第8話 私が欲しいのなら、どうぞ身体を張って下さいませ

 最後の一人を見送った後、やっと警戒心が解けたのか張り付いた笑顔の仮面を外して気怠そうな表情で前髪を掻き上げた。


「——あら、まだ残っていました? 私も早く休みたいので出てきて下さいませんか?」


 ゲッ、バレてた?

 上手く隠れてたつもりだったんだけどな。


 観念して姿を現すと、彼女は驚いた様子でで口元を隠した。


「まぁ、アナタでしたか……。たしかセシル様のお連れの方ですよね?」

「覚えて頂いて光栄です。ってことは、俺が言いたいことも分かりますよね?」


 彼女はジッと見つめると、周りを見渡すようにキョロキョロと視線を動かした。おそらく他に誰もいないか確認したのだろう。


「お一人ですか? もしかしてずっとお待ちになっていました?」


 その質問、俺が見てたことがバレバレってことですよね? 素直に言っても怒らない?


 苦笑を浮かべてはぐらかしていると、彼女も釣られて笑い出した。


「怒るもなにも……見ているだけで満足ですか? よろしければお相手致しますよ」


 既に十人以上の男の相手をして疲れているはずなのに、笑みを浮かべて近付いてきた。大人の色気が半端ない。これはエロいな……。

 だが申し訳ない。今の俺は賢者タイムなので相手をしてもらう必要はない。


「あら、大きくない。確かにあんな綺麗な方がお側にいたら、私では不足ですよね」

「い、いや! お姉さんも綺麗だし、全然引けを取らねぇから!」

「ふふっ、アナタみたいな見た目の良い殿方に言われたら嬉しいですね。私の名前はリース。アナタのお名前もお伺いしてよろしいですか?」


 そう言った瞬間、二つの大きな膨らみがポロンと現れた。


 なんと素晴らしい真っ白でふわふわな神秘の膨らみ……柔らかなそれは全人類の癒しだ。見ているだけで拝みたくなる。有難い、存在しているだけで尊さを感じてしまう。


「俺はサエキ……いや、サキです。あの、何をするんですか?」

「ふふっ、むしろ何をして欲しいですか?」


 それ、俺に聞く?

 そりゃ、そんな素晴らしいもので挟まれたら、誰だって天国を味わえると思いますが……。


 え、俺も体験できるの?

 先程の方々みたいに金もないし、権力もないんですが、いいんですか?


 きっと彼女にとっても、その膨らみが最大の武器なのだろう。自慢したい気持ちも分かる。きっと俺も女なら自慢して曝け出す。


「それじゃ……いただきますね」


 男の憧れ、パイズ○……。いいの? こんなナイスバディ美女に。転生前の世界でなら一回で何万円も取れる高級プロだぞ? 



 ———だが、またしてもあの悪夢が蘇る。

 何で、どうして?


 何故俺の息子は美女を目の前にすると縮こまるんだ⁉︎


 いくらチャレンジしても変わらない息子に、リースも難色を示し出した。流石の俺も頭を抱えて絶望した。

 なんだよ、粗チンお前……! 本当に俺の息子か? 滾れよ、もっと聳え立て!


 今、勃たないでいつ勃つんだよォォォー!


「あら、こんなはずではなかったんですが……」


 ———お姉さんは何も悪くないです。全部俺のせいです。


 きっと俺は綺麗なお姉さんとはエッチが出来ない呪いがかかってるんですよ。そうとしか考えられない。でないとおかしい! だってさっきまでは元気だったんですから!


 ただでさえ奉仕し続けた彼女に、これ以上無意味な行為を続けさせるわけにもいかず、俺は天国行きのチケットを自ら放棄した。


「すいません、もういいです……これ以上迷惑は掛けられません」

「あら、私は全然構わないけど。本当にごめんなさい。私も疲れてるのかしら?」


 いやいや、お姉さんのテクは天下一品でした。

 ダメなのは俺。そう、前回の屈辱を糧に沢山の修行を積んだのに、肝心な時に役に立たないとは……この愚息、なんてザマだ!



「ところで、私に何か用があったんじゃないのかしら? また同じ話をしにきたの?」


 話題が変わった途端、リースの雰囲気がピリッと張り詰めた。

 それは言葉も比喩だけでなく、実際に火花が散るというあり得ない状況が繰り広げられていた。


「いや、リースさん……俺の話も聞いてもらえませんか?」

「たしかサキさん達の話は、孤児院の子達を見捨てて皇太子を探せってことでしたよね?」


 いや、言葉の選択チョイス! そこまで無慈悲なことは言っていない‼︎


「どうも魔族の動きが怪しくなって、覚醒者であるリースさんも狙われる可能性が出てきたんです。現にセシルも襲われたし、だから俺達と一緒にいたほうが」


 言葉を続けた結果、バチバチバチィ……っと、激しいプラズマが目の前で発生した。あまりにも衝撃的な現象に、空いた口が塞がらなかった。

 ま、前髪が少し焦げ臭い。


「申し遅れましたが、私は純潔の魔女。きっと……いえ、サキ様よりも強いと思うんです」


 彼女は冗談のように笑いながら言っていたが、脅すための抑えられた威力、だが脅威を与える絶妙な位置へのコントロール。


 確かにこれは強い。思わぬ冷や汗が頬を伝った。

 おそらく次はない。今度ふざけたことを言ったら命はないと忠告しているのだ。


「——とはいえ、このまま帰すのは可哀想ですね。一度だけチャンスを差し上げます。この街の近くに黄金鳥の眠る洞穴があるんですが、その鳥を無事に捕獲することができましたら、私よりも強いと認めて差し上げますわ」

「黄金鳥……?」

「その鍛えられた筋肉が飾りではないことを、証明してくださいませ?」


 こうして俺は、リースの信用を得るために彼女の試験を受ける羽目になってしまったのだ。


——……★


次回の更新は6時45分になります。

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