第26話 あれ、何かがおかしい?
仲間とはぐれて、奈落のような崖を転げ落ちた結果、探していた皇太子と覚醒者の女の子を見つけたよ!
しかも謎だった自分の正体も判明しそうだ! なんと俺は、初代勇者にそっくりだそうだ!
「って、何で? そんなわけないだろう? おい、皇太子。普通に考えてみろ! お前のご先祖さまだろう? そんな奴が同じ時代に存在すると思うか? あり得ないだろう? 俺は思う、絶対にあり得ない!」
パニックに陥った俺は、爆発したかのように言葉を連ねた。それほど想定外の内容だったんだ。やむ得ない。
この世に存在するわけのない初代勇者よりも、悪役の方がよっぽど現実的だ。
実は魔王でしたってオチ、もうテンプレすぎて飽きられた? そんなの関係ないね!
「そもそも皇太子、お前はご先祖さまを見たことがあるのか? ねぇだろ? あるわけないよな? 見たことないくせに、無責任なことを言うな、バーカ!」
「私は別に、無責任に言ったつもりは……。だが、その黒い髪に黒真珠のような黒眼は間違いない。伝記に載っていたリンク様そのものだ」
確かにこの黒髪、黒眼はこの世界では珍しい特徴である。
でもそれだけだろう? 特異遺伝の可能性も捨てきれない。
「え、あなた……王子様の知り合いなの?」
すっかり皇太子の発言で、彼女の存在を忘れていた。確か純潔の混沌、エディ。
彼女が集まれば覚醒者が四人揃うことになる。
「俺は皇太子の従者に頼まれて探しに来たサキだ。俺以外にも君と同じ覚醒者が探しに来てくれてるぞ?」
だが、エディは岩陰に隠れたまま一向に姿を見せてくれなかった。
あれ、何かが違う。今までの覚醒者とは、何か手応えが違うぞ?
「………ねぇ、何でアタシを知ってるの?」
「え?」
「王子様はともかく、何でアタシのことも知ってるの? 怪しい……、アタシの名前を知ってるのはロバート王子だけなのに」
君が俺にテレバシーを送ったんだろう?
一方的な言いがかりに、言葉を失いかけた。だがここで折れては全てが水の泡だ。
ここは意地でも認めてもらわねば!
「ほら、エディは覚醒者なんだろう? 俺の仲間にはあと三人の覚醒者がいるから、無意識に助けを受けたようでさ。その時にエディの存在を知ったんだよ」
「アタシはそんなの一度も受けたことがない。やっぱり怪しい……。もしかして私と王子様を騙して、奴隷商人に売っ払う気なんじゃない?」
はァ? 人間不信も大概にしろ!
こんな危険地帯に侵入してまで、奴隷捕獲にくるバカはいねぇだろ? 命がいくつあっても足りねぇよ!
「エディ、やめろ。彼が言うことは強ち嘘ではないようだ。その証拠にバショウグンが所持していた誘導宝石を譲り受けたようだからな」
おぉ、王子様。意外と話が通じるじゃねぇか。
最初は面倒なことを押し付けやがって、近衛隊長めっと思ったが、大事な宝石を預けてくれたことに感謝した。
「そう言うわけで、あんたら二人を救いたいと思うんだけど、脱出の方法とか知らねぇ?」
随分高いところから転げ落ちたんだけど、何か方法はないかな?
とりあえずエディちゃんのテレパシーで、セシル達と連絡を取って欲しい。
「何でアタシがそんなことを……」
「頼む、エディ。私からもお願いする」
「わかった! 王子様の頼みなら何でも聞いてあげる!」
えー、態度が露骨に変わりすぎ!
流石の俺もショックを隠せないよ?
そうだよな。今まで覚醒者に会った時は互いにビビッというか、運命の相手に出会ったような衝撃を感じたのだ。
それがエディには感じない。けど覚醒者には間違いないようだ。あの三人と何が違うんだ?
「脱出の方法はアタシに任せて。その代わり、魔物退治はアンタに任せたよ?」
ロバートのことは王子様で、俺のことはアンタ呼ばわりか。生意気だな、コンチクショー。
だが何とか連絡を取ってくれたようで、他のメンバーとは出入り口で落ち合うことになった。
しかし、本当に大丈夫か?
僅かな違和を抱えながら、サキ達は脱出を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます