地獄へ堕ちたい魔術師
竜田くれは
地獄行きの魔術師
「君をこのギルドから追放する」
「あれ、俺何かやっちゃいました?」
「死体遺棄、放火殺人、不法所持、証拠隠滅、器物損壊」
「……」
全ての罪状に心当たりがある。
「重大な法律違反だ。それを昨日の一日に五度だぞ!?倫理観ゼロか!?」
対面に座っているギルドマスターは深く、溜息を吐く。
「いくら君が英雄とは言え、流石にこれ以上は庇いきれない」
だから、追放することが決まったとギルマスは告げる。
幾度も犯罪に手を染めてきた俺が処罰を受けなかったのは名声と、ギルドの後ろ盾があったからだ。だが、罪を犯し過ぎた俺をギルドは遂に見捨てたらしい。
追放された後また罪を犯した俺は牢屋に入れられ、処刑の日までとんとん拍子に決まった。
処刑台の上に立つと、見物に訪れた民衆から怒号と罵声が浴びせられた。
かつての英雄がなんてざまだ、と。
そんな雑音は気に留めず、ふと口から零れたのは、
ああ、やっと地獄へ逝ける、という言葉だった。
俺は勇者パーティーの魔術師だった。勇者、戦士、聖女、そして魔法使いの俺。
全員が幼馴染で仲良しパーティーと揶揄されることもあったが、実力はあった。
勇者パーティーは最強だった。戦士は剣の腕で世界一であり、聖女はその名に相応しい癒し手だった。俺は広域殲滅ができたし、勇者はとてもモテた。
最強のパーティーは結成から二年で魔王軍から世界の半分を取り戻した。
人類の希望となった俺たちは魔王討伐を成し遂げた。
英雄と称されるようになった。
俺たちは莫大な富と名声を手にし、悠々自適な生活を送れると思っていた。
だが、そんな考えが甘かったことをすぐに知ることになった。
まず、勇者が死んだ。魔王との戦いで既に力を使い果たしていた。
次に聖女が死んだ。勇者という心の拠り所であった勇者を失ったことで、彼の後を追って自刃した。
そして、戦士が死んだ。二人を生き返らせる蘇生の秘薬を探しに旅に出て、帰らぬものとなった。あっという間に仲間を全員喪った。
それから暫く何も手につかなかった。所属している魔術師ギルドに顔を出すこともなく、朝から晩まで飲んだくれる日々。素面の時は教会へ行き、祈りを捧げた。
そんなある日教会で祈りを捧げていると、ある神父がこう言った。
「勇者様たちは地獄へ堕ちられました」
と。
神父
そんな馬鹿な、とその時は気にしていなかったが、それ以降毎日悪夢に魘されるようになった。勇者たちが終わらない苦痛を味わっている夢だ。
俺はのうのうと生きていていいのか。地獄に堕ちてみんなと一緒に責め苦を受けた方がいいのではないのか、なんて考えるようになった。
地獄への堕ち方なんて知らない。蘇生のような大がかりな禁忌の犯し方は時間がかかり過ぎる。かといって軽い罪程度なら今まで積んだ徳と相殺されて、地獄行きとまではならないんじゃないか、とも考えた。そうして考えている内に、一つの計画が出来上がった。
まず、軽犯罪を幾度も行う。これで積んだ徳をゼロにする。次に放火や殺人などを犯す。そして、仕上げに教会を破壊する、という禁忌を犯す。
全て上手くいった。軽犯罪はギルドが揉み消したが、罪は消えない。放火殺人プラス諸々で追放された後は教会を破壊し、神父たちも塵殺した。計画通り、完璧だ。
これで多分地獄へ逝けるだろう。
待っていてくれ、みんな。俺も一緒に苦しむから。
地獄へ堕ちたい魔術師 竜田くれは @udyncy26
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