第四章 女人の村「ジョカ」

第16話 女だけの村って、ハーレム以外に考えられない

 女だけの村……ジョカ。

 何でも数代前の村長が酷い男嫌いで、男性禁制の村を作ったとか。


「その名残で、村人の大半は性の対象が女性レズビアン。かろうじて男性を受け入れられる女性が、数年村を出て子を孕んで戻ってくるみたいです」


 何だ、その文化———! 

 そんな夢のような村がこの世にあったとは知らなかった。何でも数代前の村長が酷い男嫌いで、男性禁制の村を作ったらしい。


「もし男の子が産まれたら、教会に預けるみたい。勝手な掟に振り回されて、可哀想よね」

「何を言う! その代々受け継がれた村を守る為には、やむ得ない犠牲も仕方ない! それで、その村はどれぐらいで着くんだ?」


 百合の村なんて、見ているだけで興奮してしまう。早く、一刻も早く向かわなければ!


「きっと馬車で三日後には着くと思うけど……。それにしてもサキ、とても嬉しそうね?」

「ん、そんなことないぞ? ほら、だってさー……俺も早く自分のことが知りたいし?」


 ———嘘である。本当が自分自身のことなんてこれっぽちも興味がない。今が楽しければどうでもいい。


「女の子が好きな女の子なんて、サキさんには何の得もないのにおかしいですね」


 あのね、リースさん……百合には百合の儚さがあるんですよ。むさ苦しい男が存在しない空間に癒しを求める野郎もいるんですよ。


 何ならセシルとリースのイチャイチャでもいい。むしろ美少女同士のイチャイチャなんて、ご褒美でしかない。

 それが集団なんて、きっと穢れを知らない洗礼された女子校のような空間なんだろう。


「……あまり期待しない方がサキの為だと思うけど?」

「ふふ、セシルさん。バカあんなになった殿方には何を言っても意味がないですよ? まぁ、少しは行くメリットもあるんですけどね」


 百合ハーレム以外にメリット?


「ジョカの村には覚醒者がいるんです。確か……純潔の戦士。ものすごく強い女戦士らしいですよ?」


 初めはロバート皇太子の詮索がメインだったのに、気が付くと三人目の覚醒者まで辿り着いてしまった。


「四人集めたら、セシルやリースの呪いも解呪されてエッチできるようになるんだっけ?」

「まぁ、サキさん。人類の危機だと言うのに、そんな破廉恥なことを考えて、いけない人ですね」


 そう言いながらもリースさんも、艶っぽくて色っぽい表情ですよ?


「まぁ、ひ弱な肩書きだけの王子様や愛人囲いまくりの脂きったオジ様よりも、ずっとサキさんに可愛がってもらいたいですけどね」

「ウゲェー……、そうね、覚醒者が集まるってことは、そんな変態に抱かれる可能性もあるのよね」


 そうか、今までの覚醒者は貴族や王族の子を孕んで勇者を誕生させていたんだ。

 いくらNTRが好物の俺でも、少し嫌かもしれない。


 それに今までは、何だかんだで最後までするのを見ていない。


 彼女達が他の男に襲われている姿を、俺は受け止められるだろうか?


「今、そんなことを考えても仕方ないですわ。さぁ、ジョカの村に向かいましょう」


 そう言って俺達は何の躊躇いもなくジョカの村へと向かった。


 ▲▽▲▽


 そして馬車に揺られること数日、やっとジョカの村に辿り着いた。

 思ったよりも原始的な……野生みの溢れる村だった。


 ま、まぁ、村だしな?

 正直、中世の教会が立ち並ぶような光景を思い浮かべていたから、出鼻をくじかれた気分だった。

 しかし女性だけの村なんだ。きっと綺麗なのだろう。


「うぉぉぉぉぉー! 取ったどー! カウカウドゥを取ったどー!」


 ドスの効いた重低音が響き渡った。男にしてはキーが高いけど、女の声には聞こえない。

 ウホッ、ウホと歓喜の声と共に、ガタイのいい女性の集団が近付いてきた。


 う、嘘だろう……? これが憧れの百合の村? 男性化した女性の集まりの間違いじゃないか?


