第14話 ブック・ライフ③
夕方になって、空が白み始めた。
私たちもいつも通りに帰り支度を済ませて学校の外に出る。
「それじゃ、春。春の薦めてくれた本、とても面白かったから。明日も他の本を読むの楽しみにしてる」
上機嫌な私はそのままのテンションで自然と明日の話をしていた。
「そう思うなら家に持って帰ればいいのに。僕がそれをやると泥棒になっちゃうけど、この校舎が未蕾のモノならあの本たちも君の管理する対象ってことで良さそうなのに」
「あのねえ、貴重な紙の本を持ちだして汚したり失くしたりしたら大変でしょ。…………それに、きっとここで読むから楽しいこともあるのよ」
もっともな理由を並べながら、私は結局ここに足を運ぶための理由を減らしたくなかったのかもしれない。
少なくとも、みんなが絶望して死んだ目をしている
「そうか、それなら良かった。それじゃあまた明日会えるのを…………っ」
春は、途中で苦しそうに胸を押さえ始めた。
「春!? 発作? どうする、一度校舎の中に戻る?」
苦しそうな春を見て、私は自転車を放り出して彼に駆け寄った。
「……いや、この感じだと、数時間後にひどい発作が来る、かも。今までの経験からだけど、ね」
春は途切れ途切れにそんなことを言う。
「それじゃどうするの、やっぱり救急に連絡入れるわよ?」
春の返事も待たずに私は携帯端末を取り出す。
「いや、いいんだ未蕾。それはその人たちに、迷惑になる。だって僕は、これでも、健康なんだから」
「なに訳の分からないこと言ってるの、こんな時に強がらないでよっ」
「強がりじゃ、ないんだ。大丈夫、少しは治まってきたから。今の内に、帰らないと」
そう言って春は自分の家に向かって歩き始めた。
その姿は弱々しく、いつ倒れてもおかしくない。
「ああ、もう! 春、ちょっと待ってて!」
こんな時にだけ頑固な春が頭にきて、私は急いで自転車を再び校舎の中へと片付けて、彼の隣に走って肩を貸す。
「え、未蕾。どうしたのさ? 君も帰らないと日が昇ってしまうよ」
春は少し青ざめた顔で私の行動に驚いている。
「どうしたじゃないわよっ。いつ倒れるかわからない春を置いていけるわけないじゃない! あなたの家まで案内して、そこまでは一緒に行ってあげるから」
春はまだ頑なに一人で帰ろうとしたけど、私の睨みつけるような目を見て諦めたのか、彼の力ない腕が帰り道を指差していた。
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