第31話 妖精剣姫


「いやー。魔力流すって簡単にいうけど難しいよね。実際」


「ねぇ。アタシの分、シュン持っててくれない?持ち運ぶの大変だし…」


「いいよ、持つ!持つ!全然持つよ!」


「え?なに?シュンってば、なんかテンション高くない?」


「いやいや、フツーフツー!」


「普通じゃないし…」



「はい、これ」

テーブルに温かいお茶とハチミツ酒が置かれた。


「いただきます!」


「はい、どうぞ」


「そんなに昔の話じゃないけど、妖精剣姫の話ね?」



受付のおばさんは、ニコニコと嬉しそうだった。




小さな山の小さな川に孤独な妖精がいたわ。

その孤独な妖精はジュリーって名前で川の妖精だった。


ジュリーが初めて会った「人族」は、小さな子供とその小さな子供の手を引く女性の組み合わせ。

その二人を見てジュリーは興味を持った。


だけど、小さな子供といえど妖精のジュリーと比べると体は大きい。

近づいては何をされるかわからないからって、物陰から子供と母親らしき人をそっと眺めていた。



すると、母親が大きな声で子供に怒鳴り始めたの。


何をしているんだろうとジュリーの興味はどんどん膨らんで、親子から目を離せなくなった。


すると


「もうダメなの!あの男そっくりのアンタが嫌い!憎くて仕方ない!私はアンタを二度と見たくない!」


「ごめんさない!お母さん!」


「ごめんなさい!僕!なんでもするから!捨てないで!」


「ダメ!あんたはここで死ぬの!」


「いやだ!お母さん!お母さん!」



次の瞬間、母親は、子供の顔を水に押さえこんだわ。


子供はもがくけど、母親は一切、力を緩めることなく、子供を川の中に押さえこんだの。

最初、激しくバタバタしていた子供も次第に動きが鈍くなって、最後は動かなくなったわ。


それをみたジュリーは、姿を現して話しかけたの。その母親にね。

「小さい子、死んだよ?」って。


母親は答えたわ「そうね。私が殺したわ。だって、浮気相手と一緒に逃げた私の元旦那との子供だから。元旦那とそっくりの子供だったから。元旦那が憎かった。」ってね。


ジュリーは母親に聞いたわ「その子供は元旦那さんだったの?」って。

もちろん、答えはノー。


ジュリーはワケがわからなかった。


川の妖精は生き物に「命である水」を与える存在で、同時に「命を奪う水」という存在なのね。


だけど、ジュリーの住んでいる川は氾濫することもなくいつも穏やかに流れていて、ジュリーは常に「命を与える側」だった。


ジュリーは意味もなく悲しくなって泣いたの。


泣き止む頃には母親は居なくなっていた。


子供の遺体に寄り添って、ジュリーは「見せかけの幸せな世界」が壊れてしまった事がわかったの。


ジュリーは孤独だった。


だけど環境のおかげで幸せだったことに気が付いたの。

「もう悲しい思いをするのは嫌だ」って。



ジュリーはそれからというもの、子供をさらうようになったわ。

それも親に虐待されている子供だったり、無理やり働かされている子供ばかり。

親は怒るわね。


ジュリーの姿を目撃して、ついにはジュリーの住んでいる川まで大人が大挙してやってきたわ。

さらわれた子供を取り戻しにね。

取り戻して虐待したり労働させるために。


意味がわからない。


ジュリーは水を使った剣を主体にして大人と戦ったわ。


やってきた大人の大半はジュリーの敵じゃなかった。


体格差なんてなかったように大人を手玉にとり、やってきた大人の全ての命を奪ったわ。


ジュリーには天賦の才があったのね。


やがて、事を重く見た国が動き、騎士団がジュリーの川にやってきた。

剣と魔法のスペシャリストの騎士団が中隊クラスで100人くらい。


それでもジュリーは魔法を使わず、剣で騎士団を一人、また一人と倒していった。

騎士団の最後の一人にジュリーは言ったわ


「私の名は、ジュリー。このドビー川の妖精。生きる喜びを与え、生きる悲しみを奪うもの。私の領域に手を出すものは、何人たりとも慈悲なき死を迎えるだろう。君はこのことを人族の皆に伝えるんだ。そして、恵まれない子供はすべて私が引き取ろう」


ジュリーの顔は真剣そのものだった。


私は、城に這う這うの体で戻ると、騎士団が全滅したこと。


魔法が得意な妖精が一切の魔法を使わず、何倍も大きな私達をいとも簡単に剣で倒していったこと。

さらわれた子供は、人間ではなく妖精になっていたこと。

二度と手を出すべきではなく、ジュリーの行いを正しいと認めることを私は懇願したわ。


でも、新米だった私はクビ。


それから7回の遠征が行われたけど、生還者は常に一人しかいない。


いつからか、こう呼ばれるようになったわ。


妖精剣姫ジュリー・ドビーってね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る