「……残念ね、サキ。異性の目がなくなった女性は、よりガサツになるものよ?」

「そうですね、多少は異性の目があった方が、女は頑張る生き物ですからね」


 そ、そんな……!

 そんな情報、全女子校に憧れていた男性は、絶望に陥るぞ?


 闇堕ち確定だ。だってラノベの百合は、あんなにも綺麗で輝いていたのに?


「それが現実よ、サキ。心身と受け止めなさい」


 嫌だああああぁぁぁァ————……と、この世の終わりのような断裂魔が響き渡ったが、誰一人として同情しなかった。


「ところで、追い打ちをかけるようで申し訳ないんだけど、サキはこの村に入れないんだけど、どこで寝泊まりするの? もう馬車も行っちゃったし、野宿しかないわよ?」

「……へ?」


 え、俺だけ野宿? セシルやリースは?


「私達はジョカの宿に泊まるに決まってるでしょ?」

「嘘だろ? 待てよ、だってこの一帯、砂漠化してんじゃん? 夜は寒くて昼は暑いって奴だろ?」

「そうですね。しっかりと自分の身を守ってくださいね。ついでにこの一帯のモンスターは気性が荒い上に毒持ちが多いらしいので、くれぐれも刺されないようにして下さい」


 どうも親切にありがとうございます!

 くそ、薄情な奴らめ!


 自分達だけサッサと村に入って。それに比べて俺は、半径500メートル以内に入ったら弓矢で射抜かれそうになった。


「男は去れ。いらぬ!」


 俺が思い描いていた百合じゃない!

 いや、確かに百合に男はいらねぇけど、綺麗な百合のイチャイチャを透明人間になって見つめるのが、俺の野望の一つだったのに!


「クソクソクソ、ある意味黄金鳥よりもムカつくぞ! ガムシャラに頑張れば報われる無謀よりも、どうしようもない無謀が一番嫌だ!」


 しかも大人しく落ち込んでいる暇もないし。頭を抱え込んで叫んでいると、カウカウドゥっていう巨大な牛のモンスターが突進してくる。


 もう、少しくらいは感傷に浸らせてくれ!


 ムカつく感情のままナイフを振り回すと、突進してくるはずだったカウカウドゥが3歩前で息絶えていた。


 え、居合い抜き?



「危ないところだったね。大丈夫、お兄ちゃん」


 何とも可愛らしい、幼い声が俺をお兄ちゃんと呼んだ。誰だ、この天使のような声の持ち主は……!


「ボクの名前はロックバード。ここはジョカの村だよ? 男の人は入れないのに、何の用?」


 そこにいたのは俺が思い描いていた、穢れの知らない純粋なボクっ子だった。


 か、か、か……可愛い(悶絶)


 あまりに悲惨な状況の連続だったため、ロックバードの登場に思わず泣き崩れた。


 神よ、感謝します。今までの試練は彼女に出逢う為だったんですね!


「わわっ、お兄ちゃん? 大丈夫?」


 燃えるような赤いボブの髪を肩で結って、この幼さがまた良い。

 ヤバいな、この感情……懐かしい。セシルとリースを初めて見た時と同じ鼓動が蘇る。


 きっと彼女が第三の覚醒者に違いない。

 だってこんなに可憐で可愛いのだから! 


 これで覚醒者じゃなかったら、天性の美少女だろう?

 それなら俺が養う!

 理想の女性に育て上げる!



 彼女の肩を抱いて見つめ合っていると、遠方から火のついた矢が飛んできた。


 え、頬を掠めたんだけど、殺す気?


「男、ロックバードから離れろ! このクソ野郎、クソ○○○! クソ○○○!」


 酷い形相で叫ぶ監視者。そしてカンカンカンと鳴り響く鐘の音を聞き、大勢の男女が武器を持って襲いかかってきた!


「男、○ね! ○す!」

「おいおい、物騒な奴らだな! ちょっと肩を抱いただけだろう?」


 この時、俺はジョカの村を甘く見ていた。絶世の美少女と言っても過言でない覚醒者のロックバードは、ジョカの村の女達にとって、欠かすことのできない女神のような存在だったのだ。

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