第19話 強い女の子は嫌いじゃないよ
対時したのは一瞬だったが、それでも十分彼女の強さは伝わった。
この小さな身体のどこに、そんな力が秘められているんだ?
思わずゾクっとした。試してみたい、どこまでヤレるのか。
「ちょっとサキ! ボケっと突っ立ってないで、さっさと行くわよ?」
無謀な腕試しに魅了されていた俺を戻してくれたのは、相変わらず空気を読まないセシルだった。
確かに部が悪い。
こんな敵だからの中で守りながら戦っても、いつか限界が来るかもしれない。しかもこんな強敵を目前にして。
苦渋の選択だった。俺はぶつかり合った刃を弾き飛ばし、そのまま逃げることを選択した。
少しでも遠くへ、そうすればきっと。
二人の身体を肩に乗せて一気に駆け抜けた。身を隠して進んだ時にはあんなに長く感じた廊下も、あっという間に過ぎ去ってしまった。
「どう? 奴らは追いかけてくる?」
一心不乱に駆けた後、振り返ってみたが奴らの姿は見当たらなかった。一方的に筋力に振り分けられたステータスじゃ到底追いつけないだろうと予想したが、当てが外れなくて良かった。
そしてもう一つも、思惑通りに進んでくれて本当に助かるよ。
暗闇の中から姿を現したのは、獲物を狙うハンターのように潜んでいたロックバードだった。
やはり今も、昼間のような天真爛漫な笑みは見せてくれなかった。
「おいおいロックバード。俺に毛布を持ってきてくれる約束じゃなかったのかよ? 全然来ないから心配して村まで行っちゃったじゃないか」
冗談のようにからかったが、彼女は無反応のままだった。可哀想に、まだ洗脳されたままなのだろうか?
むしろ好戦的に距離を詰めて一気に剣先をぶつけてきた。
危ねェー……!
後少し反応が遅かったら、顔面に穴が開くところだったぜ。
「男には死を、男はいらない」
「おいおい、この世の生物は男と女が仲良くして生まれるんだぞ? そんな一方的に邪険にしたら、お父ちゃん泣いちゃうだろ?」
中には単細胞で増える生き物もいるが、それは今回置いといて。
「いらない、いらない……男なんていらない。男は滅する」
だめだ、聞く耳持たないな、コリャ。
諦めるように息を吐き捨て、目の前の敵に集中した。
ナイフの柄を構え直し、彼女の動きに対応した。金属が弾く音が響き渡る。
血が沸るね、コリャ。
息をする間もないとはこのことだろう、必死に守りに徹していたが、そんな俺を嘲笑うかのようにロックバードのギアが上がっていった。
「嘘だろ、まだ上がるのかよ!」
しかも力も強くなってる。攻撃を受けるだけで、ビリビリと痺れてしまう。
押され始めた俺を危惧したのか、遠くから見守っていたセシルが何かを叫んでいた。
くそ、危ねぇから今のうちに逃げてほしい。万が一俺が殺されたら二人で偲びながら生きてくれ……!
大勢を崩され、馬乗りになった彼女の剣が真上に振り翳されていた。絶対絶望。そう目を瞑った瞬間、ロックバードの身体が浄化されるように光出した。
まるで憑き物がとれたかのように、どんどん肌に赤みが戻っていく。瞳孔も戻って全部が癒された。
「良かった……魔法が効いたみたいね」
そう声がした方を見るとセシルが自分たちに向かって詠唱を唱えていた。どうやらステータス異常を治す魔法を唱えてくれたらしい。
「やっと私も、サキの役に立てたんだね……」
自分だけが役に立てなくてずっと劣等感に悩まされていたと白状された。
役に立たないなんて、そんな自虐はやめてほしい。セシルはいてくれるだけで周りを癒す最高な毒舌美少女なのに!
「もう、茶化さないでよ。大体サキが強すぎるから治癒する場面が少ないのよ。もっと私達のことも頼ってよ」
十分頼っているつもりだったんだけど、二人からしてみればそう見てたのだろうか?
しかし今回は俺一人じゃ、どうしようもなかった。本当に感謝してるよ。
「セシルもリースもありがとう……助かったよ」
そして、ついでと言っちゃなんっだけど、俺にも回復魔法を唱えてくれると助かります。
もう血を失いすぎて、眩暈が……、目の前が、霞む———……
「さ、サキ! サキ!」
二人の心配する声が遠くに聞こえる中、俺は意識を失った。
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