第三章 魔物が住まう山「クルル山脈」
第13話 その頃、ロバートは……
【ロバート視点】
私はロバート、とある王国の皇太子である。ただ色々あって、現在回りに従者はいない。
自分の回りに皇太子として認識するものがいなかったら、もはや皇太子ではなくてただの人間で……それまで私を守ってくれていた威厳は、意味がないものになるのではないだろうか?
そう、今の私はただの人間。魔族に攫われた哀れでひ弱な存在だった。
「そんなに怯えなくてもいいよー? 大丈夫、ゴブリンみたいに乱暴にしたりしないからさ」
そう言って伸びた八重歯を見せて笑ってきたのは、エディという魔族だった。
種族はヴァンパイアだろうか?
一見、人間のように見えるが、背中から生えた羽根が種族の違いを主張している。
「ごめんね、乱暴なことをしちゃって。アタシ、どうしても王子様と話したくてさ。ねぇね、王子様って覚醒者の相手になる人なんだよね?」
「な、何故それを!」
魔族から覚醒者の名称が出て、慌てて身構え、思わず岩だらけの凶器の角に頭をぶつけそうになった。
魔王復興を目論み、世界征服を企んでいる魔族にとって、宿敵とも言える勇者。
その勇者の誕生には、覚醒者の存在は欠かせない。
くれぐれも魔族には覚醒者の存在は隠さなければ……!
「ねぇ、聞こえてる? アタシが質問してるんだから、ちゃんと答えてよー」
「こ、答えられぬ! 私は断じて覚醒者なぞ知らぬ!」
「………わざとらしい。言いたくないなら、もっと上手に演技してくれない?」
両手に小さな顔を乗せて、ぷくぅーと膨れた。尖らせた唇が年相応の可愛らしい仕草で心が騒めく。
これでも皇太子として様々な女性と出逢ってきたのだが、この娘……見た目は群を抜いて愛らしい。天性の美少女というべきか?
魔族なんて初めて見たのだが、こんなに美しい者ばかりなのだろうか?
「えへへー、王子様、もしかしてアタシに見惚れてる? 嬉しいなー、初めてだよ、好意を持ってもらったことなんて」
「こ、好意なんて、あり得ない! 私は一国の皇太子だぞ!」
「え、王子様は恋しちゃいけないって決まりがあるの?」
そ、それはないが、しかしだ……。
私には国を守る義務があるのだ。迂闊に婚儀の契りを交わした女性以外に現を抜かすわけにはいかない。
「こんにゃくしゃ? それってさー、覚醒者じゃなくて?」
「な、なぜさっきから私の考えていることが分かるのだ! まさか、心を読んでいるのか?」
「ううん、王子様がブツブツ言ってるんだよ? 素直な王子様だよねー」
私が言っているだと!
そんなことあり得ない!
「変な王子様だねー。そんなことより、アタシは覚醒者のことを聞きたいんだけどなぁ」
エディは困ったように頭を掻き出した。
この魔族……なぜそんなに覚醒者のことを知りたいのだ?
そもそも本当に知りたいのなら、こんな回りくどいことをせず、拷問にでも掛けて吐かせればよいのに……。
私は決して屈したりはせぬがな!
「何でって? それはねー、アタシが覚醒者だからだよ?」
———サラリと告白されたが、え……? は? はァ⁉︎
そんなことあり得ない!
だって君は魔族じゃないか!
魔族から覚醒者が生まれるなんて聞いたことがない!
もしそれが事実なら、覚醒者が集うことなど叶わず、勇者が生まれなくなるではないか!
世界の危機だ、人類滅亡の危機だ!
許さまじ事実に焦りを隠せなかった。非常事態だ……急いで老賢者達を集めて情報を共有し合わねば!
「アタシはさー、魔族と人間の間に生まれた禁忌の子なんだよね。人間だったママは、アタシが生まれる前に腹を裂かれて死んじゃったし、パパなんて誰かも分からないし。もちろん、こんなアタシを魔族が受け入れるわけないし、ずーっと虐げられて生きてきたの。けどね、ある時神様から教えてもらったんだ。『お主は覚醒者、純潔の混沌だ』ってね」
か、神から神託を受けただと?
しかも見せられた紋章の痣は、確かに覚醒者にだけ現れる印だった。
「やっとアタシに仲間ができると思ったら、嬉しくて嬉しくて! えへへー、王子様、アタシを覚醒者だって認めてくれる?」
信じられないが、認めざる得ない。まさか魔族側に覚醒者が生まれるとは……!
もし彼女に攫われなければ、発見は難しかったのかもしれない。
「エディが覚醒者だと言うなら、一刻も早く他の覚醒者と合流しなければ! 最近は魔族の動きが活発になってきたし、魔王の復活も遅くはないだろう!」
「うんうん、早くした方がいいとアタシも思うよ! そしてアタシのことを蔑ろにした魔族共をぶちのめそう!」
———とはいえ、問題はどうやって王国へ戻るかだ。
ここはクルル山脈、屈強の魔族が棲まう地獄に近い場所。
最弱に近いゴブリンにも太刀打ちできなかったロバートは勿論、魔族に目をつけられているエディも迂闊に徘徊などできない。
「来るときは死に物狂いだったからねー!」
せっかく重大な収穫を得たというのに、ロバートはどうしようもない窮地に立たされていた。
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