第45話 シモン

「おお!お前ら!帰ったか!どこ行ってたんだよ!」

宿屋のドアを開けると、宿屋の主人が出迎えてくれた。

さすがに1年以上も連泊していると、客扱いはなくなり、宿屋の主人の身内みたいな扱いになっている。

宿代だって少し勉強してくれてるし。ってその分、宿の手伝いもしてるんだけどね?


「すみません、果物を買いに行ってました」

お使いを頼まれたわけじゃないけど、買ってきた果物のうちいくつかを宿屋の主人に渡す。

「あ?ああ、おう。昼に出すな!とそれは後でいい。朝話してたろ?アタッカーの仲間が欲しいって」

「え、あぁ。そうですね、はい。僕一人は限界だと思ってますから」

「おお、じゃあ。ちょっと待ってろ。部屋に行って呼んでくる」

「わかりました、食堂の方で待ってますね?」

「そうしてくれ」


僕、ミレイユ、テオドラは指定席かなってくらい座ってるいつものテーブルに座る。

「どんな人だろうね」

「悪い人じゃなきゃいいんじゃない?」

「シュンくんを助けてくれる人だといいね」

「おい、連れてきたぞ」

お茶を飲みつつワイワイ言っていると、背中の方から宿屋の主人の声がかかった。


「ああ、すみません。ありがとうございま・・・」

振り返り、椅子から立とうとして視界に青い服、肩から腕の鎧、金髪、彫刻のような美貌が見えた。

「え?」

忘れるわけがない。ほんの少し前に街中で見かけた美術彫刻の美青年だ。

「シュンくん、さっきの・・・」「へぇ・・・」

テオドラとミレイユも意外だったようだ。

「なんだ?知り合いだったか?」

「いえ、違います。さきほど、街中で見かけたんですよ。めちゃくちゃ格好いいなって3人で話してたくらいで」

「そうか。でもコイツ一人じゃねぇんだよ。もう一人いるんだが、寝てやがる」

「妹は、、、夜型なんだ。」

美青年の口が開き、声が紡がれた。

なんというかめちゃくちゃイケメンの声。

声までイケメンかよ。


羨ましい。



「そうか。それはそれだが、まぁお互い自己紹介でもして、話して決めろ」

そういうと宿屋の主人は、食堂から出て行った。

「あ、じゃあ、あの。よかったらどうぞ」

僕たちが座っているテーブルから、一つ椅子を引いた。

「、、、すまない」


「、、、、シモンだ」

「あ、はい。僕はシュン、隣に座ってるのがテオドラ、あとこっちの妖精はミレイユです」

僕のあいさつで、シモンと名乗る超絶美青年は、穏やかな笑みを浮かべながら僕たちを見渡す。

「、、、、」

「あの・・。僕たち、西の国ヴァリオニアに向かうつもりです」

「、、、、」

「あの、だからそこで、場合によっては戦う予定があるんですけど・・・」

「、、、、」

「だから、なんていうか魔王復活のための儀式的な?女神カテリア様から言われてまして。不滅の門?」

「シュンくん。緊張してる?」

「何言ってるか、全然わかんない」

「え?ごめん。あの、すみません。無言だと緊張しちゃって・・・」

「え?シュンって緊張するほど繊細だっけ?」

「テオドラ、ダメだよ!シュンくん、まだ子供なんだから。大人の人と話すときは緊張するよ!ね!」

すっごいナチュラルにテオドラが僕の頭を撫でている。

この1年で身長がぐっと伸びてテオドラとの身長差は大きくなるばかりなのに。


というか、いやどれも違うんだ。

イケメンすぎるというか、大人とかじゃなくて反応がないのが困る・・・

「あの。すみません。不快でしたか?」

「、、、、」

「あの、僕は確かに若いですが、パーティーの安全と女神カテリア様の神託で魔王と戦わないで済むようにしたいって真剣に考えています。見た目ですか?それとも、僕が何かあなたを不快にさせるような事をしていますか?していたら、すみません」

「、、、、いや。君は悪くない。俺は話すのが苦手なんだ」

「え?話すのが苦手?」

「、、、、ああ」

伏し目がちで、長いまつ毛が影を落としていたが、オッドアイの目がちらっとだけ僕を見る。



「マジで?ウケるんですけど!!」

ミレイユがケタケタと笑い始めた。

「ちょっとミレイユ!やめろよ!」

ケタケタ笑い転げるミレイユを止めようとするけど「いいんだ事実だ」と美青年のシモンは僕に笑いかけた。


「いえ、本当にすみません。後で謝らせますから」

「、、、、大丈夫だ。続けてくれ」

「わかりました、では正直に話します。別に困ることでもありませんし・・・」

そして僕はシモンに、僕が女神カテリア様の神託を受けており魔王復活を阻止するため「黒馬の騎士」を倒す必要があること、そのために強くなろうと頑張ったけど限界があることを話した。

「、、、そうか」

全部聞き終えたシモンは静かにそう言うと、席を立った。

「あの・・・」

僕の投げた声にシモンは静止するように、右手を軽くあげた。

「あのさ、これってダメなパターン?それとも大丈夫なパターン?」

「大丈夫なんじゃない?てかさ、黒馬の騎士って何よ?なんでアンタがそんなこと知ってんの?」

「シュンくんは、絵本をたくさん読んでたから物知りさんだもんね」

そしてナチュラルにテオドラは僕の頭を撫でて「えらいえらい」なんて言ってる。

というか何?ここ最近の何かと頭を撫でるムーブ。


「いや、女神カテリアの神託があったし、話してなかった?」

「聞いてないわよ!そもそも誰と間違えてるわけ?」

「はいはい、ごめんね。伝えたつもりでいたからさ…」

「何よ、急に。いいわよ。別にそれくらい。で?何?その黒馬の騎士って」

「シュンくん、ちゃんとごめんねできて偉いねぇ。よしよし、えらいえらい」

「ちょっ・・・テオドラ、ごめん。ちょっと頭撫でるの止めて?ね?話してるから」

「ダメ!シュンくんはごめんねできる子なんだから、ちゃんとえらいえらいしなきゃダメなの!」

うわー。面倒くせー。でも、いいか。頭撫でるくらい。

僕だってそんな嫌じゃないし・・・


「シモンさん、行っちゃったし。買ってきたものでも食べる?」

カゴをテーブルに置いて、果物や白い柔らかそうなパンを物色する。

「シュンは、今日はどうすんの?出かけないならハチミツ酒持ってくるんだけど・・・」

「あ、そうだね。あとでギルドに顔は出すけど。今日はもう自由行動でいいんじゃない?」

「やった!じゃ取ってくる!」

言うが早いかミレイユはテーブルからスゴイ速さで飛んで行った。

「私は、シュンくんに着いて行くね」

「いやいや、いいよ。テオドラもゆっくりしてなよ」

「ううん、いいよ。着いて行く」

「あぁ、じゃあ食べたら行こうか」

宿屋の主人にお皿を借りて、果物とパンを乗せてミレイユを待っていたら別の人が来た。

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