第2話

あさひのカイロを握りしめながら一年二組の教室に入ると、クラスでは既に数人が席に着いていた。忙しそうにペンを動かす人や本を読んでいる人がほとんどで、中の空気は静まり返っていた。私はカイロをポケットに入れると、集中している人たちの妨げにならないように気配を消して教室を横切り、席についた。返してよ!と笑いながら私を追いかけていたあさひも口をつぐみ、私に倣って教室の中をそろりそろりと移動している。私たちはほぼ同じタイミングで椅子を引き、席に座った。教卓から向かって右側の窓辺の列の前から三番目が私の席で、四番目があさひの席だ。私の隣の席で、何をするでもなくぼーっとしていた男の子は私たちを含み笑いしながら見ていたが、「このクラス静かすぎない?」と席から身を乗り出し、私に向かって声をかけてきた。

「うん。すごい気を使っちゃった。」

私が首だけを動かして枯れ葉の舞う中庭を見下ろしていると、「羽根井、コートのままでいいの?」と笑いながらさっきの男の子に言われ、私は恥ずかしくなりながらコートを脱いだ。隣の子の名前は本原秋という。本原秋もとばらあきは真面目そうな顔をしているが、笑った時に見える八重歯がイタズラっぽさを醸し出している人物だ。隣の席になってからはちょくちょく話しかけられるようになった。いつしかあさひも話に入ってきてひょんなことから三人で担任のモノマネを披露し合うことになった。

私たちは担任の指示棒を伸ばす時の、余計に手首を使う仕草を忠実に再現したあさひに惨敗を喫した。

8時をすぎて、入り口からはがやがやとクラスメイトが雪崩れ込んできた。喧騒に気圧され、私たちはなんとなく話をやめて前を向いた。授業が始まるまでまだ5分ほど残っている。鞄を開けて国語の教科書を取り出して、忘れていた宿題を始めることにしよう。

「席に着いてー。朝礼始めるよ。」担任の熊谷先生の頭に鳴り響く甲高い声がして、がっくりしながら私は仕方なく教科書を閉じ、カバンに仕舞って、担任の出欠を取り始める声を後ろ手に机の上で手を伸ばした。先生の指示棒捌きは今日は見られるだろうか。向こうを向きながら一人でニヤニヤしていると、周りの人たちから視線が注がれていて、先生から「羽根井、呼ばれたら返事。」と叱られてしまった。すると、後ろから背中を突かれ、あさひは舌を出して私を挑発した。カイロの仕返しだろう。私は自分の席の後ろにかかっているコートのポケットからカイロを取り出しあさひの机に放り投げた。

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青春の一ページに謎 @Aoihimawari333

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