国に戻ることができたか……にしても」


 そう、ロバート皇太子。アンタって魔物に攫われたっていうのに、戻ってきたアンタに誰も気付かないんだけど?


 どう言うこと?

 待って、アンタ、本当にこの国の偉い人なの?


「おかしいな、こんなハズじゃなかったんだけど……」


 ロバートの額に冷や汗が流れた。

 そして豪華絢爛な待遇を待ち望んでいた女性陣にも不穏な影が落ち始めた。


 だが時間差で大勢の兵士達が門に集い始めた。ようやく主人の存在に気付いたのかもしれない。


 大軍の先頭に立ったのが一番のお偉いさんだろうか? 声をかけようとしたその時、思いもよらない言葉が発せられた。


「この皇太子の偽物め! 街にまで姿を見せよったか! 全員、行け‼︎」


 なななっ! 何だと、偽物だと?


 ろくに確認としてもらえないまま、偽物と認定された俺達は、そのまま捕獲されてしまった。


 話が違うぞ、ロバート! おい、お前は本物なんだから、もっと抵抗しろ!


「貴様が親玉か? くぅ、こんな上玉な美女を連れて生意気な! どんな力を隠しているか分からない。手足を捥いで、地下に放り込んでおけ」


 おいおいおい、いくら何でもそれはあんまりじゃねぇ? いくら無礼とはいえロバートの臣下。乱暴なことはできないと無抵抗を貫いていたが、奴らは容赦なく俺の腕、足を切り落としてきた。


 は? 嘘だろ?


 こんな平和な昼下がり、白昼堂々残虐な刑が執行されるなんて、おかしいだろ?

 あまりの激痛に、声にならない獣のような叫び声を上げた。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い———!


 こいつら、頭がおかしいんじゃねぇの?


「サキ殿! お前達、何をしてるんだ!」

「黙れ、偽物め……! 貴様も同じように手足を捥いでやる!」


 ダメだ、逃げろ! 俺はセシル達に合図を送り、そのまま退却を命じだ。

 取り乱したロックバードが泣きながら斬りかかろうとしていたが、ダメだ。


「俺のことはおいて逃げろ! ロバート、皆を守ってくれ!」

「サキ殿、ダメだ! 君を置いてなど!」


 確かに今の俺は、瀕死の虫の息だ。

 けれどな、不思議と自分の痛みは耐えられるんだ。本当に俺のことを思うなら、彼女達を守ってくれ。


「エディ、行け! お前なら大丈夫だ!」


 怯える彼女に願いを託すと、覚悟を決めたように詠唱を口にし始めた。それでいい。


 彼女達の姿を眩い光いがまとわりつき、身体を透かし始めた。そして指先まで完全に消えたことを確認した俺は、先のない腕で必死に身体を起こした。


 そんなひ弱な力で押さえ込んだって、無駄無駄無駄。手足がなくたって、お前らに負ける気はしない。


「問答無用に攻撃してくるってことは、お前らもある程度のことは覚悟できてるんだろうな?」


 万が一の為に入れていた万能薬を飲み干し、千切れた手足の復活を待った。

 メキメキと生えてくる様は、まるで化学生物のようで気持ち悪いな。とても人間とは思えない。


「まぁ、いいや。俺も殺されかけたんだ。皆殺しでも敵わないよな?」

「き、貴様ァ! その髪、目色、やはり魔族だったか!」

「おいおいおい、勝手に決めつけるなよ? むしろ逆の救世主さまだっつーの」


 えぇー、俺ってこんな奴らを救うために魔王と戦うの? やだなー、命の張り合いがない。


 よし、指先に感触が戻ってきた。

 俺は奪った剣を振り上げ、そのまま上段の構えを取った。




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