第44話 仲間を見つけよう


朝起きると、3人で打ち合わせ。ギルドに向かい仕事を受注。

午前中には仕事を終わらせて、持って行った弁当を食べ、1時間ほど休憩。

午後からはエマの町の外を螺旋上に動きながら魔物と戦闘を繰り返す。

ギルドに戻り、報酬をもらい、宿屋に帰り、風呂と夕飯を済ませ、再び3人で打ち合わせ。

打ち合わせ後は、各々の判断で就寝。

こんな代り映えのない生活を毎日、毎日延々と淡々と続けてきた。


僕の体も日々の肉体労働と魔獣退治とで少し鍛えられたのは確かなのだけど、一向にスキルを獲得したような気配がない。

というかそもそもなんだけど、ゲームじゃないからスキル獲得したからってファンファーレが鳴るわけじゃない。


ちなみ、スキルを獲得したときってどんな感じなのかをミレイユに尋ねたことがある。

そのときの回答はこうだ。

「シュンってさ、アタシが呪いを受けてるからスキル増えないの忘れたわけ?」

そんな話をしただろうか?捏造されてる気がする・・・


「スキル?私、生まれてから一つも増えたことないから」

テオドラに尋ねると同じような回答だった。


ということで、どんな感じでスキルが増えた!って実感できるのだろうか?というのが目下の興味の対象になっていた。

そのせいで、ゲーム内でもできた奇行じゃないギリギリラインの行動も色々と試してみたが、効果はなかった。


「あのさ、シュンが気が付いてないだけでスキル増えてる可能性もあるよね?」

というミレイユの言葉から、女神スカリアの教会に足を運んだものの神託としては「限定召喚」と「限定魅了」という前回と何ら代り映えのない文字が踊っている。


「限定魅了」のスキルの効果について最近分かったことがあって、内容がチープ過ぎて泣けてくる。

その効果は「将来、容姿、体格、性格の3点で異性から憧れを抱かれる可能性が高い者の幼少期などで、異性を魅了させる必要のない者に対して、今後、限定が解除されて魅了の効果を発揮する可能性があるスキル」らしい。

平たく言えば、僕がイケメンに育てばモテるよ。っていうやつだ。

それでどうしろと?どうやって冒険者として成長して世界を歩ける存在になるんだ?

「限定召喚」は召喚魔法は使えるけど、使用回数は上限があるらしい。

だけど。僕の場合はすでに1回、ミレイユとの契約時のときに使っている。うーん。なんだろう、これ。チートというより縛りが強すぎる。


ということを実感した1年半だった。


「じゃあ。第1回、我々はそろそろ仲間を見つけて旅に戻ってもいいんじゃないか会議!」

テオドラはパチパチと手を叩くのではなく、僕の頭を撫でている。なぜ撫でる?

ミレイユは目の前にある作りたてホカホカの朝食と格闘している。なぜ食べる?


「まぁいいや。あのさ。僕は1年半分成長したけど、強さとかはほぼ横ばいです。ということで、アタッカーを勧誘して戦力の増強、のち西の国ヴァリオニアに向かい、不滅の門に向かおうと思います!以上!」

テオドラは、うんうんシュンくんは頑張ってるもん!私は知ってるよ!とか言ってるし、ミレイユは最初から聞いていないし。僕も朝食を食べるのだった。


かなり固めのパンを、力任せにちぎり、トマトっぽい酸味の効いたホカホカのスープに浸して柔らかくする。

こうすることで、お腹でも大丈夫そうな柔らかさになり噛みしめて食べることができる。

カリカリに焼かれた薄切りの肉。牛乳っぽい飲み物。

いつもの朝食を食べていると野太い声がかかった。

「おう!シュン。お前、アタッカーを探してんのか?」

「あ、はい。そうです。頑張りましたけどスキルも増えないし、仲間入れた方が早いなと」

「そうか!昨日の夜、新しい二人組の客が来たんだがな。見てくれは男の方が優男だったがアタッカーだと思う」

「え?他の宿泊客の情報、話しても大丈夫なんですか?むしろ僕たちの情報もだれかに流れてたり?」

「バッカ!当たり前だろ。ここ、冒険者御用達だぞ?ただで仲介してんだからむしろ感謝しろよ。それに俺よりも、そっちの小さい妖精が、他の奴と飲んでお前のことベラベラ話してるんだがな」

