第27話 この扱い、モブならではですね

 今まで感じていなかった理不尽感。

 そう、無条件に女の子にチヤホヤされる主人公補正。


 セシル達からは当たり前のように受け取っていたので気付かなかったが、他のモブはこの不当な待遇を常に味わっていたのかと思うと、涙が溢れてきた。


「ねぇ、王子様、魔物がウヨウヨして怖いよー」

「大丈夫だ。君のことは私が守るから、しっかり後ろについているんだ」

「きゃ♡ 王子様って頼りになるー♡」


 おい、テメェの目は節穴か?


 実際にモンスターを倒しているのは、俺!

 その王子様は滅多にない後方支援をしてるだけ! 訂正しろ! 「サキ様、頼りになるー♡」だ!


「うむ、サキ殿。流石だな、凶悪な魔物を一刀両断とは」


 お前じゃねーよ、王子様よォ!

 俺は女の子にキャーキャー言われたいの! 


「うぐぐぐっ、セシル達に会いたい……! 今はあの毒舌ですら愛しいぜ」


 血の涙が流れる。これぞまさに地獄絵図。

 いや、しかしだ……このまま合流していいのか?


 やっぱりエディのように、セシル達もロバート皇太子に移り気するんじゃ?


「くそぉぉぉ! 今まで身体を張ってきた意味がなくなるのか! 何で美味しいところばかり取っていくんだよ、王子様よォ!」

「とんでもない、私は何もしてないぞ?」

「天然は黙ってろ! クソ、どうせなら魔族側に寝返ってやろうか? そしてヒロイン全員寝取ってやろうか!」


 ラノベらしい展開じゃないか? ふふふっ、もう思考回路が壊れそうだ。


「ねぇ、アンタ。あまり王子様を悩ませないで? こんなに困った顔をして王子様が可哀想だよ」

「あのねエディちゃん。回り回って俺の方がイジメられている感じなの? わかる? わからねぇよなー……お前らがイチャイチャしてる間に俺がどれだけ死闘を繰り広げていたか!」

「むむっ、先に合流してくれていたら私も協力したのに」


 ごもっとも! 正論をありがとう、王子様!


 それにしても先が見えない。セシル達がどこにいるかも見当がつかない。相当な魔物を駆逐してきたが、それと比例するように疲労ダメージも蓄積されている。


 苦しいな、このままでは俺達の方が部が悪い。

 分かりやすい待ち合わせ場所でもあればいいのだが、何も決めずに決めてきたのが敗因だな。


「ねぇ、アンタ。アタシのテレパシーを受け取ったって話してたよね?」


 魔物を一掃して一段落した時、エディが恐る恐る尋ねてきた。


「あぁ、そうだよ。エディは補助系の魔法に長けているから、上手くいけば送れるかもしれないな」

「補助系……。それなら、ちょっと待ってね」


 エディはブツブツと詠唱を唱えると、青白い炎を発光させ、鳥のように飛ばせた。何それ! 初めて見た!


「人間に向かって飛ぶよう命令したの。王子様、サキくん、行こう!」


 お? 俺の呼び名がアンタから昇格した。少しは認めてくれたのかな?


 ガムシャラに進んでいた時と比べると、目的がハッキリしている分ストレスがない。ナイフに付着したドス黒い血を払って、ひたすら前に進んだ。


 俺、きっと今、レベルが爆上がりしてると思う。人類最強って豪語しても偽りないかもしれない。


 強大な狼、熊、それなんかを全部複合したようなキメラも、全部全部、薙ぎ倒してくれる!


 やっと見えた一筋の勝路、巨大なポイズンビックベアにトドメを刺した瞬間、反対側からからも大量の絶命の声が耳に届いた。


「わぁ、お兄ちゃん! よかった、無事だったんだね!」


 更に真っ赤に染まったロックバードが、天使のような笑みを浮かべながら走ってきた。

 おぉ、この一見無垢な少女と残虐な攻撃性のコンスラストが堪らない。スプラッター好きは興奮間違いなしだな。


 その後を追いかけるように、二人も駆け寄ってきた。皆、無事で何よりだ。豊かな柔らかいモノを大きく揺らして、眼福、眼福。


「サキ! よかった、無事なのね?」

「セシルもリースも、ロックバードも。皆も無事で何よりだよ」


 三人に熱い抱擁をされ一先ず安心したが、油断は禁物だ。ロバート皇太子と対面した時、三人はどうなるのだろう?


