第27話 世は情け



朝日が背中の方から昇っていく。

この世界でも太陽は東から昇り、西に沈む。


ただし、月は2つある。



自室の窓から見えていた、ゆるやかな丘に続く街道を、僕は歩いていた。

立ち止まり、振り返ると、ラサの村が遠くに見える。



「どうしたの?シュン?」


「うん。あー。そうだね、少しだけ感傷に浸ってた…かな?」


「どうする?戻る?」


「その選択肢はないよ。僕はこの世界を見て回りたいからね」


「そっか。じゃあいいんじゃない?西のヴァリオニアで何かやりたいこととかあるの?」


「今はないかな?やりたいことが見つかればなりゆきで」


「結構、適当ねぇ」


「適当?えー?そうかな?」



踵を返すと再び僕は歩き出した。

ミレイユはふわふわと飛んでいる。

丈の短いドレスからスラっとした足が伸びているのはいいんだけど、下着が見えそうなのが僕にはかなりこたえる。



「あのさ…」


「なに?」


「一つ聞きたいんだけど、いいかな?」


「いいよ?なに?」


「いや、大したことじゃないんだけど、ミレイユと召喚契約したよね?召喚魔法を使えばいつでも呼び出せるんだし、ミレイユの好きなように過ごしててもいいんじゃなかな?って」


「つまり…。シュンは、アタシが邪魔っていいたいわけね?」


顔の正面に回ってきたミレイユは、いたずらっ子みたいな顔で、いじわるな事を言い出した。



「いやいやいやいや!違うよ!純粋に一緒に旅してくれるのは嬉しいんだけど、ミレイユは大丈夫なのかなって」


「そうね。シュンも知っての通り、アタシは弱い弱い妖精さんなわけ」


「弱くなくない?結構、強いと思うんだけど?」


「ううん。弱い妖精の中でも更に呪いで成長できないアタシは最弱といえるわね」


「花魔法?いろんな種類のもの使ってるし、電撃だって使ってるけど、あれは違うの?」


そうねって言いながらミレイユが腕を組んだから、胸がより強調される。

目のやりばに困るからやめて…


「初級クラスよ。どれもこれもね」


「でも、村全体を昏倒させたりとかすごくない?」


「ううん。すごくないのよ。初級クラスの花魔法って、咲いてる花がないと使えないし」


「そっかー。僕も限定召喚魔法と限定魅了しかないし、ミレイユも花がないと花魔法は使えない…」


「そうよ。だから道中は魔獣、魔物はもちろんだけど。野生の動物や、盗賊とかにも気を付けないとダメだよ?」


「おー。意外にハードモードだなぁ」


「なによ?それ。ハードモード?」


「あぁ。うん。困難な旅だなって。生まれた場所はよかったけど、家もよくなかったし。それ考えるとベリーハードとか、ナイトメアでもいいかもしれないね」


「よくわかんないけど、本当に気を付けてね。アタシ、まだ死にたくないし」


ミレイユがビシッという擬音が付きそうな勢いで僕を指さすと、ハート型に開いたドレスの胸元がぷるんと揺れた。


「ちょっと!何、ニヤけてんのよ!シュンて子供のクセにえっちすぎるわ」


「いやいや。違うって」


「違うくない!」


「そもそもだけど、なんでそんな胸元を強調するショートドレス着てるわけ?」


「なんでって、オシャレのために決まってるでしょ?シュンには、「オシャレ」早かったかなー?お子様だし?」


「ぐ…」



何も言い返せない。

前世の僕は服に無頓着すぎて、いつも母さんが買ってきた服を着ていた。

成人式のスーツや、起業したときのスーツもそう。


「ふふんっ♪シュンももう少し大きくなったらオシャレすればいいのよ」


ミレイユの勝ち誇った声をかき消すような馬のいななきが聞こえ


僕は走り出した。

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