第7話 聖母の裏の顔

「何なの、あの女……! 王族に逆らったらタダじゃすまないのに無責任にもほどがあるでしょ⁉︎」

「まぁまぁ、仕方ないって。そもそもロバート皇太子の捜索を任されたのは俺達であって、彼女は無関係だから」

「あら、そうだったかしら? けれど覚醒者である彼女も魔族に襲われる可能性があるから、保護しないといけないでしょ? 勝手に単独行動をとられても困るわ」


 確かに一緒に行動した方が危機は減るかもしれない。


 っていうか、さっきそう説明すれば良かったのにと思わず苦笑を溢した。魔族が襲って来るかもしれないから、子供達を守りたいなら隔離された方が安全ですよーってね。


「それに、だって……」

「ん、どうしたセシル?」


 さっきまでの威勢とは裏腹に、歯切れ悪く口籠もり出した。


「その、彼女の……他の人ができないことをして、正しいことをしてますっていう態度が私を責めているように見えたし……」


 セシルの言葉で、教会を訪れる前の出来事を思い出した。


 本当は自分も助けたかった。消えかかった命に手を差し伸べたかったのに。天秤にかけて無理だと諦めた自分が情けなくて、悔しかったと訴えるようにセシルは顔を顰めた。


「いや、あんなん普通の人間には無理だよ。しっかし、実際どうやって金のやりくりをしてるんだろうな。あれだけの人数の子供を養うのって、相当金が必要なはずだぞ?」


 彼女が貴族の娘とか、金が無限に湧き出る袋を持っているなら話は別だけれども、生憎そのようには見えなかった。


「きっとただの偽善よ、偽善。弱いものを守ることで、私って優しいーって必要以上に無理して悦に浸っているに違いない。そうに決まっているわ」

「今日も言葉が辛辣だねー……。そんな素直なセシルが好きだよ」


 けどね、行き過ぎた偽善は自殺行為と言っても過言じゃない。自分の身を削ってまで、どうして彼女は頑張るのだろう?


「……セシルは先に宿に戻っててくれないか? 俺はもう少し話てくるよ」

「はぁ? あんな女に構うなんて時間が勿体ないわよ?」

「話せば分かってくれる気がするから。今晩だけでいいから、な?」


 彼女は更に渋い顔を作ったが、諦めたように納得してくれた。


「……分かったわ。私が行っても毒しか吐けないから、サキに頼むわ」


 頼ってくれて嬉しいよ。そしてセシル自身のことも理解してくれていて、本当に助かります。


 とても魅力的なんだけどね、セシルの毒舌も。俺は好きだよ? だから俺の愛の囁きにも反応示して?


「え、何か言った? いざっていう時に役立たない祖チンの口説きに何の意味があるのかしら?」

「ゲブン……っ! そ、それ以上傷を抉るのはご遠慮くださいませ、セシル様……‼︎」

「——っていうのは冗談で。覚醒者である彼女が魔族に攫われるようなことになったら、それこそ世界が滅びかねないものね」


 あなたが守りたいと思っている大事な孤児達も、世界と共に失い兼ねないと分かってもらわねば……。


 責任重大だね、なかなか。


 だがその緊張とは違う高鳴りと共に、俺は孤児院へと足を向け直した。



 大勢の孤児達の面倒を見ていたことを思い出して就寝の時間を狙って訪ねたのだが、チャイムを鳴らしても反応がなかった。


 もしかして壊れてる?

 しかもドア、開いてるし。


「子供達もいるのに、不用心だな」


 それとも教会を兼ねているから、誰でも入れるように解放しているのか? それは人を信じ過ぎだろう、聖母様。


 入ると大きくて立派な女神像が聳え立っていた。たくさん並んだ参拝用の席を見て、信仰が盛んだということが見受けられた。


 俺のことを異世界にいざなったなも同じ存在なのかなー? おっぱいも大きくて、エロいお姉ちゃんだ。



「っと、無機質な女神像じゃなくて、本物のおっぱいお姉さんを探さねぇとな」


 静まり返った暗い廊下を進むと、奥の部屋から照明が隙間から漏れて見えた。子供とは違う、野太い声が楽しげに談笑している様子が伺えた。


 何だろうなー、どうして嫌な予感しかしないのだろう?

 あまりにも不釣り合いな状況なんだよね、これ。


 だってこの世界は権力が絶対で弱者は虐げられる存在で、あの聖母のような微笑みの美女も搾取される立場なのだ。


「ほらほら、魔女様。金が欲しけりゃ、オレ達を満足させてくれ」

「この豊満な胸が最高なんだよな」


 やっぱりそうなのか———っ!


 だよね、だよね? こんなオチだよな!


 三人の兵士に囲まれて、白濁塗れになった彼女を見て、酷く後悔した。ここは教会の中の孤児院。そんな場所ですら救われない行為が繰り広げられているなんて……!


「ふふっ、満足して頂けたなら幸いです。これからもどうぞ、ご贔屓に」


 はだけた胸元を直して、ハンカチーフで口元を拭って。彼女は母親の顔で微笑んだ。


 強いな、この人……。こうして孤児達を守っていたのか?



 その後も何人もの役人が彼女の元に訪れた。中には乱暴な言葉で罵る奴もいたし、SM紛いな行為をして愉しむ輩もいた。


 だが彼女は嫌な顔一つせず、全員を満足させて帰らせた。


 人によってはこの行為を、汚い売女めと罵るかもしれない。

 けれども——少なくても俺は、子供達の為に奉仕し続ける彼女が本当の聖母のように映って見てた。



———……★


次回の更新は6時45分にします。

そして前日は急遽お休み頂いてすみませんでした💦

とりあえず、大丈夫です✨ ありがとうございました!

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