ミレイユをチラリとみると「何よ。文句あんの?ビリっとされる?」と睨まれた。

「そうですか。でしたら、その二人組の方をご紹介いただけると助かります」

「わかった。お前ら、今日はでかけるのか?」

「そうですね。今日もギルドに向かう予定でしたが、部屋で待ってますよ」

「わかった。じゃあ、そいつらが起きて来たら、お前たちを呼びに行くよ」

「ありがとうございます」

おう!と宿屋の店主は豪快な笑顔で、厨房の方へ向かっていった。

「じゃあさ、今日は部屋でダラダラするから後で買い物に行ってくるよ」

「じゃあ、私もシュンくんに付いていく」

「アタシはパス。シュン、今日は飲んでもいいよね?」

「いや、人に会うんだからダメでしょ・・・」

「何よ、ケチ。飲めないなら暇だからシュンについていくわ」

「じゃあ、いつも通りだ」

僕たちは食事を食べたあと、着替えてエマの街に出掛けるのだった。


国境の街エマでは、貿易を行う港があるおかげで、意外と色んな人族・亜人族が住んでいる。

物が入り、そして出ていく。それなりの活気があるで、にぎやかな街の部分も見える。

「あのさ、朝食って果物なかったし、果物探してもいい?」

「いいね、アタシ、酸味の効いたものがいい」

「私は甘めのものがいいかな?」

「よし、じゃあ酸っぱいやつと甘いやつ探そう!」

街の中にはちゃんと店を構えたり、露店で商売していたりとバラバラである。

そんなごった煮のようなお店に並んでいる色とりどりの果物や野菜、肉類やよくわからない雑貨と露店を見て回るだけでも楽しい。



そしてそこそこの人がいるんだけど、突然、人が左右に別れて長身の男性が歩いてきた。


青いニットみたいな服に肩から腕にかけての鎧、黒いレザーパンツ。

膝当てと脛当てだけの鎧。

そして一番特徴的なのは、彼の両手にはカゴが握られており、そのカゴには山盛りの果物や野菜が乗っていた。


肩に届きそうな糸のような金髪は無造作に垂れている。

緑色っぽい青色の目と、オレンジ色っぽい赤い色の目。

そしてその憂いを帯びた表情はどこか寂しそうだけど、自信のようなオーラも感じる。

とにかく顔面偏差値がヤバい。美術史に残るようなヤバいレベルでのイケメンだった。



そして、女性たちは一様にその美貌に見惚れる。

彼氏さんや旦那さんなんか隣にいてもいないのと同じ感じ。

ああ、転生前と同じ。イケメン俳優に遭遇した女性と同じ行動だ・・・

なんともまぁ、羨ましい。


僕だって一度は通りすがりの女性が振り返って「今の人、格好よくない?」とか、「うわ、まじイケメン」とか言われたい人生だった。

なんてことを考えていたら、その美術彫刻のような青年と目があった。

違和感みたいなものを感じたけど、その違和感が何かわからない。

青年も首を傾げたあと、軽い会釈をしてすれ違っていった。


「へぇ。アタシ、あんなタイプの人族初めてみたよ」

「すごいよね。私も初めてかも・・・」

ミレイユとテオドラは「ねーっ!!」なんて言いながら楽しそうに美術彫刻のような青年のことを評価していた。

はいはい。イケメンは羨ましいですね。



その後、少しだけ果物を購入した僕たちは宿屋に戻ったのだった。


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