旅立ち編

第25話 旅立ちの朝



「あのさ、本当に西のヴァリオニアに向かうの?まだ間に合うからさ、やめにしない?」


床に広げた道具を、一つずつ確認しながらナップザックに詰め込む。

ロープはいるだろうか?と思いつつも僕はこたえる。


「そうだね、本当に行くつもりだよ。だからやめにはできないかな」


「え~~~。だって、西の国は北の国と戦争してるでしょ?東の方に行こうよ!」


「うん。でも決めたことだから」


僕は部屋の外に広がる世界を眺める。



なおも不満げな声があがるけど、僕の心はワクワクとドキドキが交錯していた。

村の外には、町まで続く街道がある。

その街道は村の西側から、ずっと続いている。


僕はこの村を出て冒険の旅に出るんだ!そんなことを思っていると、髪の毛を引っ張って、ミレイユは続ける。


「もう!ちょっとはこっちを見て話しなさいよ!」

なんだよって言いながら視線を上げると、両手を腰に当ててぷりぷりと怒っている姿が見えた。


「もう!あのね!優しい優しいアタシはずーっと言わなかったけど、今日こそは言わせてもらうわ!」


真剣な表情の紫色の瞳。ほっぺが膨らんでいる。

あっこれ、怒ってる。


飛べるくせに、丈の短いドレスを着てるから、ドレスがひらひら舞っている。


「いいよ。大体言いたいことはわかってるよ」


下着が見えそう!と思って、反射的に僕はカバンに視線を落とす。


「あー。またそうやって逃げる!ダメだよ!ちゃんと年長者の話しには耳を傾けるべきだよ!」


僕の眼前にフワッと飛んできた。

ドレスの胸元はハート型に開いているから、たわわな膨らみが僕の目の前で主張している。

揺れながら。


「わかった。聞く!話し、聞くから!いったん、離れよう!」


「OK!いいこね!」


羽ばたきをやめ、ストンとカバンに座りつつ、スラっとした脚を格好つけて組む。


なんだよ。脚組むときに、下着、見えちゃったじゃん。



そして、僕がヴァリオニアに向かうことがいかに無謀であるか?のお説教が始まる。


「出会ったときもそう!アタシがハチミツ酒で酔っていなかったら、シュンくらいはボコボコにできたのよ?」


「いやいやいや、さすがにそれはないよ!さすがに僕でもミレイユには負ける気がしないって...」


「カッチーン!あー!言ったわね。後悔させちゃうからね!今のアタシはパーフェクトなのよ?」


「あ、いや、ちょっと待って!また、なんで突然キレてんの!」


「ダメよ!待たない!さぁ、シュン。選びなさい。ビリビリかスヤスヤか…それともビリビリか」


「ちょっと!ビリビリが2回あったって!」


「そう?気のせいよ。【紫電の槍】」


ミレイユの指先から紫電がほとばしる。

静電気クラスのビリビリが全身を駆け抜けた後に、パンッという音が響いた。


めちゃくちゃ痛いわけじゃないけど、痛いものは痛いから苦手だ。


「ごめんね」


「いい?次はないわよ!心して聞きなさい!」


こうして花の妖精であるミレイユは、のんきな昼下がりからハチミツ酒を飲みつつ僕にお説教を始めるのだった。


だけど、僕は冒険に出ると心に決めていた。

ミレイユもそれは理解しているから、ある意味、このお説教はポーズに近い。


延々とお説教が続くミレイユの端正な顔を眺めながら、僕の意識は今朝の出来事に思いを馳せた。



父と母は起きられない。


正確には、ミレイユの花魔法(昏倒)の効果で2日は目が覚めることができない。


僕はもう村を出る。


そして、ここには帰らないつもりだった。

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