第20話 目を開けたら天使

 全身を襲っていた激痛が嘘みたいになくなった。


 嘘、もしかして俺、天に召されちゃった? そもそもどこから夢だったのだろうか?

 イケメンに生まれ変わって、しかも潜在能力ステータスにも恵まれて、美女に囲まれた日々とか、あまりにも出来過ぎだもんね。


 女神様、今「ドッキリでしたー」って看板持って現れたら、すぐに信じちゃうと思う。だからさっさとデッかいおっぱいを晒して、姿を現しやがれ、コンチクショー。


 薄らと開いた目蓋、そして眩しい光と、涙をいっぱいに溜めた美少女の顔が。

 おっと、ここは天国かな?


「お兄ちゃん、ごめんなさい! ボク、いつの間にか薬を飲まされて、意識失っていたみたいで……」


 意識を奪って操る薬だと?

 けしからんな、誰だそんなの飲ませたのは……。


「俺よりもお前の方がキツいだろう?」

「ボクは大丈夫。セシルお姉ちゃんに魔法で治してもらったし」


 よく見ればロックバードの後ろにセシルとリースも見守ってくれていた。

 場所はジョカの村から離れた洞穴だろうか? 天国からはずいぶんかけ離れた環境だけど、天女並みに美しい人達に囲まれて感無量だね。


「今頃、行方不明になったロックバードを血眼になって捜索してると思うから早く離れた方がいいと思うけど、サキさんは動けますか?」


 腕など傷ついた部分を見てみたが、うん、セシルの治癒魔法は完璧だ。睡眠も十分取ったし、問題ない気がする。


「悪ィな、俺のせいで足止めしてしまって」

「何を言ってるの。サキがいなかったらロックバードちゃんは未来永劫ジョカの村に囚われたままだったと思うわ。アンタは自分が思っているよりもずっとずっと偉大なことをしたのよ? もっと自信を持ちなさい!」


 おぉ……、セシルがそんなことを言うなんて、雪でも降るんじゃねぇの?


 ただね、さっきから浮かない顔をしているロックバードのことが気になる。そんなに俺のことを心配しなくてもいいのに。


「……ジョカの村、悪い人ばかりじゃなかったの。そりゃ皆の前で裸にされたり、ペタペタ触られたり、色々あったけど」


 ———うん、普通にアウト。

 アイツら、同性なら何をしても許されるかと思ったら大間違いだぞ?


「泣いていたボクを優しく撫でてくれた人もいるんだ。その人はボクを守るために代わりに罰を受けてくれたり……男の人も悪い人ばかりじゃないと教えてくれた」


 もしかしてその人は……。

 俺がリースの方を見ると、彼女も黙って頷いた。やはり口角に傷のある鑑定士、メルディに間違いない。


「ボクはいつか、勇者のお母さんになる為に村を出ないと行けないって。だから村の人の言うことを魔に受けたらダメだって。実際、サキお兄ちゃんを見て……その人の言う通りだって気付いたし」


 え、俺? 俺はー……あまり胸を張って言えるような男じゃないけどね?


「そもそも何でジョカの村の連中は、そんなに男嫌いになったんだ?」


 子孫を増やす為には、男の存在も欠かせないというのに。確かにこの世界の男共は擁護できるほど真面まともな奴は少ない。


 男尊女卑が根付いた、ちょっとクソったれって言いたくなる部分もある。だが悪い奴ばかりじゃない。


「それはジョカの村が出来たのが理由なの」


 そもそもジョカの村は奴隷達が逃げ込んで出来た村らしい。知性も教養もない、弱い人間が身を寄せ合って助け合って。


 だがその中ですら格差が生まれ、男が女性を蔑ろにし始め、やがて虐げるようになったらしい。


「だから女性達は結託して男達を殺したの。生きていく為には仕方なかったの。でも女だけでは子供は作れない。だから村から何名か選んで、子を作って戻らせていたの。でも……子供を産んだ女性は穢れと言われて残虐された。男との快楽を知った女が男の良さを村に広めたら、反乱が起きかねないと思ったからだって」


 中には拷問だけで済んだ人もいるけれど、人によっては二度と交われないように下部を傷つけれれるらしい。


 俺はふと、メルディのことを思い出した。彼女は顔の傷を見せてくれたが、あの何重もの布の下にはもっと酷い傷を隠し覆っていたのかもしれない。


 彼女もいい女だったのに……可哀想に。


「ボクも覚醒者だから、いつか勇者の子を産まなければならないって信託を受けたんだけど……それを知った長老が激怒して。いつもお香を嗅がせられながら言い聞かされていたんだ。『男はいらない。男は消しされ』ってね」

「おぉ……、それはずいぶん極端な」

「それからいつも助けてくれたのが、メルディだったの。ボクの……お母さん」



 ———ゾワっとした。鳥肌が立った。


 彼女は俺を村に誘導し、村の重要な存在を逃す手助けをした人物だ。


 しかも酷い拷問を受けた……危険人物。


「おいおい、ロックバード。なんでそんな大事なことを隠していたんだ。水くせぇじゃねーか……」


 一刻も早く去らないと?

 いやいや、逃げる必要がどこにある?


 こっちには覚醒者が三人と、カウカウドゥを一人で仕留める男がいるんだぜ? 人一人助けることくらい朝飯前だろう?


「セシルとリースは村から離れて待っててくれないか? 流石に守りながらは自信がない」

「……行くの?」


 これで行くような男なら、息子をぶった切ったほうがいいね。


「君が惚れた男は、ここで逃げるような弱い男だった? なぁ、セシル」

「———ううん、行かないって言うならぶん殴ってやろうと思ったわ。でも約束して。二人とも必ず戻ってきて。どんな傷を負っても、私が直してあげるから」


 強がるセシルを抱き締めて、キスを交わした。こんなに可愛いと離れ難くなるね。


「セシルさんのことは任せてください。私が命を掛けて守りますから」

「リースさんも無理をしないで。俺にとってはリースさんもかけがえのない大事な人ですから」

「ふふ、お上手ですね」

「……とはいえ、アナタがいてくれるから安心して任せられるんです。二人とも、くれぐれも自分の身を第一に行動してください」


 今度はリースを抱擁を交わし、口付けを交わした。


 そんな俺達の行動を見て、顔を真っ赤にしてワナワナしているロックバード。あれ、もしかして君もチューしてほしい?


「ぼ、ボクはいいよ! それよりも早く……メルディを助けに行こう?」


 必死に涙を堪えるロックバードの手を取り、俺達はジョカの村へと戻り出した。

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