始まりの日

僕藤原凪には、コンプレックスがあった。自分と他人を比べてしまうところである。小学生の時は運動能力を、中学校では学力を、高校では顔やスタイルなど。大学に入るとカップルばかりであったためそれが僕にはとても眩しくそして羨ましかった。しかし、そんな僕は今までそれを手に入れるための努力というものをしてこなかった。家に引きこもり成績も常にギリギリで何もせず、ただただ今日と言う日常を浪費するだけの怠惰な日々を送っていた。こんな自分が幸せになどなれないといつもベッドに寝そべりながら自虐していた。そんな僕の両親は海外に住んでいて、僕は一人暮らしであり月末に生活費などのお金を入れてくれるだけの放任主義ではあったものの育ててくれてることには感謝していた。まぁほとんどは、ゲームへの課金へと消えていたので食事をバイトの賄いなどでやりくりしていたのだが。当然そんな生活を送っていたため僕に友と呼べる者は、居なかった。


でもそんな他愛もない日常が幸せだった。

しかしあの日すべてが変わってしまった‥‥‥‥‥


それはある日のこと。いつも通り講義を受けていた時だった。陽キャたちは真ん中らへんの席でグループになってコソコソと話しており、教師は注意もせずたんたんと授業を進めていた。周りも自身の勉強に集中しており無視していた。かくいう僕もそんな空気を観察しながら窓側の後ろで授業を受けていた。そんないつもと変わらぬ風景。変わらぬ日常。ふと気になり外を見た。そこには雲ひとつないため誰も邪魔者が居らず出来うる限りの自己主張をしている太陽がおりそれが眩しくも羨ましく見えた。そんな太陽を睨むかのように見ていると、突如強烈な眠気が襲ってきた。なんの前触れもなくに‥‥‥



それと同時に今まで見ていた丸い事が当たり前だと思っていた太陽が歪み始めた。歪み始めたと言うよりまるでインクが溶け始め垂れていくかのように変わり始めたのだ。初めは太陽を見すぎたことによる幻影のようなものかと思っていたのだが、それが木々や住宅街、更には教室も同じように見えており、ただならぬことが起きているのは明白であった。

周りを見回してみると先程まで元気に喋っていた陽キャたちも机に頭を置いており液状になっているように見えた。他の生徒や先生でさえも溶けておりそれには個人差があるように見受けられた。幻だという風に思いたさと極度の眠たさで机に顔を向けると‥‥‥‥‥‥‥ポトンと目のような物が落ちたのが見えたのを最後に僕は意識が途絶えた。




夢の中は真っ暗ではあったが謎に浮遊感があり恐怖よりも心地良さが勝った。さながら流されるプ―ルに浸かっているかのような感じであった。そんな時どこからともなく

「こい‥‥‥こい‥‥‥‥こい‥‥‥‥こい‥‥‥‥」

男か女か性別が分からないほどにかすれたような声が聞こえてきた。それはまるで僕を呼んでいるようにも聞こえた。だから僕は声のする方へ短い腕を最大限ちぎれるかもしれないほどに伸ばした。すると………








鼻血を出したかのような鼻の中に鉄の匂いが充満しているのを感じ、恐る恐る瞼を上げてみるとそこには大量の血に塗れた人のようなものがあった。あまりにも血にまみれており、所々溶けているような所があり人の形と形容するしか無かったが「ヴぉぇぇぇぇ」と未だに血を吐き続けている人がちらほら居た。話したことも無く名前も知らないが、さっきまで同じ授業を受けていた陽キャの1人であった。またその中には先程の先生もおり先生のス―ツには手形が複数ついていて、おそらくは生徒たちに付けられたものなのだろうと予想できた。僕はそんな惨劇に耐えられず、「ウォェェ」と吐いてしまった。2次元ならまだしも実際に目の前でのこの惨状はまだ10代の僕には無理だった。そんな奥には白い防護服を着たような人がいる気がしたが、目前の惨劇に背けたくなったのか、自分の意識がシャットダウンした。その直前に僕を呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、残念ながらそれを意識する前に気絶してしまった。





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魔法が使えると思ったら、そこは魔法という法律のある世界でした タツタ @Tatuta

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