第5話 悔やんでも悔やんでも、結局どうしようもない

 あれから数日経ったが、未だにセシルは籠城を貫いていた。飯やお風呂はそれなりに済ませているようだが、心配で仕方ない。


「どう考えても俺が原因なんだけど……」


 セシルは何も悪くない。100%俺が悪い。

 あれからどんな時でも出来るように、イメージトレーニングは万全にこなしてきた。


 だから、だから……出てきてくれ、セシルさん!


 他の方々からの視線が痛いのなんの!

 特にお爺様が呪殺する勢いで睨みつけてるから!


「お主達に何があったかは聞かぬ。むしろ聞きたくもない! じゃがな、ワシの大事な孫娘を泣かせるなんて言語道断!」


 いやいや、その孫娘はゴブリンにもっと酷いことされたたからね?

 自分よりも立場の低い俺には強気だなー、爺さんも!


「俺の方が泣きたいんですよ! いくら緊張していたとはいえ、勃たなかったなんて!」

「た、勃たた?」


 セクシャルワードに村長も一瞬フリーズしたが、孫娘の純潔が守られていたことに安堵の表情を浮かべ始めた。


「そうか、そうか……そうじゃったか。それは仕方ないのう。何せセシル相手じゃ緊張で勃たなくなるのも仕方ない。サキとセシルじゃ月と虫ケラじゃ」


 爺さんにとって俺は、スッポン以下か。それともそれがこの世界のことわざ? 何にせよ悪意がてんこ盛り!


「にしても、お主も情けないのう……。恐縮する気持ちは分かるがな」

「本当です。全面的に俺が悪いので、セシルには普通にしてもらいたいんです。俺なんかのせいで引き篭るなんて……」


 彼女にはもっと、明るい場所で笑っていてもらいたい。あんなことで躓くなんて、申し訳なくて死にたくなる。


「それなら何とかせんか。おそらくセシルは、お主を待っとるんじゃないのか?」

「待ってる……? いや、そんなこと村長に分かるのか? もし違っていたら、俺はとんでもないミスを犯す羽目になるんだぞ?」

「そんなこと知らんわ! そもそもお主が嫌われようが、そんなのどうでもよい!」


 うわっ! 本音が漏れたよ、この爺さん……!


 確かに俺は目の上のタンコブかもしれないけどさー。


 だが、村長の意見も一理あるのかもしれない。俺が悪いなら、ちゃんと謝るのが筋だよな……。


 最悪は土下座してでも許してもらおう。それしか思いつかない。そう、たとえ蔑んだ目で見られようと──……



「──何しに来たの? もう二度とそのチキン顔を見たくなかったんだけど?」

「うっ、これでも一応、一緒に旅をする仲間だろ?」

「まだそんなことを言ってるの? そんなの解消に決まってるでしょ?」


 当然の結果で予想していた言葉だったが、実際に言われるとショックが大きい。


 そのくらい彼女を傷つけたのだ。仕方ない結果だが、これで終わりなのは悲し過ぎる。


「——もう二度と、セシルに会えないんだな」


 この扉を閉めてしまったら、完全に縁は切れるだろう。

 所詮、俺とセシルは知り合ったばかりの赤の他人。


 だけど俺は、こんな終わり方……絶対に嫌だ。


「……ならさ、最後に言わせてよ」


 傷つけて「ごめん」と、そして──「初めて見た時から、セシルのことが好きだったよ」と。


「俺はさ、セシルとあんな雰囲気になれて死ぬほど嬉しかったよ。ただ気持ちと身体が一致してなくて、傷つける結果になったけど」


 ちゃんと謝ることが出来て、心做しか楽になった気がする。


 互いのことを考えると、ここで別れるのがいいのだろう。別にね、俺は勇者じゃないから一緒にいないといけない理由はない。


 仕方ない、仕方ないんだ。

 だからこの目から溢れてくるのは、涙なんかじゃない……!



「ちょっと待ってよ。サキは……少しは悲しかった?」


 その声と共に扉が開き、離れようとした俺の手を取って小さな声で引き留めてきた。弱い力で、そっと添えるように。


「少しどころか、かなり。自分の不甲斐なさを何度も悔やんだよ」

「……そうなんだ。そっか、それならいいかな」


 そう言って今度は、背後からギュッと抱き締めてきた。


 え、嘘、もしかしてこれで仲直り?


「私もサキのこと好きだよ……。だから一緒に行ってあげる」


 で、デレ?

 もしかして、めちゃくちゃデレてる?


 見たいな、その表情。少しくらい覗き込んでもいいよな?


「なっ、振り向かないでよ! バカサキ! このインポチキン!」

「うっ、それは言わないでくれ! 呪いの言葉で一生勃たなくなりそうだ!」


 こうして開かずの間から救い出すことに成功した俺は、最愛の推しと旅に行く権利を得たのであった。


———……★


さて、次の街へと出かけましょう!

次回更新は6時45分です。


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