第29話 白馬に乗って



「待っててくれたんだ!」


「へぇ。律儀なところあるんだねぇ」


僕は優しく真っ白な馬を撫でて、ミレイユはふわふわと顔を覗き込んでいる。


「あのさ。僕たち世界を見て回るんだけど、一緒に来てくれない?もちろん、無理はさせないし、無茶もさせない。そうだね、完全週休二日制で、食事はちゃんと提供するって条件でどうかな?」


「また?なにカンゼンシューキューなんとかって?」


「ああ、7日間のうち2日間は絶対にお休みするよってことだよ」


「なんで?」


「なんで?って言われても…。働き続けたら疲れて生産性上がんないから?」


「ふーん」


「鞍ないけど、乗せてもらえたりする?」


真っ白い馬が優しい目で僕を見てくる。

なんだか「任せろ」と言ってる気がしてくる。


「ミレイユ。僕はこの馬に名前を付けるよ」


「名前ねぇ。シュンって名付けのセンスあるの?」


「うーん。白い馬だし、スーかな?」


「スー?なんか意味とかあるの?」


「意味?知らないよ?ただ、僕が知ってるというか、僕世代が知ってる白い馬といえば、スーから始まる白い馬しかいないんだよ」


僕は真っ白な馬に「スー」と名付け、たてがみを撫でて名前を呼んだ。


移動手段としての馬は手に入ったけど、鞍がないから結局、一緒に歩くことになった。

近場で鞍を調達しなきゃなぁ。


「ふーん。ときどきシュンってさ、本当に意味わかんないこというよね?慣れてきたと思ったけど、やっぱり慣れてないよ。意味不明だもん」


ミレイユは落ちる心配もないから、スーの背中に座ってゆらゆらと揺られている。


「あのさ…ミレイユに一つ聞いてもいい?」


風の抜ける音、僕の足音の他に、馬のスーの足音が混ざった、穏やかな道のりで僕は口を開いた。


「なに?」


「この世界でね、例えばね、例えばだよ?例えば、馬が人になったりする?」


「この馬が人になるかってこと?はぁぁぁぁ…」


「デカいため息が出てますよ、ミレイユさん?」


「いやいや、ちょっとさ。シュンの頭の中がどうなってるのか見てみたいよ。どうしたら馬が人になるわけ?」


「いや、なんか魔法的な力とかで?」


「なると思う?」


「普通はならないと思うよ?」


「そうだね、ならないよね?じゃあ、なんで聞いたの?」


「だって、妖精がいるから、馬が人になってもおかしくないかなって」


「いや、それ比較がおかしいとおもわないの?」


「妖精と馬が人になる比較?同じでしょ。ファンタジーだもん」


「だもん、じゃないよ。事実と妄想を一緒にしちゃダメだよ?」


「うわっ。なんか生暖かい目になってる!」


「シュンに守ってもらってるってゆーより、シュンのお守りね。よちよち、大丈夫でちゅよー」


「…。ママになってくれるってことかい?」


「なるわけないでしょ!」


ラサを飛び出して、白い馬のスーが増えて、順調満帆な僕たちの前に


次の村が次第に見えてきた。

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