第21話 ティア・レイン④

 夜の11時、いつもならベッドに横になっている時間に私は都市長であるお父さんの執務室にいた。


 目的は海洋都市の全てのデータが閲覧可能な情報端末機。


 私が昨日知ったキーワードは、春の苗字と彼の両親の仕事、そして二人が自殺したこと。

 春の苗字は常月とこつき、これは春が教えてくれたわけでも、春のおばあちゃんが教えてくれたわけでもなく、単純に彼らの家の表札に書いてあっただけ。


 表札は昔々はどこの家にもあって、歴史の過程でプライバシーとセキュリティの観点から廃れた文化だけど、今は海洋都市以外で生活する家屋には表示が義務付けされている。


 それは、場合によっては家屋そのものが墓石となり、表札は墓標となるから。


 海洋都市から離れて生活する以上、万が一の事態において一切の援助が受けられなくなることも覚悟しないといけない。その覚悟の一端が、あの表札だった。


 その苗字が、ある可能性を私に予感させていた。


 私は情報端末機に『常月』、『都市エンジニア』、『自殺』とワードを入力して検索をかける。

 出てきたのは、春の両親の自殺の経緯の概要と、最重要機密のロックがかけられた、『人類限界日数』の項目。


 予感は、当たっていた。


 今晩からの私の夜の日課が決まった。睡眠時間を削れるギリギリまでここで情報を収集する。今まで役に立たなかった目覚まし時計が活躍する日も来るかもしれない。


 だって、このままじゃ嫌だから。


 せっかく楽しくなった日々を、なんの理由もなく終わらせたくない。


 何も知らないまま、世界が終わるのを待つのなんて嫌だ。


 沈む太陽を、黙って眺めるだけの私じゃ、もういられなかった。

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