第12話 ラディの宝石
カオルが流星刀を受け取り、マサヒデがラディの方を向いた。
「で、ラディさん。他の物はどうでしたか」
「剣は中々良い物です。ハワード様にお届けします。
槍も中々です。年鑑には載っておらず、無銘です。地方刀匠の作ではと。
ただ・・・マサヒデさんとカオルさんが慣れない馬上で使うには、ちょっと」
「なるほど。じゃあ、それはラディさんの好きにして下さい。
お店の方で中古で売れば良いでしょう。
で、ナイフの方は?」
「こちらです」
と言って、ラディは懐から布に包まれたナイフを出した。
「では」
と、マサヒデが巻かれた布を取る。軽い。
「む? 随分と軽いですね・・・」
す、と抜くと、黒くつや消しされた只のナイフ。
良い鉄で打たれているのが、見てとれる。
ぶ厚めで少し大きめだが、それにしては軽い。
まさかとは思うが、中が抜いてあるのだろうか?
「軽い? ちょっと見せてもらえる?」
と、イマイが手を差し出す。
「どうぞ」
と、マサヒデが柄の方を差し出し、
「ああ。これ、多分魔術かけてあるね。軽くしたんだ。
こんなに大きくてこの重さはないね」
そう言って、こんこん、と刃を叩き、すっと指を滑らせる。
「うん、普通の鋼かな。中は抜いてないね。やっぱり魔術で軽くしたんだ」
人差し指を伸ばし、刃と柄の境目辺りを乗せる。
ふら、ふら、と小さくナイフが揺れるが、落ちない。
「バランスも良いじゃない。軽いと言っても、必要な重さは残ってる。鉄も良い。
悪くないと思う。ただ、この大きさはナイフにしては少しかさばるかな?」
「ふむ。カオルさん、見てもらえますか」
マサヒデが言うと、イマイがカオルにナイフを差し出す。
受け取って、握ってみる。
「おや・・・これは中々」
す、す、す、とカオルが手を振るう。
カオルの顔を見ると、やはり良い物であるらしい。
「しかし、私は既にナイフはもらいましたし・・・
大きめですし、ラディさんの小刀の予備にしては?
馬車に置いておいて、調理や解体など色々使うのも良いかと。
重い物では御座いませんし」
「ふむ。では、このナイフはラディさんの物です」
と、マサヒデが言って、鞘をカオルに差し出した。
カオルは鞘にしまって、ラディに差し出す。
「良いんですか?」
「構いませんよ。鍔の部分を替えれば、銃の先にも着けられるでしょう」
ラディは少し首を傾げ、
「あの銃剣は、柄にも細工がありますから・・・」
「ああ、そうでした。突起を押すと、抜ける細工がありましたね。
細工付きの柄を作るとなると、面倒か・・・」
こくん、とラディが頷く。
「ラディさんは要らない、と。
カオルさんは使います?」
「少し大きさが気になります」
「じゃ、これは馬車に載せておきましょう。
一応、カオルさんのナイフがやられた時の予備にもなるでしょうし。
さて・・・と」
言葉を切って、マサヒデがラディの顔をじっと見る。
「な、何でしょう」
「ラディさん。宝石を決めて下さい」
マサヒデが部屋の隅の杖の束を見る。
マツとクレールが、にこにことラディの顔を見る。
「あ、そうでした・・・」
「ギルドには杖も寄付すると話してありますから、お早めに願います」
「はい」
ラディが杖の束の前に座り、マツとクレールも両側に並んで座った。
マサヒデはカオルに向き直り、
「そうそう。ナイフと言えば、カオルさんの、あの何とか言うナイフ。
あれ、艶消ししてもらいましょうか。あんな使い方するんですから・・・」
「ああ」
と言って、カオルがすっと腰の後ろから、カランビットナイフを出す。
「おっと、これはまた・・・」
イマイが目を細める。
「カオルさん、中々物騒な物を使うんだねえ」
「これまで、色々な所を周りましたので・・・」
「ふうん・・・艶消し、ね」
じー、とイマイがカオルを見る。
カオルは能面のような顔で、イマイを見返す。
しばらくして、にや、とイマイが笑った。
「詮索する気はないけど、本業はそういう仕事って事か。やっておくよ」
「ありがとうございます」
礼を言って、カオルはナイフを手拭いで包み、イマイに差し出した。
イマイは受け取って、懐にしまい込み、にやっと笑った。
「今回はお金はいいよ。代わりにカゲミツ様から貰った物、絶対に見せてよね」
「は」
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マサヒデ達が茶を飲みながら刀の話をしていると、マツとクレールがにこにこしながら戻って来た。ラディは良く分からない、と言った顔だ。
「お、決まりましたか」
「はい! やっぱりラディさんは目がありますね!」
「ええ。素敵な石を選びます」
「はあ」
カオルが3人に茶を差し出す。
「で、どのような石を?」
「これとー、これとー、これです!」
す、す、す、とクレールが杖を置いた。
緑の物は緑柱石(エメラルド)か。
青いのは何だろう?
「この青いのは何ですか?」
マツが杖を取り、
「マサヒデ様、これは藍玉(アクアマリン)です。
この石は、洞察力、知恵を象徴する石なのですよ。
鑑定が得意なラディさんにはぴったりだと思いませんか?」
「おお、確かにぴったりですね。
この緑の方は何を象徴する石なんです?」
「愛の成就と、夫婦愛です。
色が違うだけで、実はどちらも同じ石なんですよ」
「そうなんですか? へえ・・・同じ石で色が違う・・・面白いですね・・・」
マサヒデが杖の先に付いた宝石を覗き込む。
「壊れやすい石ですから、普段はちゃんと箱にしまっておきませんと」
「壊れやすい? 宝石って、中々壊れないって思ってましたが」
「このふたつの石は、簡単にひびが入ったり、割れてしまうんです。
ラディさん、大事にしないといけませんよ」
マツがそっと杖を置くと、
「では別の石にします。壊れにくい物が良いです」
と、ラディが杖の山に戻る。
「ええー! そこですか!? 良いじゃないですか、綺麗なんですから!」
クレールが声を上げる。
ふふ、とマツが笑い、
「では、紅玉(ルビー)などどうでしょう。
情熱と勇気。そして、炎の象徴と言われます。
鍛冶仕事が好きなラディさんにはお似合いでしょう」
「流石は師匠です。ではそれで」
「もうひとつは・・・蒼玉(サファイア)は如何でしょう。
慈愛と誠実さ。治癒師のラディさんにはぴったりです。
どちらの石も、壊れにくいですよ」
「お願いします」
「ははは! 結局、マツさんが決めてしまいましたね!」
「うふふ」
「師匠、ありがとうございます」
と、ラディが頭を下げた。
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