第32話 ジュリー・ドビーに会いに行こう



「ねぇ。本当にこっち?こっちで合ってる?なんか獣道もなくない?」


「うん。多分、大丈夫!」


「ちょっと、多分ってなによ、多分って。遭難したらどうすんのよ!」


「あー。それも、多分、大丈夫!」


「いや、だから!多分てなによ!アタシ、怖いんですけど!無理なんですけど!」

そういうと、ミレイユが僕のナップザックに潜り込んでいくのがわかった。

僕とミレイユは今、妖精剣姫ジュリー・ドビーの住んでいる山に登っている。


冒険者ギルドのおばさんの話を聞いて、僕は少しだけ確認したいことができた。

現実としてこの世界に生きる存在でありながら、この世界の元、僕の作ったゲームがどんな具合に模倣されているのか?って。



「シュン、ねぇ、さっきの話、すごくない?アタシと同じ妖精なのにさ!騎士団をバッタバッタとやっつけるんだよ?」


「ん…。あぁそうだね」


「何よ。もしかして凹んでるの?」


「いや、違うくて。魔剣ヴァッツァーがここに繋がってるんだなぁって」


「何?魔剣?ヴァなんとかって」


「ううん。大した話じゃないよ。水の魔剣ヴァッツァーは、少し前のアプデで出したんだけどね」


「アプデ?」


「そう。アプデ」


「もう!また?わけわかんないこと言ってる!」


「ごめんごめん。そんなことより!これからのことを少し話たいんだけど、宿に戻ってもいい?」


「別に隠れて話す内容でもないでしょ?ここでもいいわよ」


「あ、うん。そう?じゃあ、ジュリー・ドビーに会いに行かない?」


「やっぱり?シュンってさ、何かいい意味で期待を裏切らないよね」


「そうかな?」


「そうよ。で、いつ行くの?」


「うーん、今から行ってみたいんだけど」


「うん。シュンって期待を裏切らないよ」


ミレイユはケタケタ笑いながら、僕の頭をぺちぺち叩いてくる。

横を向いたらミニチュアサイズながらも女性らしいスタイルに見惚れそうになったのが、ほんの数時間前。



獣道すらはずれた道なき道を、山を登っていく。

自分の荒い息遣いだけでシンとした静寂の時間が流れていく。


小学生の頃、遠足で登山したとき感じたような離人感がある。


ナップザックにミレイユが入り込んでしばらく経った頃、水の音が遠くから響いてきた。



「うん。間違いない…。やっぱり地形は基本的に同じ。違うのは繋がりだけ…かな?」


「ねぇ、ミレイユ。多分、ジュリー・ドビーの川に着くよ」


声をかけると、ナップザックの中からくぐもった声で返事が返ってきた。

「ねぇ…。シュンってさ、一体、何者なの?アタシ、マジで不安になってきたんだけど…」


「何者って…。ミレイユも知っての通り、世界を冒険しようとしている人族の子供だよ」


「そういうのじゃなくって…。何かちょっと、なんだろ。アタシ、あんまり頭よくないからうまく言えないんだけど…」


鳥のさえずりなどが聞こえて、草をかきわけ歩いていく音が響く。


「シュンってさ、ちょっと違うよね」


「いやいや!溜めるようなものじゃなくない?僕は至って普通だよ。ただ、ちょっとだけ、この世界に詳しいってことかな?」


「それよ、それ。詳しいって言ったって、人族の子供で、初めて外の世界なんでしょ?普通じゃないし…」


「普通じゃないか…。人族の子供と旅をする妖精だって、普通じゃないよ。好奇心が旺盛すぎるし。ねぇ、ミレイユ。本当にそろそろ川に着くよ。ジュリー・ドビーに会えるかな?」


「同じ妖精だけど、川と花だからね。話しが通じるといいけど…」


ナップザックからふわっと飛び出してきたミレイユと僕の目の前には、細く小さな川のせせらぎがあった。


「おーい、ジュリー・ドビー!!」


「ちょっと!やめてよ!いきなり大声出さないで!びっくりするでしょ!」


「そこの子は…。人族の子供かね?あと…同族…?」


すごく落ち着いていて、優しいんだけど、ちょっとだけ硬質な声が響く。

妖精剣姫ジュリー・ドビー、彼女の声だった。

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