第3話 この世界のゴブリンは意外と強いらしい
「ちなみに我々が狩りを行っていたのは、この北東にあるミシガンの森だ。ここで私たちはゴブリンの襲撃に遭い、そのまま幻覚を見せられて操られていたと推測される」
そう教えてくれたのは、近衛隊長のバショウグン。
皇太子には誘拐された時の為に発信機のような誘導宝石を身体に埋め込まれているらしく、その光は現在も健在だということだった。
つーか、そんな便利な魔法道具があるならば、隊長達で捜索を行えばいいのに。
大事な王族でしょ?
それが筋ってもんだ。
「いや、正直私たちのレベルでは太刀打ちできないと思われる。しっかりと装備や武器を備えていれば良かったのだが……」
意外にもこの世界でのゴブリンの脅威は凄まじいらしい。
へぇ、そうなのか。だから俺の拳も粉砕骨折したってわけか。
って、素手で戦って倒した俺って何者?
そりゃ皆が頼りにするわけだ。ある意味、皇太子よりも勇者的存在じゃん?
「強力なスキル持ちなら何とか戦えると思うのだが。そういえば君はスキルや特殊能力を使わないのか?」
「あー、俺ですか? 実は記憶喪失で、この村に来る前の記憶が全くないんです」
「そうなのか……。だから神託を覚えていないのか」
どうやらこの国の人間は、生後直ぐににジョブとスキルを告げられるらしい。
———ってことは、俺も忘れているだけで得意技を持っている可能性があるってわけか。とりあえず無能でなかったことは喜ばしい。
だがその一方で自力で思い出す他に術がないとも知り、またしても頭が痛くなった。それに屑スキルの可能性も捨て切れない。
「本当、マジで使えねぇ……」
するならちゃんと仕事をして欲しいよ、女神さんよォ。俺をストーリーの主要メンバーにしたいなら、ちゃんと説明責任果たしてくれ。
「さっきから何をブツブツ言ってるの? 隊の人達の前で不審者烙印押されたら大変よ?」
頭を抱えて落ちるところまで落ちていると、甘い香りと共に耳元に吐息が掛かった。
——頭の中が真っ白になった。
いや、ピンク?
一瞬にして何もかもがどうでもよくなった。
驚いた顔で振り向くとセシルが勝気に女王様のように微笑んでいた。ついこの間まで皇太子に化けていたゴブリンに弄ばれていたくせに、実に生意気だ。
「ねぇ、右手見せて」
「え、何? 別に何も持ってないけど?」
「とぼけないで。ゴブリンを殴った時に負傷したでしょう? 治してあげるから見せてよ」
セシルが気にすることを恐れて隠していたが、俺は観念したように右手を差し出した。とりあえずは村長にもらった薬草で誤魔化してはいたが、それも限界だった。痛くて痛くて仕方ない。
剥き出しになった皮下組織。折れた骨が皮膚から突き出ているので、人によっては気を失うレベルのグロさだろう。
「こんな傷を我慢するなんて、サキって本当にお馬鹿さん。私に声を掛けてくれたらすぐに治してあげたのに」
そう言ってセシルは詠唱を始めた。精霊とか神の加護をとか、それっぽい言葉を綴った後に眩い光を放ち、あっという間に元の状態に戻した。
これが純潔の聖女の力か……。
つーか、魔法スゲェ! この世界の人間は使えるのか⁉︎
「バカね、皆が皆このレベルの魔法が使えたら、覚醒者が存在する意味がなくなるでしょう? 覚醒者はその専門のエキスパート。つまり回復や蘇生に関しては私に敵う人間はいないってことよ!」
この力を見るまでセシルのことを見くびっていた。ただの見た目がいいツンデレ属性のエロ要因だと思っていたのに、意外と
何度も指を動かして動作確認を行った。
どこにも後遺症もない、素晴らしい魔法だ。
「ちなみに応急処置レベルなら、そこら辺の人間でも使える人はいると思うけどね。まぁ、私の足元にも及ばないだろうけど?」
あ、これ煽てて欲しいアピール? 持て囃して欲しいんだ。分かりやすい子だね、セシルちゃん。そんな単純なところも可愛いんだけど。
「そういえば……隊の方々が帰ったら今後のことを話したいの。後で私の部屋に来てくれる?」
「部屋? 別にいいけど……」
生まれてこの方、女性の部屋に入ったことがないんだけど? 想像しただけで興奮してしまう。やましいことを考えているとバレたら、セシルに引かれそうだと思い、少し前屈み気味に姿勢を崩した。
だが、そんな俺の考えとは裏腹にチラッと下半身に視線を落として誘うように笑みを浮かべた。
あ、コイツ、俺が欲情してることに気付いた上で誘ってるんだ。
ってことは、これって合意の上ってヤツだよね?
わー、純潔の聖女の肩書きが泣いちゃうだろう。ついでに村長も大泣きしちゃうよ?
とは言え、命を賭けてゴブリンから救ったんだから、これくらいのご褒美はないとやっていけない。少しは異世界転生の旨みを味わうことができそうだ。
「森の中を走ったせいで泥まみれだからさ、身体を洗ってから行くよ」
「そんなの気にしないのに。汚くても綺麗でも大差ないよ、サキは」
それって褒め言葉? ねぇ、褒め言葉として受け取っていいの?
まぁ、血と泥の臭いがキツイので、綺麗に清めてから行きますが。
そして俺が席を立った後にセシルが「……サキのくせに焦らし過ぎ」ってデレを漏らしたなんて、もちろん知る由もなく。
汚れを綺麗さっぱり落とした俺は、目一杯の期待と欲を胸に
———……★
次回、ご褒美回⁉︎
ヒロイン1人目、いただきます!
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