第43話 新しいナイフ
「おはよう、あれ?」
起き上がった僕は隣のベッドに寝ているであろうミレイユとテオドラに声をかけたつもりが独り言になっていた。
「誰も聞いてないのはわかるけど、恥ずかしいなこれは・・・」
寝る前に何かを言っていたのはわかったけど、思い出せるわけもない。ただ、今日ぽっかりと開いた日ってわけでもないので出発の準備をして、シュンの父親にもらったナイフを研ぐことにした。
腰のずっしりと重たいナイフを携え、鍛冶屋を探す。
僕の作ったゲーム千年王国では武器や防具には耐久性を設定していた。
なるべくリアルにしたら面白いかもっていうのが初期段階からの僕の構想だったけど、かなり反対意見が多かったことも事実。
ただ鍛冶屋で定期的にメンテナンスをすると武器や防具の耐久性が伸びる、正確には使用できる回数が延びる。
もちろん、無限に延長できるわけではなく、武器ごとに修復回数を設定していた。加えて、メンテナンスするよりも買いなおす方が安い場合もあるため、結局のところ思い入れに左右される。
「・・・。いらっしゃい」
来店を感謝されているのかいないのか?よくわからない苛立ちをふんだんに含んだ野太く低い声がかかる。
一つ結びになったざんばらの髪は真っ赤で、筋骨隆々の背が低めのおっさんだ。ドワーフ系の亜人種だろう。
「すみません。ナイフなのですが、研ぎはできますか?」
「なんだ小僧、お前、客か?」
「えぇ、そうですね。ご依頼させていただけたら客ですかね?」
「なんか生意気だな、お前。まぁいいや、見せてみろ」
「ありがとうございます、これです」
僕は腰に下げていたナイフを年季の入った深く飴色に輝く木製のカウンターに置く。
「へぇ、ガキの癖に、いいもの持ってんな。お前」
「そうなんですか?父に誕生日プレゼントだってもらったんですよ」
「そうか、いい親父さんだな」
「いやぁ、どうなんですかね?家を出る前はよく殴られてましたし、蹴られたりもしましたし」
「それはお前が悪いんだろ?」
「いや、それは・・・どうなんですかね・・・」
「・・・。お前の親父さん、これどこかで買って来たって言ってたか?」
「いえ、多分違うかと。父は鍛冶師でしたから」
「そうか・・・」
「何かありました?」
「ちょっと反りがあるな。カグダード生まれか?」
「いえ、僕はレツエム生まれです」
「お前じぇねぇ。お前の父親だよ」
「父ですか?どうなんですかね。父は自分のこと離さない人でしたから知らないんですよ」
「ふーん。そうか。ま、どうでもいい。結論からいう。これは研げないし、焼き入れもできん」
「えっと、僕が嫌いだからってことですかね?」
「バカかお前。そんなどうでもいいことじゃねぇんだよ」
「え?意味わからないんですけど・・・」
「このナイフは、カグダードで作られるナイフの一種なんだが、お前の親父さんも俺も同じ。狂人しか鍛冶師になれねぇ」
「そっち系ってことですか?」
「あぁ。頭がイカれてなきゃ、こんなものは作れねぇんだよ」
「そっかー。やっぱ頭おかしかったかー」
「残念だが、お前の親父さんに焼き入れしてもらうか、折れるかの二択だな」
「それなら、何かナイフを見繕ってもらっていいですか?」
「おう。じゃあ、これ返すな。銘があるな・・・【イツカ】?ほれ。このナイフは【イツカ】らしいぞ」
「へー。そうなんですね、ありがとうございます。ところで予算なんですけ・・・」
「予算よりも強度と耐久性、あとは殺傷能力が重要だろうがバカが。これだから小僧は・・・」
ギリギリ高額の範疇に入る前の金額ではあるが、もう一本のナイフが手に入った。
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