第12話 お姉様と呼んでもいいですか?
恋というものは突然現れる。
感情が昂ぶり、その人のことを考えるだけで身体が熱くなり、一日中想って。何をしてるんだろう、何が好きなのかなって、どうでもいいことをエンドレスに考えるのだ。
ただ通常、その対象は一人なんだけどね。複数の推しを想うのは……やっぱりズルいですか?
「最低以外の何者でもないね」
ぐはっ、やっぱりそうだよねー。
うん、きっと俺も他の奴が言ったら「ふざけんな、この脳内お花畑野郎! 推しが悲しむだろうが、絶対に認めねぇからな!」と罵詈雑言言い放ってやるね。
けれど起きてしまったものは仕方ない。
セシルのことも大事だけれども、リースのことも見捨てられないのだ。
「セシル、これには理由が……」
「近づかないで。サキはもう……私のことを好きじゃないんだね」
てっきり手当たり次第に暴言と暴力を振るわれると思っていたのに、その切ない悲劇のヒロインも顔負けの表情はどんな言葉よりも心を抉った。
違う、それはない!
いくら罵られても貶されてもセシルへの想いはなくなったりしない。だから日頃から言っているじゃないか。
それは君の魅力だと!
「サキさん、ここは私に任せてもらえませんか?」
一歩踏み出したのはリースだった。
この事態の要因である彼女がしゃしゃり出たら、余計にややこしいことにならないか?
「普通に考えたら、私が身を引けば解決するんですけど……私、サキさんのことを諦めたくないんです。だからサキさんとの友好的な関係を続ける為にも、私に説得させて下さい」
どうせ経験不足な俺では無理だから、ここはお姉様のリースに任せたほうがいいだろう。
彼女はセシルを個室へと連れて行くと、施錠をして閉じ籠った。
「あの中で何が起こっているんだ?」
まさか俺を脅した時みたいに、魔法で脅迫をしているのでは? それとも諦めろと諭しているのだろうか?
くっ、やはりセシルのことを思うと、リースさんのことは諦めるべきなのだろう。
だが理屈では説明できない何かが弾けたのだ。
どうにかして二人を幸せにする方法は……?
ラブコメの主人公は何をしていたっけ?
くそ、ご都合主義じゃなくて、まともな解決方法が知りたい!
「ふふ、お待たせいたしました。サキさん、セシルさんも納得してくださったので大丈夫ですよ?」
へ? まさか俺の身にもご都合主義が現れたのか?
どこかでか女神が見ていて、哀れに思って奇跡を起こしてくれたのだろうか?
いや、違う……これは!
後から出てきたセシルは、甘く蕩けそうな表情でリースの腕にしがみついていた。俺ですら見たことがない艶やかで幸せそうな顔だ。
「リースお姉様……♡ これからも一緒に旅をしましょう」
何が起きたんだ! できることなら事細かに全部教えて欲しい!
「よくよく聞いたらセシルちゃんは未経験な上に、自分でもしたことがない
ニッコリと微笑むが……女の悦びを教えて差し上げただと?
あの密室で、そんな破廉恥なことが起きていたのか?
まさかの……
「見たかった! その状況、死んでも見たかった‼︎」
「あらあら、サキさんったら、好きな人が他人に犯されている光景が見たい変態さんでしたの? 流石の私も少し引きますね」
「サキ……今すぐ時計塔から飛び降りて、頭を冷やしてきてくれない?」
死ぬから! 頭、かち割れるわ!
「所詮、私達覚醒者は男性と繋がることができないですから。それ以外の快感を分かち合うなら、自分優先の独りよがりの男性よりも女性の方が気持ちいいことを知っていますからね」
「そ、そうなのか!」
「力任せに揉んでくる男よりも、お姉様の方が繊細で絶妙で最高です♡」
いやいや、チャンスさえ貰えれば俺も繊細なタッチくらい出来るはず。
「サキさんも御免なさいね? アナタの大好きなセシルさんを寝取ってしまって」
いえ、俺はその状況を想像して興奮できる変態なので問題ないです。むしろ今後はその状況を見せて欲しいです。
けど元を言えば俺の優柔不断が原因なのに、リースにばかり頼って申し訳ない。俺に何かできることはないのだろうか?
すると彼女は恥じらいながら、上目で見つめてきた。
「まぁ、いくら女同士が分かり合っていると言っても、私もセシルさんも好きな人に触れられたいので……たまにはお相手して下さいね?」
コソっと囁かれたお願いに、顔から火が出そうになった。一生この人には敵わない気がする。
「お姉様、ズルいです! 私だってサキとイチャイチャしたいんだからね? もう……っ、こんなこと女に言わせないでよォ」
ふ、二人とも可愛すぎるぞ!
早速今夜、両手の花で愛し合ってやりたいくらいだ。
「そんなことより、まずはロバート皇太子の救出が最優先ですね。ご褒美はそれまでお預けです」
「くっ、こんな素晴らしい推しを目の前にして、それは拷問だ……!」
「お姉様、私達は別ですよね?」
すっかり骨抜きにされたセシルは、最後まで食いついていたが、却下されていた。可哀想だが、俺だけを除け者にされなくて安堵した。
そして翌日、リースは孤児院を牧師に委ね、当面の資金を預けて子供達のことを託していた。一度に渡すと持ち逃げされる可能性もあるので、少しずつ配給する形を取ったのだ。
牧師が持ち逃げとか、世も末だが……。
今まで母親のように慕っていた子供達は、泣き喚いて引き留めていたが、リースは心を鬼にして別れを決意した。
「子供達が魔物に襲われるよりは、離れ離れの方が幾分か我慢できますからね。生きていれば、いつか会えますから」
とはいえ、濡れた目尻を見て俺達はリースのことを抱き締めた。
———……★
第二の街、ダーナイトまでお読み頂いてありがとうございます。少しずつ明らかになっていく異世界の状況。次のヒロインが出てくる前に間話が入りますので、よろしくお願いいたします。
また、もし面白いと思ったり、思ったよりも読めると思ったら、★などを入れてもらえるとやる気が出ます。よろしくお願いいたします。
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