第26話 旅は道連れ



「じゃあ、行ってきます」



転生した僕と、記憶の戻った僕の住んでいた家。

準備にそんな時間はいらなかった。


パンパンに膨れたナップザックを背負おうと、玄関をそっと閉めて、西の街道の方へ向かった。


「自警団の連中に絡まれたくないな。面倒くさそうだし…」


「え?なんで?昏倒させちゃえばよくない?」


「いや、だって、こっちの道を通ったってバレたら、後から追ってきそうじゃない?あとあと面倒くさくない?」


「だね。じゃあ、全部まるごと、まとめて昏倒させちゃお!」


「え?できるの?そんなこと?」


「なによ?疑ってんの?簡単よ。待ってなさい」


ミレイユがふわっと飛び上がって、なにかぶつぶつ言ってる。

詳しくわからないんだけど、ヨガとかやってそうな人が好きそうな匂いがする。

お香ってやつだ。



「さ、もういいわよ。行きましょ」


「え?なにがいいの?」


「面倒くさいから、眠らせた!」


「眠らせたって、詰所?」


「ううん、この村、全部」


すっげぇいい笑顔なんだけど。



「……。そっか」


「すごいでしょ?」


うん、すっげぇいい笑顔でこっちを見てる。


「さすがっす!ミレイユさん!」


「……」


「ちょっと、シュン。何よ、アンタ。アタシをバカにしてるわけ?」


「また?違うって!なんだか褒めて欲しいって顔してたし」


「それなら、ちゃんと褒めなさいよ。何よ、さすがっす!って。子供のうちからそんな褒め方しかできないと碌な大人にならないわ」


「ごめん…」


「ごめんはいいわ。アタシの気分が良くなるように褒めてみなさいよ!」


「えー」


「えー。って何よ。えー。じゃないの!ホラ!」


「うーん。じゃあ、ミレイユはすごいな!呪いがかかってるなんて言ってたけど、万能じゃないか!僕はこれ以上ないってくらい心強い妖精と一緒に旅できるなんて、めちゃラッキーじゃないか!」


「棒読みじゃない。もっと練習なさい」


ミレイユはぶつぶつ言ってたけど、満更でもないって笑顔をしていた。


「あのさ。召喚契約もなんだけど、この前の回復する花魔法?とかさ、両親を昏倒させたりとか。なんでそんな僕に優しくしてくれるの?」


「変なタイミングでそれ聞くのね?シュンってさ、よく空気読めないって言われるでしょ?」


「言われるかな?主にミレイユから」


「いや、アタシじゃなくて。友達とか知ってる人とかから」


「そうだねぇ。僕、友達いないし。ってか一人いたけど、そいつは空気読めなくても気にしてなかった気がする」


「うーん。その友達もアタシと同じね。保護者よ。保護者の精神よ。間違いなく」


「保護者って、ミレイユが?」


「何よ?何か不満でもあるわけ?」


「いや、ないよ。ないない。うん、不満なんてないよ」



僕とミレイユが雑談をしながら進んだ先には、村を囲むバリケードが見えてきた。


村と村の外の間を仕切る丸太を組んで作られた魔獣除けのバリケードが続く中に、街道に繋がる道にだけ小さな関所と自警団の詰所がある。


ミレイユを疑うわけじゃないけど、喉を鳴らし、そっと詰所を覗き込む。

イスから崩れ落ちて眠っている自警団のメンバーがいた。


「なに?もしかして疑ってた?」


「違うよ」


ミレイユの声を背中に受けて、小さな関所に向かって馬車のワダチでぼこぼこの道を歩く。


「お別れだね」


「そうなの?」


牧場で見るような丸太が横倒しになったバリケードを乗り越えて、街道側に立った。


「外ね」


「外だね。じゃあ……。行きますか」


一歩は一歩、何も変わらない。


だけど、僕は西に続く街道を一歩踏み出した。

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