第4話 閑話 フェルナンド王国への急報



こんにちは、みなさん。


今日も我が家の金木犀は美しく咲いていますね。


その周りには完璧に揃えられた薔薇と四季折々の花々が。


ああ、惚れ惚れするほどに完璧だ!


どうですか?皆さんも是非一度我が庭園にいらしてみては…




ん? 私が誰かだって?


これは失礼、名乗るのを忘れていたようです。


私は、いや私こそが!


フェルナンド王国第三皇太子、フェルナンド・カンタナなのです。


それにしても自国の国民にさえ名前も覚えられていないとは…


まあ現代の国王、つまりは私の父に当たる方があまりにも偉大なので仕方ないのかもしれませんがね。


しかも上に兄が2人もいるので目立つことはほとんど無いし…


そんな存在感の薄い私ですが、魔物の蔓延るこの世界で人類を守り続けている大国家、フェルナンド王国の名に恥じぬよう常に外見と振る舞いには気をつけております。


美しい金色の髪をオールバックにし、王国内の最高級のシャツとブラウスをセットすれば…


ほら、影の薄いフェルナンド王国第三皇太子の完成!


…まあ自虐ネタは置いておくとして私は意外と忙しいのです。 


こう見えても固有スキル:水流破壊ウォーターデストラクションが珍しい殲滅型魔法なのでいやいや戦場に連れられることもしばしば。


本当は残酷な戦いなど苦手なので、ずっと宮殿にいたいのですが、なにしろ感情を外に出すのが苦手で…


戦いが嫌だと気づかれるどころか、無表情で敵を殺し続けるサイコパスだと勘違いされてしまったようなのです。


だからこうやって貴族らしい風流な嗜みを楽しめるのも限られている時間だけなのです…


自らの庭園の中、誰にも見られない空間でお茶やお菓子を頂くことが数少ない私の癒しなのに…



おっと、誰か来たようですね。


「失礼致します、カンタナ様。バビルニア産のハーブティーでございます。」


カタッという音とともに、私のテーブルの前にハーブティーを運んできてくれたのは、召使いのランセル。



フェルナンド王家では王国の血筋を引く者が生まれると、全く同じ年の赤ん坊を3人、側近として仕えさせるのです。



王国中の赤ん坊の中で、最も優秀なスキル、そして肉体を保持しているものを選んでね。



通常は他人のスキルを見ることはできず、また赤ん坊は喋ることもできないため、スキルを見分けることができないように、一見思われますが、それは違います。


王国ではある区間ごとに教会が設置されていて、教会の司教は、他人のスキル欄を覗くことのできるスキル:透察パーセクティブを保持しているものでないとなれないのです。


生まれた赤ん坊はすぐに親の手によって教会へ連れられます。そこでスキルが判明するのです。


言い換えると生まれたときから未来の職業は決まっているのです。


そのため学校でもスキルでカーストが決まるとか…


ちなみに私たち王家は生まれたときに獲得するランダムなスキル以外にも、代々引き継がれているスキル、「継承スキル」があるのでランダムスキルで外れを引いても、ある程度面目は保てます。


ちなみに「継承スキル」はいつでも出せるものではなく、本当に自分が命の危機に陥ったときや、制御できなくなるほどの怒りの感情に襲われた時に出現するとか、、、


私は当然一度も出現したことはありません。


…召使いの話に戻りましょうか。


ランセルは女性なのですが、とても強い戦闘系スキルを持っているらしく、戦闘においてはこの国の女性で右に出るものはいないとか。


なぜ推測なのかというと、一度も彼女を戦いに連れて行ったことが無いからです。


だって… 



女性だよ?危ないよね?


決してランセルの顔に傷でもついたらと思うと心配で戦いに連れていけなかったわけでは無いからね?


ゲフンゲフン

また脱線してしまいました。


実は王家の側近は生まれると同時に主君からそして親からも引き離され、成人するまでずーーっと、血の滲むような訓練を受けるのです。


そして主君と会えるのは主君が、20歳になってから。


今の私の年齢が20歳と1ヶ月ですので、私達は出会ってからまだ1ヶ月…


しかもランセルに至っては一度も戦場に連れて行ってやっていないせいで少し嫌われてしまったかもしれません…


まあこの年になるまで、ずっと戦闘訓練を受けてきたのに戦場に連れて行ってあげないのは酷かもしれませんね。


でもね、今はそんなに魔物軍の侵攻が激しくないんだ!

だから許して!


お茶を淹れてくれたあと、去っていくランセルの背中に心のなかで許しを乞います。


さて、肝心のお茶ですが…


1ヶ月召使いをやってもらったのにも関わらず、お茶を淹れてもらうのは初めてです。


少し緊張しながらも、甘い香りのするハーブティを口に含みます。


ゴクリ。


うーん!美味しい! 周りの光景も相まってここが天国に見えるよ、ありがとうランせ…


ガッシャーン!


「カントナ様ー!!!ここにおられましたか、大変です!魔物軍の侵攻で…!   カントナ様…?」



「ゴッホゴッホゲホゲホゲホゲホングッ!…」 



テーブルが吹っ飛ぶ勢いで現れたのはもう一人の側近、大男のガンナーだ。

チリチリ髪に髭だらけの風貌だが、筋力は王国一。

スキルも優秀(当然)なのでこの一ヶ月の間にも何回か共に戦いに行っている。

そのおかげもあって今は良好な関係が築けている…のだが。


出てくるタイミングが悪かった。


「ど、どうなされました、まさかむせて…」


言い返そうにも気道にお茶が入ってしまったので呼吸が苦しい。


「ま、まさかあの白銀の暗殺者シルバーデストロイヤーと呼ばれ、無感情に敵を殺していくことで有名なカンタナ様が…む、むせているのか…」


「ゲフッゲフッ ち、違う!むせているわけなどないだろう!それとその二つ名はダサいから二度と口に出すなと言っただろうが! ゴフッ」


「な、なるほど…大変な失礼を…申し訳ありません」


ふう。なんとか誤魔化せたようです。


仮にも王位継承の資格があるフェルナンド王国皇太子がむせる訳などありませんからね。


「まあ、いいでしょう。ところで先ほどの知らせというのは何なのです…?」


「はっ、それが…バビルニア地方西部から魔物軍20万が侵攻を始めたとの報告がありまして…」


「20万?確かに大軍ですが、あそこには兄上たちが控えていたはず。その程度の攻撃ではびくもしないと思いますが…」


「そ、そのそれが…」


いつも豪快なガンナーが口ごもるのを見て、私は少し嫌な予感を覚えました。


「詳しくは分からないのですが…魔物軍との戦闘で…第1、第2皇太子様共に…せ、戦死なされたと…」


え?

はぁぁぁぁぁ?!


あまりのショックに私は思わず椅子から立ち上がってしまいました。


「ど、どういうことですか?!兄上たちの率いる50万の王家直属軍が、魔物ごときに敗れたと…?!」


「そのようであります…」







そしてこの日。


フェルナンド王国は第1、第2皇太子の戦死を。


そして、第三皇太子のフェルナンド・カンタナが新たな王位継承者になることを発表するのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

外れ職業かと思ったら強すぎて削除されたスキルで暴れまくる話。 たいやき @110555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