「良かったわね、サキ。探していた皇太子とも合流できて」

「それならさっさと山を降りましょう? サキさんも満身創痍ですし」

「お兄ちゃん、ボクが看病してあげるからね!」


 良かったァ!

 エディのような態度に変化したらどうしようかと思ったよ。


 年長者であるリースがロバートに説明をして守るような陣営で山脈を後にしたが、人見知りなのか、エディはロバートの後ろに隠れたまま全く話さなかった。


「人間怖い、人間怖い……人間ニンゲン……(ぶつぶつ)」


 いくら吸血鬼と人間のハーフで迫害されていたとはいえ、このままではダメだろう?


 あれでもロバートは一国の皇太子だ。いつまでもエディ一人に構ってはいられない。


「あら、あなたが4人目の覚醒者ね? 私の名前はセシル。純潔の聖女よ?」


 だがエディは、ロバートの影から一向に出てこようとしなかった。


「まぁ、セシルさん。怖がらせたらダメですよ。ここは私が……」


 子供をあやしたら天下一品。孤児院経営者、リースが視線を合わせて声を掛け始めた。


「こんにちは、私はリースよ。ずっと一人ぼっちで怖かったよね? でも、もう大丈夫。私達が側にいてあげるからね」


 そう言って手を差し伸べたが、ペシっと叩き弾かれてしまった。黒い影を落とした笑顔の背後にゴゴゴゴォォォォォ……と音が響き渡る。


 そんな二人を俺の背後から見ていたロックバードが、ひょいっと顔を見せた。

 おっと、甘えん坊がもう一人いたのか。


 ロックバードは服の裾をクイクイっと引っ張ると「あの子も仲間なの?」と聞いてきた。


「そうだよ。エディも覚醒者なんだ。ロックバードの仲間だな」

「ふぅん……」


 そう言うとテケテケテケっと近づいて、ニパッと笑顔を見せてきた。


「ボクはロックバード! ねぇ、エディ。その人はエディにとって大事な人なの?」


 閉塞的な村で育ったロックバードは、皇太子の存在を知らなかったらしい。まだ幼いということもあり、ロバートも大目に見ているのかもしれないが、もし彼が高圧的な王様だったら、大問題になりかねない会話だ。


「………(ぷいっ)」


 比較的年の近いロックバードの問いかけにも無反応だった。せっかく覚醒者が揃ったというのに、これでは先が思いやられる。


「あのね、ボクたちの大事な人はサキお兄ちゃんなんだよ! とっても強くて、カッコイイんだよ!」


 無視シカトという攻撃にもめげずに次の会話を続けるロックバード。今度は俺の腕を掴んでグイグイと紹介を始めた。


「……サキくんよりも、王子様の方がずっとずっと素敵だもん」


 やっと口を開いてくれた。

 パアァァァっと笑顔になったロックバードに癒されながら、俺とロバートは少し離れたところから見守るように座った。


「サキ殿、改めて私とエディを救ってくれたことを感謝する。あんな危険地帯に危険を顧みずにありがとう」

「なぁに、一国民として当たり前のことをしただけですよ」


 せっかく感謝されているのだから、途中、寄り道したことは伏せておこう。水を差すのは野暮ってもんだ。


 しかし、これからどうしたもんだろう?


 やはり魔王に備えて、今から子作りをするのだろうか? そもそも本当に覚醒者の呪いは解呪されたのだろうか?


 あの子たちにエッチなことはできるのだろうか?


「サキ殿……頼みがあるのだか、君も覚醒者達と一緒に城に来て貰えないだろうか?」「ん?」


 いや、元からそのつもりだけど?

 ご褒美を貰わずに立ち去るほど、俺は人間できていませんから。


 エディは仕方ないが、他の3人の初めては俺が貰う!


 だが邪な考えの俺とは裏腹に、ロバートは事態の深刻さを示唆していた。

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